戦々恐々の店主
今回も、よろしくお願いいたします!
仕事終わりの人々で華やぐ酒場の一角に、異様な雰囲気が満ちていた。
「さて、話はまとまったな。それじゃあ、作戦会議といこうか!」
「そうですねー!」
「そうっスねー・・・。」
1人だけテンションが違う者が混ざっているが、大目に見てやって欲しい。彼は流れ弾を喰らっただけなのだから。
(ここって俺の店だよな?なぁ、そうだよな・・・・・・?)
何故、一国の王子がこんなところに居るのか。何故、出国を望んでいるのか。いろいろと疑問はあったが、正面切って尋ねるほどの勇気など、店主は持ち合わせていなかった。
未だ、シチュエーションに付いていけていない店主の前で、商人は王子と普通に話している。どうやら商人は、彼が王子だとは気付いていないらしい。そのことが余計に、店主の精神に負担を掛けていた。
「僕の家族だと偽るんですよね?」
「あぁ、そのつもりだ。どうすればいいだろう?―――――――さすがに、“兄弟”というには無理があるよな。」
「うーん、そうですねぇ・・・。従兄弟じゃあ、家族とは認められないでしょうし。」
「そうだよなー。ふむ・・・・・・どうするべきか。難しいなぁ。下手な変装じゃあ、身元がバレる可能性があるしな。」
「うーん・・・・・・。どうしたら、無理なく見えますかね、マスター?」
「え、俺に振るの?!」
王子がニヤリと方頬を上げた。
「何かいい案はあるか?絶っっっ対にバレないような。」
「え?ちょ、ちょっと・・・待っ・・・・・・。」
天然商人の無茶ぶりに乗じて、王子がハードルを上げた。店主は狼狽え、しかし王子の手前、答えないことは出来ず下手な返答も出来ず、無い知恵を搾って出した答えが、
「――――――――・・・“奥さん”とか・・・・・・いや、スミマセン!嘘です冗談ですブラックジョークですっ!!スミマセンっしたっ!!」
言った瞬間、空気が凍りついたのを見て、店主はカウンターに両手を付き平謝りをした。
(あーー・・・・・・やっべぇよぉ。やっべぇよぉ!王子様ぜったいに怒ってるって・・・。殺される・・・・・・消される・・・・・・うぅ・・・。)
頭をできる限り下げたまま、震える店主。迂闊な事を口走った数秒前の自分を全力で呪いながら、王子か商人か、とにかくどちらかが口を開くのを待った。
「――――――・・・なるほどな。それがお前の案か。」
王子の声はさっきまでより数度下がったように思え、店主は顔を上げるどころか頷くことすら出来ず、ただ震え続けていた。
しかし、彼はこの時 顔を上げるべきだったのだ。
なぜなら、この時この二人は、互いの顔を見合わせ、笑っていたのだから。
パンッ!
手を叩いたのは商人だ。
「その手がありましたね!」
「そうだな。いいぞ、店主よ!素晴らしい案を出してくれたな。よし、それでいこう!」
「はっ・・・・・・え?はっ?」
どうやら話が想像と違うようだ。恐る恐る店主が顔を上げると、王子と商人は2人でニコニコと笑い合いながら、さらに話を膨らませていた。
(あれ・・・・・・?良かった、の?え?)
絶対に怒られるとばかり思っていた店主は、イマイチ状況を理解できていなかったが、とりあえず命は助かったと息を吐いた。
「よし。となると・・・・・・早急に、変装道具を揃える必要があるな。」
「あ、それのことなら、僕に任せてください!そっち方面に明るい友人がいるので。」
「そうか。ならば、頼むぞ。」
「はい!じゃあ僕、早速行ってきますね!」
言うが早いか、商人は席を立つと、酒場を出ていった。
満足そうな表情でそれを見送り、王子は店主を振り返って見た。
「――――――さて、店主。」
一難去ってまた一難。というか、この王子がここにいる間、店主に“安全”というものは保障されないようである。
柔らかい微笑みが何よりも怖い。店主は、引きつった笑顔と裏返った声で「は、はいっ?」と、どうにか言った。
王子は、店主の怯えを重々理解した上で、さらにそれを助長させるように笑いながら、
「今日の宿をどうしようかと思っていたのだが・・・―――――」
「ウチのようなボロ家で良ければどうぞ何泊でもお泊まりください。」
店主の気苦労は、しばらく絶えそうに無かった。
店主がマジで可哀想だ・・・。
だんだん同情してきてしまいます(笑)
次回もよろしくお願いしますm(_ _)m




