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王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第1章
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苛立つ暗殺者

 思っていたよりも時間を食ってしまった。暗殺者は足早に家路を急いでいた。


(国王へのトラップは完璧だ・・・・・・あとは、第1王子だが・・・・・・。)


 第3王子の顔が頭をよぎった。ポケットには、彼から貰った指輪とブローチが入っている。押し付けられ、返しそびれてしまっていた。


(報酬を貰ってしまったからには、これは正式な依頼だ・・・・・・無視するわけにはいかない。が、しかし・・・・・・。)


 先約を達成すれば、第3王子の依頼は達成できない。

 初めて抱えた矛盾に苛々しながら、暗殺者はひたすらに歩いた。

 『最終処理場(ダストボックス)』は今日も雑然としている。いろんな人々があちらこちらから暗殺者に声を掛けてくるが、それらを全て無視して行く。いちいち構っていては何時間かかっても家に着けない。


(まったく・・・・・・面倒な街だ。)


 気楽だが面倒くさい。ここにも矛盾を見付け、さらに苛立つ暗殺者。

 その耳に、さらに苛立ちを助長させる声が聞こえてきた。


「イッヒヒヒヒヒヒヒ!」

「ギャ~ハッハッハハハハ!」

「ヒャッハハハハっ!!だっせぇ!」


 横の路地を見ると、そこにいたのはたちの悪い恐喝集団だった。占い師の格好をした老婆を頭とする奴らである。“占う”と言われて近付いたが最後、路地裏に連れ込まれ、身ぐるみ剥がされてしまう。


(また誰か引っ掛けられたのか・・・・・・。)


 しかし珍しい、と暗殺者は思った。

 奴らに引っ掛かる間抜けなど、『最終処理場』にはいない。だから、いつもは街の方に出て商売をしているというのに・・・・・・。

 不思議に思った暗殺者が、路地裏を覗き込み、


(っっ?!)


 息を飲んだ。

 引っ掛けられた“カモ”は、暗殺者の顔見知りだったのである。それは唯一の友人と呼べる人間―――――


(な・・・どうして、フェルがここにいる?!)


 ―――――アッサリ引っ掛かりそうな間抜け、もとい、お人好しの商人だった。

 暗殺者が戸惑ったのは一瞬のこと。

 次の瞬間には地を蹴って、路地に飛び込んでいた。

(殺しはしない・・・っ。)


 殺しに精通している暗殺者だからこそ、殺さずに済ます方法はいくらでも知っていた。

 無造作にナイフを投げ、振るう。


「―――――っ、ひっ、うわぁぁあああああっ!!」

「ぎゃあああああああああっ!」

「あ゛ぁあ゛ぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ツーテンポくらい遅れて、耳障りだった笑い声が悲鳴に変わった。奴らは、自身に何が起きたのか、まったく理解できていないだろう。それほど、暗殺者の業は速かった。

 それから暗殺者は、うずくまって動かない商人の腕を掴み、引きずるように路地裏から連れ出す。商人は引きずられるままに付いてきた。


(本当に、無防備な奴だな・・・。もし俺が、あんなチンピラどもとは比べ物にならない悪党だったら、どうするつもりなんだろうか。)


 と、事実 自分が悪党であることを棚に上げ、思う。

 暗殺者は顔をしかめ、溜め息をついた。


「―――――何をしている、フェル。」


 商人は顔を上げ、暗殺者を見ると、だらしなく頬を緩めた。ついさっきまで危ない状況に置かれていたというのに、そんなことなどまったく気にしていないように見える笑みである。


「あー、ザックだ。ようやく会えた。良かったぁ。」

「・・・・・・フェル。お前、呑気にも程があるぞ。」


 叱ろうと思っていた暗殺者は、商人のあまりの呑気さに勢いを削がれ、もう一度 深いため息をついた。


 

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