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王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第1章
19/90

悟る王子

 

舞台は酒場に戻ります。

久々に第1王子様のご登場ですね、はい。




 

 商人が出ていった後、王子はひとり、酒場でぼんやりとしていた。かき入れ時の酒場は多くの人で賑わっており、店主も忙しく走り回っている。


(そうか・・・・・・これが、“仕事”か。)


 時折 城下に来ることはあったが、これほど遅くまでいたことは無かった。ましてや酒場など、一応まだ未成年である王子には縁遠い場所だ。

 だからこそ、この賑わいを見て、働く人々を見て、そんなふうに思ったのである。


(ここには、今まさに働いてきた人々が集まっていて、また別の人々の働きによって癒されている。いろんな人々の働きが繋がって、1つの、1人の、生活をつくっている。)


 おそらく―――――これはあくまで、王子の推論に過ぎないのだが―――――ここにいる人々の中で、『自分が働くのは国のためだ。』と言う者はいないだろう。


(ただ、きっと、自分のため。誰かのために、働いているのだろうな・・・・・・。)


 王子は、初めて芯から理解したような気がした。

 帝王学として、庶民の生活については散々聞いてはいたし、学んできたが、


(やはり、実際に来てみないと、分からないものだな・・・。)


 庶民の生活が、これほど熱気のあるものだとは教わらなかった。


「・・・今度、シルヴィアを連れてきてみるか。」


 辛辣だが聡明な妹のことを思い出して、王子はそう呟いた。

 そのまま、ジュースとサンドイッチを片手に、だらだらと時間を潰す。その間にも、いろんな人々が出ては入りを繰り返し、酒場は一刻と同じ顔を見せない。

 くるくると変わっていく表情を興味深く見詰めていた王子は、不意に入ってきた身なりの良い女に気が付いた。


(・・・・・・っ!!)


 それが誰なのか、思い当たると同時に顔をそむけ背を向けた王子だったが、少々 遅かったようだ。

 1人で入ってきたその女は、王子の姿を認めると、まっすぐ彼の元へと歩を進める。

 そして、彼の真後ろに来ると、そっと背中に手を置いた。


「っ・・・。」

「探しましたよ。」


 アリシア―――――妹の側近は、さっきまで商人が座っていた席につくと、非難するような目で王子を見据えた。

 王子は目をそらし、ばつの悪そうな表情で懇願した。


「・・・・・・見逃せ、アリシア。」

「そういうわけには参りません。皆様、心配しておられましたよ?」

「何が心配だ。シルヴィアが素直に私を心配しているとは思えないのだが?」

「・・・・・・まぁ、それはさておきまして。」


 気まずげに咳払いをしたアリシア。


「とにかく、お戻りになってください。いつまでもこのようなところに居られては困ります。」


 アリシアのその物言いにムカッときた王子は、


(“こんなところ”とはどう言う意味だ?)


 と聞き返しかけ―――――思いとどまる。

 代わりに、思いっきりアリシアを睨み付けて、強く宣言した。


「私は帰らないぞ。絶対に、帰らない。誰が何と言おうと、どんなに困ろうと、私はこの国を出るのだ。」

「・・・・・・・・・。」


 王子がそう言うと、アリシアは黙り込んだ。何か言いたいことがあるように見えたし、強い躊躇に悩んでいるようにも見えた。

 しばらくして、アリシアは溜め息をつくと言った。


「・・・仕方がありませんね・・・・・・。」

「!――――見逃して、くれるのか?」

「いいえ、見逃したりはしません。」

「む・・・・・・。」

「しかし、王子が帰らないのなら私も帰りません。」

「――――・・・は?」


 思いもよらぬ発言に、王子は口をパカッと開けた。

 アリシアはとても楽しそうに、ニコリと王子に笑いかけて言う。その顔には、まだどこか暗いものが残ってはいたが、王子は気付かなかった。


「私を連れて、出られるものならお出になってくださいな。見付けたからには、私は貴方様から離れませんよ。」

「なっ・・・・・・お前、」

「それが嫌でしたら、大人しくお戻りになってください。―――――あ、すみません、麦酒をひとつ、頂けますか?」

「はい!」


 しれっと給仕の娘に軽い酒を注文した彼女を見て、王子は


(うわ・・・・・・本当に帰らない気だ、こやつ・・・。)


 その本気度に冷や汗を流したのであった。

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