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王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第1章
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変わり者の盗人

 盗んだ鞄を開け放ち、盗人は叫んだ。


「・・・な、なんじゃこりゃぁっ!」


 バックの中には、真っ黒い筒がたくさん入っていた。たくさんの筋が刻まれたその円柱は、ひやりと冷たく、かなり頑丈な造りとなっているようだ。

 盗人は思わず、バックを放り出して後ずさった。中の物ががしゃっと音を立て、「ひぃっ!」と飛び上がる。


(な、なななななぁー、なんで。なぁんで、こんなもんが入ってんだよぉ!)


 盗人は、そっちの方面には詳しくないのだが・・・・・・素人目に見ても、この黒い筒は、『爆弾』だと分かった。


(なぁんで、爆弾なんか・・・・・・持ってるんだよぉ~。)


 盗人はもはや半泣き状態である。それも当然のことだろう。薄暗く汚く狭い部屋に、自分と爆弾の2人(?)きり・・・・・・。


(やべぇよぉ・・・・・・やべぇよぉ~。どうするかぁ・・・・・・。)


 いくらなんでも、兵団に持ち込むわけにはいかない。入手経路も身分も、追及されたが最後である。

 だからと言って、このまま放っておくわけにもいくまい。もしも時限式だったら・・・・・・と考えると、震えが止まらなくなる。


(えぇーと、えぇ~とぉ・・・・・・・・・何か、手はぁ・・・・・・。)


 ボロ家の中で、頭を抱えて呻く盗人。かなり不審な光景である。

 必死に考え、考え、考えて・・・―――――――――。


「そうだぁっ!」


 閃きが脳裏を襲った。


(“あの場所”にぃ置いてこようっ!)


 それは、『最終処理場(ダストボックス)』のとある一角のことであった。

 空き家の群れのほぼ中心に位置するそこは、木の柵で囲まれており、無駄に広く、何故か地面にはガラスの嵌め込まれた穴がある。覗いてみても何も無い。皆、不思議に思っている謎の場所だ。


(あの場所ならぁ、問題ないだろぅ。)


 本当は二度と手にしたくないブツだが、処分するためだ、仕方がない。盗人はそう決心し、夜を待った。




***




 深夜。

 当然だが、辺りは真っ暗だ。

 白い月光が微かに、大地を彩っている。

 囲っている木の柵は低い。盗人はそれを軽々乗り越えて、中に侵入した。

 穴に嵌め込まれたガラスが月光を反射し、空間に不思議さをもたらしている。


(ホントにぃ、奇妙な場所だなぁ・・・。)


 盗人は眉をひそめながら、足音を忍ばせ、回りを警戒しつつ、中央付近まで進んだ。爆弾がどれほどの威力かは知らないが、『最終処理場』の近くに置いて、唯一 寝泊まり出来る場所を壊すのは嫌だった。

 だいぶ中程まで来て、盗人は足を止めた。


(―――――よぅし・・・ここまで来ればぁ、)


「そこに誰かいるのか?」

「っっっっっ!!」


 唐突に声が響き、盗人は度肝を抜かれた。


(わっ、わっ、わっ、やべっ、やべぇよぉ~!)


 慌てふためいた盗人が、回りを見回したが、誰もいない。そのことが逆に、盗人の頭を混乱させた。逃げることすら叶わない。

 声は続ける。


「いるんだろう?なぁ、聞こえているか?」

「あっ・・・あわっ・・・・・・あ、あぁあ・・・。」

「頼む。逃げないでくれ。話を聞いてくれないか?頼む・・・!」

「・・・・・・。」


 どうやらこの声は、地下―――――ガラスの向こうから、聞こえているらしい。そのことに気づいて、ようやく盗人は落ち着いた。

 そろり、そろり、と、声が聞こえた辺りに近寄る。ガラスを覗き込むと、1人の男がいた。どうやら、地下は部屋のような場所になっているらしい。真っ暗でよく見えなかった。盗人を見て、男はホッとしたような顔になった。


「あぁ、ありがとう。」

「・・・・・・話、ってぇなんでぇ?」


 何となく警戒して睨みながら、盗人は尋ねた。


「頼みたいことがあるのだ。もちろん、礼はする。」

「で?」

「―――――実は今、第1王子が暗殺されようとしている。」

「・・・・・・はぁ?」


 盗人は予想外の話に、すっとんきょうな声を上げた。


「暗殺されるのは明日・・・・・・いや、今日か?今は、何時だ?」

「えーとぉ・・・だいたい、12時くらいかぁ。」

「なら、今日だ。第1王子が、今日、暗殺されてしまう。私はそれを止めたいのだ。―――――力を、貸してくれないか?」


 盗人は言葉を失った。犯罪者が王子を救う?そんな話は聞いたことがない。しかし、


「頼むっ!貴方が、最後の望みなんだ。頼む・・・っ!!」

「・・・・・・・・・わ、わかったぁ。」


 爆発物所持の罪悪感もあったのだろう。男の必死さに負け、ついに頷いたのであった。

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