運命を見る易者
お待たせいたしました。
また登場人物が増えてしまい、困っています(汗)
一応(って言ったら怒られそうですけど)、希少な3人目の女性キャラ“占い師”満を持してのご登場です!
時間は少し戻って、『お人好しな商人』と『危険な商人』の間辺りです。
『最終処理場』の南に、“羅朽門”と呼ばれる朽ち果てた大きな屋敷がある。そこは、とあるグループ――――――世間知らずな上に間抜けな商人をカモにしたはいいが、何者かに襲われてそいつを逃がしてしまった、占い師率いる一団――――――の、アジトとなっていた。
リーダーである占い師の老婆、“朽縄”と呼ばれる名の知れた詐欺師は、大きく舌打ちをして、怪我を負っていない他の仲間たちに言った。
「この落とし前はきっちりつけなきゃあいけないよ・・・。あんたら、わかってるね?! あの間抜けな僕ちゃんを探すんだよ! どんな手 使ってでも、見つけ出しな!」
「「おうっ!」」
「見つけたら必ず報告しな! 決して、先走んじゃないよ! いいね!」
「「おぉうっ!!」」
「それじゃ、気合い入れて行きなっ!!」
「「おおおおおぉっ!!」」
男たちの声に、ぼろ屋の壁がびりびりと震えた。
夜の12時を過ぎた頃だった。
「た、大変だ、お頭っ!」
羅朽門に、一団の数人が駆け込んできた。
「どうしたんだい?何があった。」
「そ、その・・・・・・実は、ええと、あの・・・どう言ったらいいのか・・・・・・。」
と、男は口ごもる。占い師はピシャッと膝を叩いて、
「はっきりお言い。グズは嫌いだよ。さぁ、何があった?」
「あ、はいっ・・・。ええと、例のカモを見つけたんスけど・・・・・・」
「見つけたのかい!よくやったね。――――で、何が問題なんだって?」
「それが・・・・・・何故か、その、カモと一緒に・・・・・・“蜃気楼の旦那”がいたんスよ・・・。」
「な――――んだってっ?!」
“蜃気楼”――――――その名は、占い師が一番聞きたくない名前だった。
「カモと旦那は知り合いのようで・・・なんか、仲良さげに話してたッス。で、“地下鏡の広場”に入っていきました。今はとりあえず、何人か見張りを付けておいてあるッス。」
「そうかい・・・・・・。」
占い師はそう言ったきり、黙り込んだ。
“蜃気楼”とは、彼の暗殺者の名前だ。その名は代々受け継がれ、何十年・何百年も昔から、裏の社会で異様な存在感を放ち続けているのである。“蜃気楼”の名に“旦那”がセットでくっついてくるのは、それ故である。
(何年か前に代替わりしたとは聞いていたが・・・・・・そうか、この町におったのか。――――――新しい蜃気楼と面識はないが、な。)
占い師はすっくと立ち上がると、居丈高に命じた。
「こいつぁチャンスだよ! その坊やと“蜃気楼”、両方いっぺんに潰せるんだ! これを逃す手はないね。――――――いいかい、急いて事を仕損じるんじゃないよ。しばらくはバレないように見張ってな。機を見て、坊やの方を拐ってくるんだ。いいね?!」
「ウスッ!」
やってきた部下の男は、威勢よく返し、羅朽門を飛び出していった。
見送りもせず、占い師は元通り腰かけて、水晶玉を手にした。小さな傷が入った、年季の入った物だ。それを撫でると、昔のことが思い出される。
(懐かしい・・・・・・奴には、一代前の蜃気楼には、ずいぶん酷い目に合わされたからねぇ。この恨み、晴らさずに死ぬわけにゃ、いかないよ・・・。)
「覚えておれよ、“蜃気楼”・・・・・・。」
水晶玉を強く握りしめ、占い師は不気味に笑った。それから、ふと手の中を見ると、何か思うところあったのか水晶玉に片手をかざした。
「ひとつ、本気で占ってみようかね。――――――【アルフレイグル・アルフバレリオ・バラル・ウンボ・ビレ・ぺリオ・バラボ・ビレ!】」
占い師が謎の呪文を唱えると、どこかから生まれた細かな金色の粒子がキラキラと水晶玉にまとわりついて、しばらくして、透明な玉の中に黒い“もや”が出てきた。その“もや”は形を変え、2つに分かれ、3つに分かれ、また1つになり―――――――――と繰り返し、やがて消えた。
「ふぅん・・・・・・・・・なるほど、面白い。そういうことなら、私も出ようかね。」
どんな未来が、過去が、現在が見えたのかは、占い師にしか分からない。
ただ、老婆は歳を忘れたように、若々しく、楽しげに笑って、アジトを出ていったのだった。
「――――――喜劇となるか、悲劇となるか・・・。ま、そこんところは、」
“神のみぞ知る”ってやつさね。
ありがとうございました。
次回は盗人くんのご登場です! 時系列としては、この話の少し後、『危険な商人』の少し前です。




