アミカナの日曜日の夜:ダイブ
「時間戦士は永遠の夢を見るのか」本編前半では、常に志音の視点で描かれています。物語的にそうである必要があるのですが、そうすると、アミカナが一人で何を想っているのかが描写できません。番外編は、本編終了後だから描けるシーンがあると思っています。この日曜日の夜は、土曜日の後ではなく、月曜日の前となります。本編が始まる直前のアミカナを描いてみました。
<遥か未来、現代では日曜日>
アミカナは、彼女以外に何もない、巨大で薄暗い部屋の中央に立っていた。四方の壁には細かいグリッドが切ってあるはずだったが、暗さも手伝って、彼女の位置からはのっぺりした壁にしか見えなかった。
「ミス・デフォルマ」
チーフ・オペレータの声が響く。
「はい」
「ブリーフィングの時にも伝えたが、今回、メタクニームが時間転送させた物体は、これまでに例がないほど巨大なものだ。恐らく数百トンクラスと想定される」
彼女は頷いた。
「奴らの目的は不明だが、何かとんでもないことを仕出かそうとしているのは間違いない。我々の周りでも、色々と不穏な動きがある」
「はい」
「せめて重装備での時間転送を希望したが、やはり許可は下りなかった。通常通り、単独・標準装備でのダイブになることを申し訳なく思う」
「いえ、大丈夫です」
「時空座標調整中」
別の女性オペレータの声が聞こえた。
「よろしい。暫く待機してくれ」
「分かりました」
アミカナは息をついた。人差し指で鼻先を擦る。
<アミカナ、聞こえる?>
不意に、スピーカーから自分の声が聞こえて、彼女は一瞬戸惑った。
「ミカ?」
<そう、私>
「どうしたの? 今までダイブに立ち会ったことはなかったのに」
<うん……今回は、ちょっと心配で……。特別に、オペレーション・ルームに入れてもらったの>
アミカナは苦笑した。……気持ちは分かるわ。だって、私はあなただもの……。そう、アミカナは、ミカの脳内のニューロン・ネットワークだけでなく、体の各種サイズから容姿まで完全に模倣した、精巧なアンドロイドだった。アミカナ自身、自分が機械であるという実感はない。感覚は、コピー元であるミカだった時と全く同じだった。
<今回は長丁場になるかと思うけど、今まで訓練してきたあなたなら、きっとできるわ。私が保証する。頑張って!>
……頑張って、か……
そう、彼女が励ますということは、彼女が不安を感じているということ。そして、彼女が感じる不安は、私の不安でもある。自分自身を励ましに来るほど、私の不安が大きいことを、彼女は知っている。そして、例え励ましてくれるのが自分自身だったとしても、それで幾分か気持ちが落ち着くことを、彼女は――いや、私は知っている。
アミカナは微笑んだ。
「ありがとう、ミカ。あなたのためにも、任務は必ずやり遂げるわ」
ミカは、その若さで既に三回の複製を経験し、三体のアンドロイドを過去に送り出した。任務はいずれも成功し、彼女は優良オリジナルとしてラキシス機関から讃えられている。
<違うわアミカナ。ミカのためじゃない。アミカナのためよ>
ミカの言葉に、アミカナは目を閉じた。
……さすが私。泣かせることを言ってくれる……
……でも、私はもうミカじゃない。複製の時の技官は何と言ったか?……敵を抹殺するアンドロイド戦士、アミカナ……。彼女は苦笑した。
子供だましね……。しかし、それに乗るしかなかった。それ以外に、この不安を打ち消す術はない……。
「座標調整完了」
女性オペレータが告げて、チーフ・オペレータは力強く宣言した。
「よし! では、ミス・デフォルマ、ダイブだ」
アミカナは、青く輝く瞳で、正面に広がる闇を見据えた。
「はい。アミカナ=デフォルマ=4、行きます!」
お読み頂きましてありがとうございます。この後、月曜日の夜、火曜日の夜と続いていきます。宜しければ、土曜日までお付き合い下さい。




