陥る左大臣
すみません、後から付け足しました。
よろしくお願いしますm(_ _)m
「夜分遅くに失礼致します。王宮に勤めております従者が1人、ジキル、と申します。我が直属の主より、言伝てを預かって参りました。」
日が完全に暮れてから数時間が経ったある時に、左大臣の家にやって来た彼はそう言った。
左大臣は、彼を睨んで言った。
「お前の主、とは?」
「申し訳ありませんが、お教えすることはできません。ご想像にお任せ致します。」
「何故、言えないのだ?」
「主が望まれたことですので。」
「ふぅん・・・。」
左大臣は、訝しげに頷いた。そして、記憶を掘り返す――――――そういえば、似たような男を何処かで見たような気がする。はて、何処で、だったか・・・・・・――――――
「ところで、左大臣様。」
思い出そうと首を捻る左大臣の、思考を断ち切るようにして、従者の男が話しかけた。
「ん?なんだ。」
「非常に、言いにくい事なのですが――――――第1王子の側近が、賄賂を渡していたというお話をご存知ですか?」
「っ!!」
左大臣は、思わず息を飲んだ。さぁっ・・・と、左大臣の顔色が変わる。同時に、彼の脳裏には数年前のことが浮かんできていた――――――――――平民の出の男が、どうやって作ったのか、それなりの額の入った包みをさりげなく差し出して・・・『私のような平民では、到底辿り着けない高みに、貴方様のお力で、どうか、引き上げていただけませんか?』と・・・――――――――――左大臣はそれを受け取ったのだ。
その反応を見て確信に到ったのだろう。従者は口角を少し上げて、上目遣いで左大臣を見た。
「主は、貴方様の処遇を決めかねておいでです。今後のご活躍によっては、見逃そうかとも仰っておりましたが・・・・・・いかが致しますか?」
「・・・・・・・・・。」
真っ赤になっていた左大臣の顔は、すぐに真っ青に変わった。そして慌てて、
「ち、違う!違うんだっ!」
否定した。
「賄賂を受け取ったのは私“だけ”ではない!あ、いや、私ではない!何かの間違いではないのか?!大体、証拠はあるのかっ?無いだろう?証拠も無いのに・・・無闇に疑いを掛けるでない!!帰れ、帰ってくれっ!」
「ミシェル――――かの側近が、捕まったのはご存知でしょう?」
従者はたじろぐことなく、左大臣に詰め寄ると、低い声で捲し立てた。
「貴方様の目の前で、彼は連行されましたよね?陛下のお言葉も聞かれましたよね?賄賂のことが、陛下にバレていないとでもお思いですか?」
「・・・・・・・・・。」
「じきに、ミシェルに対する取り調べが始まるでしょう。ミシェルが話せば、全てのことは明るみになります。そうなれば、貴方様は失脚を免れ得ません。いいのですか?あのような小物の悪人と道連れになり、出世の道を外れる――――それが、貴方様の望みなのですか?・・・・・・このままでは、確実に貴方様は」
最低の人生を歩まれることになりますよ――――――――――従者は怖い顔をしてそう言い切った。
左大臣は、気持ち悪い浮遊感のようなものを感じて震えだす。膨れた腹の下とか、薄くなりつつある頭のてっぺんの辺りが、締め付けられるように熱い。そのくせ、手先や爪先の方は、キンッ・・・と冷えきって、死の予感のような感覚を携えているのである。
罪を知られた恐怖と焦燥に脂汗を流しながら、思わず従者の胸ぐらにすがりつき、左大臣は懇願した。
「た、頼む・・・・・・。頼む、黙っていてくれないか?!金なら――――金なら、いくらでも出す!だから、頼む!」
私の人生を終わらせないでくれ・・・――――――態度を急変させた左大臣に対し、従者は優しく語りかけた――――――ご安心ください。そうさせないために、私が参ったのですよ、左大臣様――――――悪魔のように。
「金銭は求めておりません。我が主が求めるのは、貴方様の無償のご協力です。」
「協、力・・・?」
「ええ。――――――協力、していただけますね?」
「ああ!もちろんだ!私に出来ることならば、何でもしよう!」
そうして、従者の言葉に含まれた意味も、彼らの目的も、彼が浮かべる笑みの裏も、何も考えずに左大臣は頷いたのである。
ありがとうございました(*^^*)




