あざと彼女2
「せーんり、おはよ」
「あ、お、はよう……」
いつの間に、駐輪場に自転車を止めた私の傍に斎がきていた。確か斎は家が近くて徒歩通だったはずだ。
やっぱり厚着可愛い。息を吐きながら「白いね」なんて言ってくる。それも可愛い。
それにしても、昨日の今日で気まずすぎる私に対し、斎はごくごく普通に挨拶をしてくる。その秘訣は何ですか。私は昨日一睡もできずに幸せの余韻に浸っていたよ……。
「ん、隈……昨日僕のこと考えて眠れなかった?」
「えっ」
「図星かい!」
言い当てられて驚いたけど、向こうがそう言いながら真っ赤になったのも驚きだ。
斎の表情はころころ変わる。人見知りをしない向こうは、最初に出会った時からそうだった。泣いたり、笑ったり、怒ったり、そんな感情の表現がうまいところもとても好きだった。
でも、照れている顔を見るのは初めてかもしれない。そういえば、いつでも余裕そうだった。
「じゃ、行こっか」
「お、うん」
斎が、私と並んで教室に向かって歩き出す。
そういえば、多分一緒に教室に行くのは初めてだ。私は家が遠いし、斎は家が近いし、そうめったに登校時間が合うことはない。合ったとしても、挨拶だけして別の階段で上がっていくし。うちの学校は構造上1組だけ1階にあるから、3階の2年2組は遠いのだ。
「おはよう、佐藤さん、斎ちゃん」
「おはよ、失礼してます!」
「おはよう、ございます」
堂々と私の教室に入ってくる斎。前の席の真田さんに挨拶されて、2人で返すんだけど、こういうところでも思う。
なんで明らかに自分より劣ってる私を選んだんだろう。
というより、未だに信じられていない、というのが正直な気持ち。
「千里、なんか今日元気ない? ってか眠いのかぁ」
「うん、そう、眠いんだよ」
実際それもあるっちゃある。なんといっても徹夜だし。
「ちょっと借りますよ~」
まだ誰も来ていない、私の隣の席に声をかけて腰かけ、こっちに寄せる。
なんとなく恥ずかしくて机の上に顔を伏せた。
「眠いよね、徹夜だもんね、愛されてるわぁ、うふふ」
言葉を区切られるたび、はいはいといった感じに頷くけど、なんだこの余裕。斎の小さな手が、私の頭の上に乗せられる。
「でも僕も一睡もしてないからファンデの下はすごいんだよ」
バサッ、反射的に顔を上げる。
「えへへ」
照れたように笑っていた。
こういうの。こういうのって反則的だ。
僕は安里斎。2ヶ月前から、ずっと片思いしていた子と付き合っているんだけど、全く進展がありません。何度か2人でデートして、電話して、メールして。でも、友達の頃とあんまり変わらないんじゃないかなって。そりゃ、優しくて、慎重な千里のことだし、そうだろうなって思ってたけど。
「あのさ、千里」
「え、何?」
でもね、それだけじゃなくて。
「千里って僕が可愛くて可愛くて仕方ない?」
「ぼふぉっ」
ランチタイムに、2人のベンチで言うことにした。
「え、あ、はい。そうですね」
「それだけ、じゃない? それだけじゃない? それって恋じゃなくて愛じゃなくて萌えなんじゃない?」
「え……?」
「ごめんちょっとやっぱり、違うかなって思ったの」
君からの愛が欲しかった。