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王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第1章
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善人王子

「よしっ、完璧だ!」


 城を抜け出し、ついでにとある仕掛けも施し、一般市民に紛れ込んだ一国の王子は、ガッツポーズをした。彼の着ている物はできる限り庶民的な目立たないものだったが、その質が明らかに違うため、周りの視線が突き刺さっている。しかし、衆目に晒されることに慣れきっている彼にとっては、この程度の注目など取るに足らないものだった。


「さぁて、こっからどうやって出ようかな。」


 この国は、彼が生まれたその時から、絶賛鎖国中の王国であった。出入国をするには、特別な許可証がなければいけない。そしてそれを取得するには、多額の金と、商人証か貴族特権を使う必要がある。


「金はあるけど・・・・・・身元は明かせないからなー。商人証も無いし。」


 脱走王子の分際で、堂々と王族特権を使うわけにはいかない。使えば確実に発行してもらえるが。それどころか、無料で出してもらえると思うが。


「うーん、どうしよう・・・・・・。」


 と、考えながら歩いていた所為だろう。前から、


「どけどけどけどけーっ!!」


 と叫びながら、大きなバックを抱えて走ってくる男にまったく気付かず、思いっきりぶつかって、尻餅を突いた。


「うわっ!」

「ちっ、ボケッとしてんじゃねぇよっ!!」


 地面にペッ、と唾を吐いて、男は走り去っていった。

 それを冷たい目で見送って、王子はゆっくりと立ち上がった。その手に、ズシリと重たい財布を握って。


「ふんっ。置き引きだなんてセコい真似、しないでもらいたいものだね。」


 男が抱えていたバックは、その身なりに見合わぬきちんとしたもので、一目で盗品だと分かった。

 彼は犯罪が嫌いだ。特に、置き引きやら“スリ”やら、そういう“セコい”ものが大嫌いだった。

 だからと言って、盗品のバックから財布をスルのはどうかと思う。まさに、“本末転倒”というものではないかと思うのだが、彼はそんなこと全く気にしていない様子で、財布の中身を物色し始めた。


「へぇ、けっこう入っているじゃないか・・・・・・―――――――――お?おぉ?!」


 彼は思わず、王子らしからぬ声を上げた。財布の中に、自分の求めていた物が入っていたからだ。


「商人証に、出国許可証・・・・・・!」


 どうやら、間抜けな商人が置き引きに遭ったらしい。その犯人に偶然、王子が出会い、ほんの出来心でスッた財布に、求めている物が入っていた・・・・・・なんたる偶然だろうか。まるで、


(まるで、私に『国を出ろ!』と言っているようではないか!)


 浮き足立ちニヤける王子を、人々は怪訝そうに見ていた。

 ところが、はたと我に返った王子は、初めて常識人らしいことを思った。


(これの持ち主は・・・・・・困っているだろうな・・・。)


 許可証と商人証と金を同時に無くし、国から出れなくなってしまった商人が、この国のどこかで途方に暮れているのかと思うと、王子の心は締め付けられるようだった。

 財布を手に、迷ったのは一瞬。


「・・・・・・探すか。」


 犯罪ならば担当の兵団に聞くのが一番早いが、立場が立場のために下手なことは出来ない。


(・・・とりあえず、近くの店か酒場に情報を求めてみよう。)


 そう決めて、王子は唯一名前を知っている酒場に行くことにした。

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