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王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第1章
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国王と父親


王様視点でお送りします。



 

 嫌な予感がする。


(さぁて、私もそろそろ死に時か?)


 国王はそう思った。

 第1王子に身体能力とカリスマが、第2王女に聡明さが、第3王子に慧眼があるように、彼らの父親である国王陛下には、先見の明があった。


(死ぬならば・・・・・・そうだな、やり残しをできる限り減らさなければな。)


 国王は、王として冠を被った瞬間から、死への覚悟を持っていた。

“悪政を敷けば民に

 悪業を働けば臣下に”

 刺されるぞ、と散々 言い聞かされてきた。


(まぁ、善政をしたって刺されるときは刺されるのだけどな。)


 邪魔に思う者が1人いれば、刺される運命にあるのが国王である。

 覚悟は、している。

 国王は、早急に処理しなければならない書類をあらかた片付け終わると、部屋を出た。その後ろを、従者が付いてくる。


(まずは・・・・・・シルヴィアかな。)


 一人娘の部屋へ向かう。

 時間はまだ、そう遅くはない。寝てはいないだろう。

 部屋の前には、騎士が2人 並んで立っていて、国王の姿を見て慌てて敬礼をした。

 軽く頷き返し、部屋のドアをノックする。国王は、中からの反応を待たずに、


「私だ、入るぞ。」


 と一方的に宣言して、ドアを開けた。

 寝間着姿の第2王女が、慌てて振り返って険のある顔で国王を睨んだ。


「ちょっ・・・・・・お父様?!乙女の部屋に不法侵入とは、万死に値しますわよ!」

「何を言っている、シルヴィア。不法侵入ではないぞ。きちんと、ノックしただろう?」

「返答するのをお待ちになってくださいな。でないと、ノックの意味が無いと思いません?」

「ふむ、一理あるな。」

「一理どころの騒ぎではありません。常識です。」

「ところでシルヴィア。アリシアはどうした?」

「今宵は非番ですわ。――――ご安心くださいませ。どこかの誰かさんのように、嵌めるために休みを取らせたわけではありませんから。」


 椅子を勧めながら、皮肉を込めて素っ気なく返したシルヴィア。国王はわざとらしく咳をしつつ、勧められた席に着いた。


「ところで、どうかなさいましたか?お父様。珍しいですわね、わざわざ訪ねて来られるだなんて。呼んでくだされば伺いましたのに。」

「む、何を言う。女性の独り歩きは危険じゃないか。何が起きるとも分からんのに。城の中とはいえ、油断は大敵だからな。」

「・・・・・・そこは気遣うのですね・・・。」

「ん?何か言ったか?」

「いいえ何にも。それで?まさか、雑談をなさるために来られたわけではないのでしょう?」

「なんだ、忙しかったか?」

「いえ、そういうわけではありませんけど・・・・・・。まさか、本当に、雑談をしに?」

「あぁ。」


 堂々と頷いた国王を前に、王女は呆れた表情になって溜め息をついた。

 ―――――しかし、満更でも無かったらしい。なにせ久々の親子での交流だ。王女は、内心では嬉しがっているように見えた。


 しばし、雑談に興じ、国王は席を立った。


「あら、もうお戻りになられますの?」

「乙女の部屋に長居は無用であろう?―――――なんだ、もっといて欲しいのか?」

「えぇ。なかなか、このような機会はありませんから。」


 からかったつもりで言った言葉に、素直に返されて、国王は言葉を失った。

 第2王女は“してやったり”というような笑顔で言う。


「お父様がご多忙であることは、重々、承知しておりますわ。お父様のなさっている政治は、王女として誇れるものです。―――――ですが、娘として言わせていただけるのならば、」


 と、王女は、笑顔の中に心配を滲ませた。


「―――――お父様は働きすぎですわ。たまにはゆっくりと、休まれたらいかがです?お父様の周りの臣下たちは、みな優秀です。多少 丸投げしたところできちんと受け止めてくださいますわよ?ですから、倒れる前に休まれてください。」


 父親が過労死だなんて、嫌ですわ―――――――第2王女はそう言って、恥ずかしそうにそっぽを向く。


「・・・・・・・・・。」


 国王は、何も言えずに立ちすくんでいた。

 黙り込んだ国王をいぶかしみ、王女が首を傾げて顔を覗き込む。


「―――――お父様?」

「っ。あぁ、いや・・・・・・。」


 国王ははたと我に返り、微笑み返した。


「ありがとう、シルヴィア。」

「・・・・・・別に、娘として当然のことですわ。」

「そうか。―――――ではな。おやすみ、シルヴィア。」

「おやすみなさいませ、お父様。また明日。」


 “また明日。”

 国王はその言葉には答えずに、部屋を後にした。




***




 第3王子の部屋の前には、誰もいなかった。


(ふむ。忘れられているにも程があるな。)


 そう思いつつ、国王はドアをノックした。そして、王女の時と同じように、一方的に宣言して―――――しようとして、出鼻をくじかれた。国王が何を言うより先に、


「お入りください、お父様。」


 と、第3王子が中から言ったからである。まるで、来訪が分かっていたかのような反応の良さだった。

 国王はちょっと面食らったが、咳払いをひとつして、


「入るぞ。」


 と、扉を開けた。

 澄ました顔で小首を傾げた第3王子が、椅子に座ったまま振り返っていた。国王は勧められた椅子に腰掛けた。


「どうかなさいましたか?珍しいですね、わざわざ来てくださるなんて。何か御用でしたら、呼んでくだされば良かったのに。」


 その言葉に国王は、さすが兄弟だな・・・・・・と思った。


「あぁ、いや別に。特に用事はない。」

「はい?」

「ただ、雑談をしに来ただけだ。忙しかったか?」

「いえ・・・・・・そんなことは・・・。」


 口下手な息子は口ごもりながら首を振った。


 ここでもしばし雑談に興じ、適当なところで切り上げて、国王は腰を上げた。


「ではな、カルディア。おやすみ。」

「はい、おやすみなさいませ、お父様。―――――その・・・また、お暇でしたら、来て、くださいね。ええと、その・・・きょ、今日は、嬉しかったです。お話・・・できて・・・。」


 照れくさそうに顔を俯けた第3王子にそう言われ、国王は言葉を失った。


「・・・・・・・・・。」


 黙って突っ立っている国王に気付き、第3王子が心配そうな顔で見上げた。


「―――――お・・・お父様?どうか・・・・・・なさいましたか?」

「っ、あぁ、いや、何でもない。じゃあな。」

「えぇ、それでは、また明日。」


 国王は黙って部屋を出ていった。




***




[国王の手記より]


 初めて、だ。


 初めて・・・・・・“死にたくない”と思ってしまった。


 知らないうちに、子供たちはきちんと育っていた。あまり、話さなかった今までの時間が、悔やまれる。


 もっと話せば良かった。


 もっと接していれば良かった。


 もっとこの子たちの・・・・・・いや、これは言うまい。こればかりは、言っても後悔にすらならない。


 さよならだ、私の愛しの子供たちよ。


 ひと足先に、ソフィアのもとへ行く。




***




 翌日――――――――国王の寝室に行った従者が、ベットの中で事切れている彼を発見した。

 



これにて、第一章 完結です!



後になっていろいろ付け足したりするかも知れませんが、その時はお知らせします。すみません。


とりあえず、一区切り付きました。


良かったです。完結に向けての大きな一歩です(たぶん。)



これからもどーぞ、よろしくお願いいたします!


 

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