三人談合in布団
最近、彼女の宿泊頻度が跳ね上がっている。
だが、そこに甘い情緒はない。あるのは徹底した生活合理だ。彼女はこの辺境のド田舎で研修中であり、ここから通うのが一番効率がいい。さらに言えば、僕が最近まで姉の布団に潜り込んでいた前科がバレたことで、彼女の中の「監視コスト」が宿泊コストを上回った。安い布団、減る洗濯物、解消される遅刻。喧嘩をしても同じ部屋で寝る以上、強制的に冷却期間が設けられる。この異常な同居感覚は、この家においては正解に近い最適解として機能していた。
そんな合理性の成れの果てが、今の光景だ。
僕たちは三人で一枚の布団に無理やり収まっている。中央に僕、片側に彼女、反対側に姉。僕の足は少しだけ布団からはみ出し、夜の冷気に晒されている。この狭苦しく、体温だけが無駄に高い窮屈な空間で、僕たちは「伊行をどう確保するか」という、およそ寝物語には不向きな会議を始めた。
「状況は把握したわ」
彼女が暗闇の中で静かに呟く。
「伊行さんの件、お姉ちゃんはどう思ってるの?」
「どうもこうも、あの女装癖の話を聞いた時はちょっと引いたわよ」
姉が反対側で寝返りを打ち、僕の肩に肘が当たる。
「でも、アンタが本気で親父をボコすって言うなら、協力させない手はないわよね。あいつ、意外と身体能力だけは高いし」
会議の空気は、深刻な内容に反してどこか間抜けだ。だが、姉の出す結論は残酷なまでに速かった。
「とりあえず、確保すればいいのね! ぐだぐだ考えても始まらないし、あいつは私が力ずくで連れてくるわ」
「確保前提なのね、お姉ちゃんも」
彼女が少しだけ笑ったような気配がした。彼女は姉のように雑ではないが、かといって倫理的なブレーキをかけるわけでもない。医学的な視点と、最近彼女の中で密かに加速している「女装男子」への偏った趣味が、判断を不穏な方向へ歪めている。
「身体への負荷は私が管理するわ。伊行さんのメンタル面も、適切な刺激を与えれば……きっと、面白いことになるし」
彼女のトーンは冷静だが、その奥にある熱量が、姉のそれよりもずっと怖い。
二人が方針を固めている間、僕は布団の中でスマホを操作していた。画面の輝度を最小にし、指先だけで実務を進める。
「東風煮さんに連絡した。早割の枠で予約を確保したよ」
「え、もう?」
姉が声を上げる。会議はまだ「どうするか」を話し合っている段階のはずだったが、僕の手元では既に決定事項としての手続きが完了している。話し合いの体裁を保ちながら、裏ではもう逃げ場を塞いでいく。僕の中にあるこの静かな強引さは、嫌悪していたはずの親父のやり方に、驚くほど似通ってきている。
「準備はいいわ。これを使って」
彼女が、暗闇の中で僕にスマホの画面を見せてきた。そこには、彼女が独自に調査し、揃えておいた伊行の「証拠」が並んでいた。
「あなたのお姉ちゃんの彼氏、女装歴があるみたいよ。言い逃れできないレベルの証拠も、全部ここにあるわ」
穏やかな声のまま、彼女は一番危ないカードを切った。姉は雑に動き、僕は裏で予約を取り、彼女は逃げ場を潰す。僕たち三人がこうして重なっている以上、伊行に拒否権など最初から存在しなかったのだ。
布団の中の窮屈な熱気が、包囲網の完成とともにしっとりと落ち着いていく。
姉の雑な速さ。彼女の底知れない強かさ。そして、一番静かに、事務的に他人を追い詰めていく僕。
この三人が組んでしまった以上、伊行はもう逃げられない。
彼女は強かだが、少し怖い。




