可愛い彼女の可愛いお願い
親父をドッジボールでボコボコにする配信を本気で通すために、僕は大学の仲間を頼ることにした。人選は、野球部を除けばフィギュアスケート、ゴルフ、そして陸上の投擲といった個人競技の連中だ。彼らは集団の空気に流されず、自分の肉体と技術を自分自身でミリ単位で管理している。僕が欲しかったのは、まさにその「個」としての徹底した身体運用だった。
そして、この人選にはもう一つの裏目的がある。
皆でバ美肉すれば怖くない作戦。
アスリートたちは、少なくとも体力面と精神的な負荷に対する課題を最初から突破している。長時間にわたる機材の拘束や練習への耐性は、一般の人間とは比較にならない。美少女としての適性があるかは未知数だが、スポンサーの目を意識し、「見られる側」として立ち振る舞う強みは既に持っている。親父のことだ、ドッジボールと言いつつ、裏でどんな人員を揃えてくるか分かったものではない。ならばこちらも、身体と対人の管理を完璧にこなせるスペシャリストを揃えるしかない。競技技術の借用と同時に、彼らのバ美肉適性を測定する。それが僕の描いた合理的、かつ悪趣味な図面だった。
そこに、彼女が介入してくる。
これまで僕の活動に医学的な懸念から釘を刺し続けてきた彼女だが、今の彼女は否定する側ではなく、冷徹な観察者としてそこにいた。僕は、トレーニングに励む仲間たちの録画を彼女に見せる。医者の卵として、彼らの肉体的な資質と、バーチャルなガワを被せた際のリスクを見極めてもらうためだ。
モニターを見つめる彼女は、感情を排した声で短く返した。
「なるほどねぇ、うん。」
大騒ぎもせず、即座の断定もしない。ただ見るべき急所を的確に見抜いている、その静かな反応が逆に僕の神経を逆なでする。
彼女の内面は、もっと複雑な熱を帯びているようだった。僕が遠慮して自分を誘わないことに軽い苛立ちを感じているのか、あるいは美少女になるという行為に僕が妙な神聖さを感じていることへの反発か。そこには彼女にしか分からない背徳感と、策士としての好奇心が混ざり合っている。
彼女は僕の可愛さに甘く、同時に恐ろしいほど強かだ。ただ評価を下すだけで終わるはずがなかった。
「あなたのお姉ちゃんの彼氏、伊行さん。あの人、女装歴があるみたいよ。証拠も揃えておいたわ」
彼女は事も無げに、一番危ないカードをテーブルに置いた。僕の知らないところで伊行の過去を暴き、逃げ場のない証拠まで揃えていたのだ。伊行という確実な適性を持つ候補を、彼女は自らの手で盤面に引きずり出してきた。
スポーツの修行だと思っていた風景は、いつの間にか異質な人員選定の場へと変貌していた。前半で競技技術を分解し、後半ではバ美肉という虚構への適性を測る。そして、親父に対抗するために人員を揃えようとする僕の発想を、恋人であり医者の卵である彼女が冷酷なまでに後押しする。
仲間を頼ることと、バ美肉の候補を増やすことが、同じ線上に乗ってしまったことを僕は理解した。
彼女は穏やかな顔のまま、僕の予想を超えた深度でこの不条理を加速させていく。
彼女は強かだが、少し怖い。




