とばっちり店主
「私を、国から出してくれないか?」
思いもよらない頼み事だったのだろう。商人の青年は、目を真ん丸くさせて、言葉を失っていた。カウンターの中で酒を用意しながら、偶然その言葉を聞いてしまった店主も、思わず手を止めて二人を見た。
商人の戸惑いを理解したのか、王子は更に言葉を重ねていく。
「実は、私は少々特殊な家の生まれでな・・・・・・未だかつて、この国を出たことが無いのだ。通行許可証を取ろうにも、訳あって身元を明かせない。そのため、取ることが出来ず・・・・・・・・・どうやって出ようかと、困っているのだ。」
「・・・はぁ。」
「確か、商人証と通行許可証を同時に持っていれば、許可証一枚でその者の家族も全員出れると聞いたのだが、違うか?」
「そういえば・・・・・・はい。家族なら通れたかと。」
「だろう?――――――――どうしても、出たいのだ。頼む。」
真摯に頼む王子を前に、商人は迷っているようだった。眉尻を下げたその顔は、それまで以上にお人好しに見えた。
「ええと・・・構わないんですけど・・・・・・その、ご家族は・・・?」
「――――――・・・実は、それこそが私が国を出たいと思っている理由なのだ。」
マスターはついつい気になって、店のことをやるふりをしながら、二人の会話に聞き耳を立てていた。
そのことが、彼に悲劇をもたらすとも知らず。
「さっきも言ったが、私は特殊な家の生まれだ。ゆくゆくはコクオっ・・・いや、当主として、国を率いる立場に就く。その時、この国をより良い国とする・・・よう、陛下に進言するために、私は知識を身に付ける必要があるのだ。何故 我が国は鎖国をしているのか。鎖国のメリット デメリットは何か。そして、鎖国をしていない国の在り方とは、一体どのようなものなのか。――――知りたいのだよ。ソクィ・・・跡を継ぐ前に、できる限りたくさんの経験をしたいのだ。ダイイチオー・・・・・・いや、跡取りとして!――――――――父は、反対するだろう。だから、こうして・・・非公式的に、家を出てきたのだ。あぁ、書き置きはきちんと残してきた。時間稼ぎもしてあるが・・・あまりもたついていると、捜索の手が強まり、私は家に連れ戻されてしまう・・・。・・・・・・その前に、どうか、頼む!」
この言葉を聞いて、マスターは怪しみ始めた。もちろん、マスターは彼が王子だとは知らない。知らないが、ここまで言われたら、想像も出来てしまう。コクオっ?国王?ソクィ?即位?ダイイチオウー?第1王子?たくさんのハテナマークが、マスターの脳内で渦を巻く。
(え?おい、まさかとは思うが、この人は・・・・・・。――――いやいやいやいや、それは無い。万が一にもそれだけは無いよ、うん。)
頬がひきつり出したマスターの前、二人の話はどんどん進んでいく。
「――――わかりました。そういうことでしたら・・・・・・協力します。」
真剣な眼差しと、熱の込もった言葉に押され、もともと押しには弱いのだろう、商人は案外あっさり頷いた。途端、王子を彩る満面の笑み。
「ありがとう!よろしく頼む、商人殿。」
「フェルリーです。フェルと呼んでください。」
「フェルか。分かった。―――私の名は、」
(お、名前。あの人の名前!これさえ分かれば、)
別人だと言える―――――――。マスターはここで、自身の想像を否定するために、より一層 耳を澄ませた。
王子はニコリと笑いながら、
「ラッヴィア・・・・・・いや、ラヴィだ。」
と、“マスターを一瞥しながら”言った。
目を合わせられた当のマスターは、異常なほどの喉の渇きを覚えていた。
(第1王子様のお名前は・・・・・・確か、ラッヴィアンド様・・・・・・。)
逆の方向に確信する結果となったのである。しかも―――――――聞き耳を立てていたことに―――――――お怒りのご様子だ。
王子は笑ってない笑顔でマスターを見て、静かに語りかけた。
「――――話は、分かっているな?マスター。」
喉が詰まり、声が出せなくなったマスターは、壊れた玩具のように、ガクガクと首を縦に振った。
「協力は、多い方が嬉しいのだが、」
誰か協力してくれそうな人を知らないだろうか?――――――――そう、聞かれたら、マスターから言えることはただ1つだけである。そんなわけで、マスターは頭をバッ、と下げ、
「どうか、この俺に協力させてくださいっ!!」
と宣言した。
ありがとうございました!
王子がだんだん、暴走しつつあります・・・(笑)
できる限り更新を止めないように、頑張っていきます。これからも、よろしくお願いします!




