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王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第1章
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狼狽暗殺者



 前話とほぼ同じ時制です。



 

 出国許可証の発行には、2日かかる。

 暗殺決行は1週間以内で・・・との希望だったので、暗殺者は余裕を感じていた。


(―――――まぁ、とっととケリは付けるが。)


 許可証が手に入り次第、すぐに決行する予定だった暗殺者は、許可証を受け取ったその足で王宮に向かった。

 あらかじめ用意しておいた従者の制服に着替え、宮廷内に忍び込む・・・―――――・・・込んだのは、いいのだが。

 暗殺者は、愕然としていた。


(第1王子が・・・脱走しただと?)


 宮廷内はバタバタしていた。第1王子が突然の失踪ともなれば、当然のことだが。


(くそっ・・・・・・。厄介なことになったな・・・。)


 暗殺者は歯噛みしながら、他の従者たちに混ざって王子捜索のフリをする。

 第1王子がいないのは誤算だったが、せっかく忍び込んだのだ。先に、国王の始末をしてしまおうと思ったのである。

 適当なところで捜索を止め、人気のないところへ赴く。そこで、天井裏に入ろうとした直前であった。

 人の気配を感じて、暗殺者は振り返った。

 扉の影からこちらを覗いていたその少年は、びくりと肩を震わせて固まった。

 暗殺者はその顔を見て、事前に調べておいた情報を思い返した。


(あれは・・・・・・・・・たしか、第3王子・・・?)


 標的の三男もしくは弟。国の三番目の王子。あまり、兄―――――第1王子には似ていないと、常々 思っていた。

 その第3王子が、怯えながらも、こちらをじっと見ている。

 暗殺者はニコリと柔和な笑みを浮かべて、第3王子に近寄った。


「――――・・・どうかなさいましたか、第3王子様。」

「えっ、あっ、うっ・・・あの・・・・・・」


 目がきょどきょどと泳いでいる。言いたいことがあるように見えるが、どうやら口下手らしい。


(面倒だな・・・。)


 と暗殺者は思ったが、手荒に扱っていい相手ではないし、騒がれたらこちらに危険がある。仕方なしに、暗殺者は第3王子の一歩手前でしゃがみ、背の低い彼に視線を合わせた。


「どのようなことでも、仰ってくださいませ。」


 まぁ、言われたところで何もしないが―――――とは、決して言えない暗殺者だった。

 第3王子は、まだ決心がつかないようで、しばらくモジモジとしていたが、暗殺者が根気強く待ち続けていると、やがて暗殺者の目をまっすぐ見て、言った。


「あ、あの・・・・・・。」

「はい。」

「・・・・・・・・・あの、貴方は―――――“宮廷の人じゃありませんよね?”」

「はい?突然、何を仰いますか、王子様。私は確かに、この宮廷の従者ですよ?」


 暗殺者は平然と返したが、その実、ひじょうに焦っていた。まさか、事実を指摘されるとは思ってもみなかった。

 しかし、暗殺者の否定に聞く耳を持たず、第3王子は必死の形相で彼に詰め寄った。


「頼みがあるのです。この宮廷から出ることも出来ない、非力な私では、どうしようもないのです。そしてそれは、外の人間でなければ為し得ないことなのです。どうか私を助けてくれませんか?」

「王子様・・・先程から、何を仰っているのです?申し訳ありません、私には理解できないのですが・・・。」

「とぼけないでください。―――――貴方は、目が違います。匂いが違います。足音が違います。宮廷の人間の、媚びた目や甘ったるい匂いとは、まったく違っています。音の無い足音など、初めて聞きました。」


 私、けっこう鋭いのですよ―――――――第3王子はそう言って、ニコリと笑った。

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