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父の形見は美少女Vtuber  作者: 伊阪証


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4/7

男の子の美少女適性

東風煮さんが魂を込めて作り上げた、水色と虹色の鮮やかな少女がモニターの中で瞬きを繰り返している。父に渡された機材のセッティングは終わった。あとは、開始ボタンを押すだけだ。

リビングでは、何も知らない姉が、まだ父の「こやぎ」の声を聴きながら安らかに眠っている。

「……やるしかない、ですね」

僕は自分に言い聞かせ、マイクのスイッチを入れた。

配信が始まっても、同接数は二桁から動かない。だが、僕はあらかじめ決めていた「設定」に従って口を開いた。参照すべきは、リビングで無防備に丸まっている、あの常盤だ。

「みなさん、こんばんは! 今日から活動を始めます。よろしくお願いします!」

意図的に声を張り、元気で健気な響きを作る。常盤が時折見せる、あの透き通ったポジティブさを脳内で再構築し、美少女アバターの動きに同期させていく。

「お疲れ様? ふふ、ありがとうございます。でもね、疲れたっていうのは、今日一日をそれだけ頑張りきれたっていう、成長の証なんですよ」

チャット欄が、僅かながらも温かい反応で埋まっていく。

本来の僕は、こんなに明るい人間ではない。だが、今の僕は姉を護るための盾だ。彼女が「こやぎ」に求めている癒やしを、今度は僕が、この別の姿で提供しなければならない。

一時間ほどの配信を終え、僕は震える手で終了ボタンを押した。

「……終わった」

酷い疲労感とともに、僕は管理画面のダッシュボードを開いた。父が背後に立ち、無言で僕の肩越しにモニターを覗き込む。

そこには、およそ「バズ」とは呼べない地味な数字が並んでいた。

同時視聴者数:60人

チャンネル登録者数:48人

高評価数:53件

「……全然ダメですね。同接六十人じゃ、話にならない」

僕は自嘲気味に呟いた。父のようなカリスマ性はない。爆発力もない。

だが、父は鼻を鳴らすこともなく、ただ一点のグラフを指差した。

「維持率を見ろ」

父に言われて気付いた。

一時間の配信中、視聴者の離脱を示すグラフは一度も大きく下がっていなかった。それどころか、同接六十人に対して登録者が四十八、高評価が五十三。

この場所に迷い込んだ人間のほぼ全員が、そのまま「僕」のファンとして定着し、証を残していったことを示している。

「伸び方が、異常だ。入った人間を一人も逃していない」

父の声は、賞賛というよりは淡々とした分析だった。

僕が姉の姿を借りて演じた「健気な少女」は、一度触れた人間を離さない、恐ろしく濃密な中毒性を帯びていたのだ。

リビングからは、目を覚ました姉が「あれ、今の配信、誰……?」と不思議そうに呟く声が聞こえてきた。

僕は、自分が生み出してしまった数字の重さに、ただ背筋が凍るような感覚を覚えていた。

一人に託されることの重さを、自分は理解していなかったのだろう。

一人を見縊ることは、自分の存在を否定するのと同義である。人間には一定の価値があるし、それは上下貴賤こそ当然だ。しかし、だからこそ平等に縛られることを忘れてはならない。この数字を、いつか数えなくなってしまうのだろうか。父の六十万人という壁は、数えられたものであろうか。受け取ったスーパーチャットは、自販機でゼリー入りのちょっと贅沢な炭酸飲料にして使い切った。

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