変わり者の盗人
盗んだ鞄を開け放ち、盗人は叫んだ。
「・・・な、なんじゃこりゃぁっ!」
バックの中には、真っ黒い筒がたくさん入っていた。たくさんの筋が刻まれたその円柱は、ひやりと冷たく、かなり頑丈な造りとなっているようだ。
盗人は思わず、バックを放り出して後ずさった。中の物ががしゃっと音を立て、「ひぃっ!」と飛び上がる。
(な、なななななぁー、なんで。なぁんで、こんなもんが入ってんだよぉ!)
盗人は、そっちの方面には詳しくないのだが・・・・・・素人目に見ても、この黒い筒は、『爆弾』だと分かった。
(なぁんで、爆弾なんか・・・・・・持ってるんだよぉ~。)
盗人はもはや半泣き状態である。それも当然のことだろう。薄暗く汚く狭い部屋に、自分と爆弾の2人(?)きり・・・・・・。
(やべぇよぉ・・・・・・やべぇよぉ~。どうするかぁ・・・・・・。)
いくらなんでも、兵団に持ち込むわけにはいかない。入手経路も身分も、追及されたが最後である。
だからと言って、このまま放っておくわけにもいくまい。もしも時限式だったら・・・・・・と考えると、震えが止まらなくなる。
(えぇーと、えぇ~とぉ・・・・・・・・・何か、手はぁ・・・・・・。)
ボロ家の中で、頭を抱えて呻く盗人。かなり不審な光景である。
必死に考え、考え、考えて・・・―――――――――。
「そうだぁっ!」
閃きが脳裏を襲った。
(“あの場所”にぃ置いてこようっ!)
それは、『最終処理場』のとある一角のことであった。
空き家の群れのほぼ中心に位置するそこは、木の柵で囲まれており、無駄に広く、何故か地面にはガラスの嵌め込まれた穴がある。覗いてみても何も無い。皆、不思議に思っている謎の場所だ。
(あの場所ならぁ、問題ないだろぅ。)
本当は二度と手にしたくないブツだが、処分するためだ、仕方がない。盗人はそう決心し、夜を待った。
***
深夜。
当然だが、辺りは真っ暗だ。
白い月光が微かに、大地を彩っている。
囲っている木の柵は低い。盗人はそれを軽々乗り越えて、中に侵入した。
穴に嵌め込まれたガラスが月光を反射し、空間に不思議さをもたらしている。
(ホントにぃ、奇妙な場所だなぁ・・・。)
盗人は眉をひそめながら、足音を忍ばせ、回りを警戒しつつ、中央付近まで進んだ。爆弾がどれほどの威力かは知らないが、『最終処理場』の近くに置いて、唯一 寝泊まり出来る場所を壊すのは嫌だった。
だいぶ中程まで来て、盗人は足を止めた。
(―――――よぅし・・・ここまで来ればぁ、)
「そこに誰かいるのか?」
「っっっっっ!!」
唐突に声が響き、盗人は度肝を抜かれた。
(わっ、わっ、わっ、やべっ、やべぇよぉ~!)
慌てふためいた盗人が、回りを見回したが、誰もいない。そのことが逆に、盗人の頭を混乱させた。逃げることすら叶わない。
声は続ける。
「いるんだろう?なぁ、聞こえているか?」
「あっ・・・あわっ・・・・・・あ、あぁあ・・・。」
「頼む。逃げないでくれ。話を聞いてくれないか?頼む・・・!」
「・・・・・・。」
どうやらこの声は、地下―――――ガラスの向こうから、聞こえているらしい。そのことに気づいて、ようやく盗人は落ち着いた。
そろり、そろり、と、声が聞こえた辺りに近寄る。ガラスを覗き込むと、1人の男がいた。どうやら、地下は部屋のような場所になっているらしい。真っ暗でよく見えなかった。盗人を見て、男はホッとしたような顔になった。
「あぁ、ありがとう。」
「・・・・・・話、ってぇなんでぇ?」
何となく警戒して睨みながら、盗人は尋ねた。
「頼みたいことがあるのだ。もちろん、礼はする。」
「で?」
「―――――実は今、第1王子が暗殺されようとしている。」
「・・・・・・はぁ?」
盗人は予想外の話に、すっとんきょうな声を上げた。
「暗殺されるのは明日・・・・・・いや、今日か?今は、何時だ?」
「えーとぉ・・・だいたい、12時くらいかぁ。」
「なら、今日だ。第1王子が、今日、暗殺されてしまう。私はそれを止めたいのだ。―――――力を、貸してくれないか?」
盗人は言葉を失った。犯罪者が王子を救う?そんな話は聞いたことがない。しかし、
「頼むっ!貴方が、最後の望みなんだ。頼む・・・っ!!」
「・・・・・・・・・わ、わかったぁ。」
爆発物所持の罪悪感もあったのだろう。男の必死さに負け、ついに頷いたのであった。




