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王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第2章
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危険な商人

 

 変装道具を貸し、やり方をみっちり教え込んだ暗殺者は、商人とともに『最終処理場(ダストボックス)』の夜道を歩いていた。

 商人が言う。


「送ってくれてありがとう、ザック。でも僕、大丈夫だよ!1人で帰れるから、」

「いや、ここを抜けるまでは一緒に行こう。」


 暗殺者は、変な責任感から即答した。

 真夜中の『最終処理場(ダストボックス)』を、この、度が過ぎてお人好しな商人1人で歩かせるわけにはいかない。


(文無しにされるくらいで済めば、儲け物だ・・・・・・。)


 どんな悪人でも眠りに就く丑三つ時、というのは恐ろしいもので、この時間に“小物”は出歩かない。この時間は、悪人を食い物にする“極悪人”の活動時間なのである。


(あまり他人のことは言えないが、な。)


 さりげなく辺りに視線を飛ばし、闇に潜んでこちらの隙を窺ってくる輩を牽制する。

 大抵の奴等は暗殺者の存在に気付くと、舌打ちをしながらその場を去った。彼はこの辺りでも名の知れた暗殺者なので、自殺志願者かただの馬鹿以外で無闇に手を出そうとする者はいなかった。

 すなわち、


「あ、蜃気楼の旦那ぁ~こんばんわぁっす!」


 気さくに声をかけてきたこいつは、“馬鹿”の部類に入るのだろう。

 暗殺者はちょっと眉をひそめて、やってきたその男を見遣った。


「・・・・・・(ラット)か。何の用だ?」

「へっへぇ、相変わらずつれねぇ返事ですなぁ、旦那ぁ。――――――実はぁ、ちょいと相談してぇことがありやしてぇ・・・―――――」


 と、へらへら笑って手もみしながらすり寄ってきた、“鼠”と呼ばれた男が、暗殺者の隣にいた商人を見て、ぎょっとした顔になり跳び退った。


「って、ててててててて、てめぇはぁっ!!」

「へっ?――――――・・・あ、」


 突然指差され、きょとんとした顔になった商人だったが、鼠をまじまじと見つめ――――――鼠の顔に見覚えはなかったが、彼が背に隠した鞄を見つけて―――――――叫んだ。


「あああっ!僕の鞄っ!!」

「ば、爆弾魔だぁっ!!」


 商人と同時に叫んだ鼠―――盗人は、素早く背を向けた。捕まえようと伸ばした暗殺者の手を、紙一重の差ですり抜けて、一心不乱に駆け出すと、路地に飛び込んで姿を消した。


「・・・ちっ。追うぞっ!」

「えっ?!―――あ、うんっ!」


 暗殺者も走り出した。差はだいぶ開いていたが、暗殺者にとって、この程度の距離の差はなんてことなかった。どこの路地に入って行ったかもわかっている。暗殺者は地面を強く蹴って加速し、あっという間にトップスピードに乗ると、盗人を追って路地に入った。


「待ってよ、ザック~っ。」


 商人のために、と、商人のことをすっかり忘れて。



 さて、必至に追いすがったにも関わらず、あっさり置いていかれてしまった商人は、道にも迷ってしまい、1人『最終処理場(ダストボックス)』をさまよっていた。このお人好しを1人で歩かせるわけにはいかない、と言っていたのはどこのどいつだったか。そしてそいつは今どこにいると言うのだろうか。

 とにもかくにも、1人取り残された商人は、途方に暮れながらも―――――迷子になったら動かない方がいい、というセオリーを忘れて、――――――歩き続けていた。


(う~ん・・・・・・どうしようかなぁ。ザック、どこに行っちゃったんだろう・・・・・・。)


 泣き出す寸前の子供のような、情けない顔になって、商人は呟く。


「困ったなぁ・・・。」

「おや、お困りかい、お兄さん?」


 どこかから声をかけられて、商人はびくりと足を止めた。聞き覚えのある声。つい数時間前に聞いた記憶が、確かにある。

 これはマズイんじゃないか、と思った商人は、振り返りもせずに走り出した。――――――が、目の前の路地から出てきた人々に行く先を阻まれ、たたらを踏む。現れた屈強な体の男たちは、ほとんど皆 腕やら足やらに包帯を巻いていた。占い師とその他の一団である。気付くと商人は、その柄の悪い一団にすっかり囲まれてしまっていた。


「よ~お、まぁた会ったな、兄ちゃ~ん。」

「まぁさか、おめぇさんが蜃気楼の旦那の知り合いだったたぁなぁ。」

「えっ・・・・・・あ、その・・・・・。」

「さぁて、お兄さん?ちょいと来てくれるかい?――――――【眠りな】」


 老婆の囁く声が真後ろから聞こえ、次の瞬間、商人の視界は真っ暗闇に閉ざされた。

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