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王国脱走物語  作者: 井ノ下功
第1章
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慎重な盗人

「~~~~~~だよな。」

「そうなんですよー。びっくりしました、あの時は。」

「こっちだって驚いたっての。まったく・・・・・・本当に、大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよー。僕、こう見えても1人旅 長いんで。」


 ――――――ポケーっとした顔の商人と思わしき男が、道端で宿屋と話している。内容からして、ただの雑談のようだ。商人の足元には、丈夫そうな大きい鞄が、無防備に置かれていた。盗人の狙いは、これである。

 盗人は、数分前から二人の様子を窺い続けていた。会話が聞こえるほど近付いたのは、ついさっきのことである。


(そうだぁ、慎重に、慎重にぃ・・・・・・。いくら、容易く盗めそうに見えてもぉ、油断するなぁ。むしろぉ、容易く見えるからこそぉ警戒しろぉ。)


 商人も宿屋も、盗人には気付いていない。昼過ぎのこの時刻、人通りは多いが・・・・・・彼にとっては、好都合だった。


(よし、行けるぞぉ。)


 確信し、人の波に乗る。そうして、タイミングを窺い、スルリと、ごくごくさりげなく商人に接近し・・・――――――――・・・当然のように、鞄を掴んで通り過ぎた。


(よぅし、完璧ぃ。)


 怪しまれないように、しばらくはゆっくり周りと合わせて歩き、充分に距離を取ってから――――――――不意に、走り出した。路地に入り、一本隣の大通りに出る。

 鎖国しているこの国では、盗難届が出される前に、上手いこと隠れる必要がある。


(まぁ、置き引き程度じゃあ、ろくに捜査もされねぇだろぅがなぁ。へっへっ。)


 国の犯罪担当の兵団は、セコい軽犯罪には見向きもしない。たとえあの商人が、兵団に駆け込んだとしても、相手にされずに終わるだろう。

 盗人は笑みを浮かべながら、「どけどけどけどけーっ!!」と叫んで走った。前にいた人々が慌てて避けていくのが、快感だった。盗人はまるで、自分の天下のように思った。

 だからだろう。唯一 避けなかった青年に、彼は気付かなかった。

 ハッ、と気付いた時にはもう遅い。盗人稼業で培った反射神経も、勢いには負けた。


「うわっ!」


 青年は小さく叫び声を上げて、尻餅を突いた。

 我が天下の往来の猛進を邪魔され、爽快感をすっかり失った盗人は、舌打ちしつつ唾を吐いた。


「ちっ、ボケッとしてんじゃねぇよっ!!」


 素早く体勢を立て直し、再び走り出した盗人。尻餅を突いた青年の目がいやに冷たかったことと、庶民にしてはやけにいい服を着ていたことが、少々気になったが、構わず走り去った。

 ――――――――まさか、その青年に財布を掏られているとは、まったく思いもしなかったが。


 首都から少し離れたところに、空き家の塊がある。正確には“空き”では無いが。ホームレスやら犯罪者やらが溜まり場として住み着いており、最早ひとつの(スラム)のようになりつつある。通称『最終処理場(ダストボックス)』。噂では、王宮の地下牢はこの場所にあるらしい。一般にバレないよう、地下牢の上を空き家だらけ犯罪者だらけ貧乏人だらけにしたんだとか。あくまで、噂だが。

 盗人は、そんな空き家の1つに入り、薄汚れた床に胡座をかいて、バックを開けた。


(さぁて、成果はぁっと。)


 見た感じでは――――ポーッとしてたけれど、――――なかなか儲けていそうな商人だった。自然、盗人の期待も高まる。ところが・・・・・・床に広げた中身を見て、盗人は驚愕の声を上げた。


「――――――――・・・な、なんじゃこりゃぁっ!」



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