元天才詐欺師が異世界来訪!掌握!
”世界を騙し続けた詐欺師の処刑を今から執り行う”
断頭台の上で1人の女性が不敵に笑う
そう、この女性が天才詐欺師なのである。
処刑は、世界同時中継で流れている。
歴史上、類を見ない
血も涙もない程残酷で
世界中の人々を恐怖に陥れた日本人
処刑人が剣を高く掲げた瞬間
彼女は、言った。
「騙される人間が悪いのよ!」
言葉とは裏腹に目からは一筋の涙が流れた
「死にたくない…」
風で掻き消えてしまうほどの声で
ポツリと呟いた。
剣が振り下ろされる。
・
・
・
だが、剣は彼女を捉えれなかった。
全世界の人々が見ている前で、彼女は消えた。
まるで最初からいなかったかのように、、、
~~~
(ここが死後の世界?見た事ない景色。それにあの状況で死なないわけないか、、、
死にたく…なかったな…)
彼女が、死後の世界だと思っているこの場所は…
〈異世界〉
である。
突然の展開すぎて、付いてこれてないであろう。
何が起きたのか、説明する前に
軽く自己紹介をしておくとする。
私は、この世界の『観測者』兼『解説屋』
解説君とでも呼んでくれたまえ。
彼女は、断頭台の上で斬首刑を執行中に消えた。
ここまでは、付いてこれているかい?
何故、消えたのか。ここが肝心なんだ。
彼女は、死を目前にして「死にたくない…」と
涙を流した。
これが、トリガーだったんだ。
『思いの力』
それが、彼女が消えたトリック。
世界を騙し続けた彼女だから出来たのかは、私にも分からない。
一点だけ確実なのが。
あの瞬間、異世界と彼女は結ばれ『移動』した。
それでは、彼女に視点を戻すとしようか。
~ここからは、解説君のナレーションで物語が進みます~
彼女の目の前に広がっているのは、草原
草以外、何も無い。
当然ながら、持ち物は無い。
服は、真っ黒なドレス。
処刑着にしては、オシャレだと感じるかもしれない。
そこで、解説ポイント!
①すぐに着られる服
➁黒=死
男だって、同じ服を着るんだ。
と言っても、それはこの世界だけのお話。
君たちが居る世界の処刑着に関しては知らないからね?
あるのかすら知らないよ、私はね!
(お腹…減ってきたな… 死んでもお腹って減るんだ)
そりゃそうさ。だって、彼女は死んで無いから。
空腹を満たすため、彼女は目的もなく歩き始めた。
長い長い時間、歩き続けた。
そして、野盗に遭遇した。
「へっへへ…そこの姉ちゃん。ここを通りたかったら通行料払いな」
うわー、よくファンタジー系で見る
テンプレ野盗のセリフじゃないか。
この世界にも居るんだね~
「通行料?お金なんて持ってないわ。持ってても渡さない」
当然だよね。
それに、彼女は詐欺師だ。
金を取られる側ではなく取る側。
さて、この状況をどうやって打破するのか見物だ。
解説君もワクワクしてくるぜ。
野盗は三人。
手には、ダガーナイフ。
対する彼女は武器無し。
圧倒的に不利な状況。
だが、彼女は余裕な表情をしている。
野盗が襲い掛かる・・・!
彼女は、相手の攻撃を軽く躱し
武器を無効化。
この技は『空手奪刀』
中国拳法の技らしい。
女だと舐めてかかったら、一人が倒され
一気に二人が彼女に襲い掛かる。
奪ったナイフを、投げた。
片方の足に刺さり一人は、転倒。
その名も『ナイフ投げ』
最後の一人は『空手奪刀』で無力化。
何と…素手で三人の野盗を圧倒してしまった。
解説ポイント!
詐欺師は、口が上手い…だけじゃない!
彼女の様に、危険と隣り合わせの詐欺師は…まぁ居ないんだが。
自己防衛手段として、彼女はあらゆる戦闘技術を身に着けている。
なので、シンプルに強いのである。
(ふぅ、何とかなったわね。さて、こいつらをどう利用しようかしら。
死後の世界でこんな目に遭うなんてね。楽しくなってきたじゃない)
「「「姉御!!」」」
「は?今なんて?」
野盗を利用しようと考えていた
彼女の考えを知る由もないのだが、、、
偶然にも、姉御呼び。
これは、つまり彼女の下に付くという事。
そう捉えても間違いではないだろう。
「「「俺達は、姉御について行きやす!!」」」
この瞬間、彼女に舎弟が出来た。
元の世界では、一人だった彼女に
仲間?が出来た。
この出会いが大きな転機となるのか
ならないのか
それは、誰にもまだ分からない。
・
・
・
はいはーい。
ここで、解説君から皆に聞きたいんだ。
異世界で『日本語』が通じる事に違和感を覚えないかい?
それとも、異世界作品では当たり前すぎて
考えた事もなかったかな?
解説ポイント!
①『日本語』が通じているわけではない
➁自動翻訳のようなもので、相手が発した言葉→日本語
彼女が発した言葉→異世界言語に変換
③これは、暗黙のルールのようなもの
④他作品がそうかは知らない
余計な解説多くてごめんね。
これが、この作品の魅力であり
ふざけすぎている点なんだ。
あ、私の立場で作品とか言ったらダメか(笑)
(こいつら、何を企んでるの?分からない。でも、利用出来るだけしてやる)
彼女は、信じる事はしない——決して。
自分自身すら、信じないのだから。
”職業病”
これが、誰も信じない理由である。
詐欺師になる道を選んだ日から、感情を捨てた…筈だった。
処刑寸前で見せた、彼女の涙。
まだ、彼女の中に僅かな感情が残っていた証拠。
この感情が、足枷になるかもしれない。
彼女は、無意識の感覚でそれを恐れている。
「あんた達、全財産私に寄こしなさい」
(こいつらの偽の忠誠心を顕わにしてやる。騙せると思わない事よ。
私を誰だと思ってる。世界を騙し続けた女よ)
血も涙もない、冷酷な発言…
そう感じたかな?
でもね、まだまだこんなものじゃないんだな~
彼女の本当の恐ろしさは、この先にある。
嫌でも目にする事になるよ。
この世界を見続ける限りね。
「姉御…その程度で良いんですかい?喜んで差し上げます!
どうぞ、受け取ってください」
彼らは、一切の迷いもなく彼女に全財産を差し出した。
こんな展開、予想出来たかい?
そうとも。この展開は、安易に予想できる。
彼女が「全財産私に寄こしなさい」と言った時点で
彼らが、差し出すのは分かり切っていた。
何故か。
それは、この展開ですらテンプレ展開だからだよ。
分かりやすい例を出そう。
例)「この戦いが終わったら結婚するんだ」
この言葉を聞いたら、どう思う?
〈このキャラ死ぬのか>
そう感じるだろ?
生きて生還するとは思わない。
生きて生還するパターンもあるかもしれないが
確率的に死ぬ方が高い。
これは、物語を面白くする事を
”保証”されたテンプレ展開なんだ。
奇をてらった展開も良い。
だが、やりすぎは良くない。
テンプレ展開×奇をてらった展開
無意識のうちに、君たちはそれを望んでるんだよ?
そこに敢えて切り込んでいく、私の事をどう思うかは自由だ。
これを面白いと思うなら、この先も付き合ってくれ。
うんざりしてきたなら、帰り道は向こうだよ。
”攻めすぎ注意”
ってね
(嘘でしょ。こいつら、ほんとに全財産差し出してきた…
でも、待つのだわ私。これが、罠である可能性も残ってる。
人なんて信用したらダメなんだから。あの日、決めたじゃない)
「姉御?どうしたんです?」
考え込んだ彼女を——彼らは心配そうに見つめる。
まさか、自分たちの行為を疑われているなんて思うわけがない。
~~~
小考する事、約二分。
その間、彼らはじっと待った。
何も発せず、何もせず。
ただただ、彼女を待ち続けた。
仮に、彼らの行動が罠だったと仮定する。
ここまで待つのか。
否!待たない。
騙し討ちをする方法は、幾らでもある。
それを、彼女は誰よりも知っている。
知っているからこそ、理解が出来ない。
何故?
この二文字が、彼女の脳内で反芻する。
分からない=恐怖
この世で、彼女が最も恐れている事。
それは
理解が出来ない相手
どんな相手だろうと、裏を読み騙してきた。
罠にハマったフリをして、罠にハメてきた。
だが、彼らは違う。
何故なら、そこにあるのは純粋な行為だから。
ちょっと、待てい。
野盗に純粋さなんてあるのか?
いや~無いだろ
純粋さの欠片すらない。むしろ、かけ離れた存在。
その通~り!
おいおい、じゃあ純粋な行為ってのは矛盾してるだろ。
そこに気づいた君たちは鋭い。
痛いとこ突くね。痛すぎるよ。
それでも、言うよ。
あの行動は、純粋な行為だと。
簡単に説明しよう。
物語の展開遅くてイライラしてるかもだしネ!
彼らは、彼女に圧倒的な程の実力差を見せつけられた。
男ではなく女にやられた。
この瞬間『カッコいい』と感じた。
だから、彼女を姉御と呼び慕う決断をした。
裏切るつもりなんて一切ない。
何処までも、彼女について行きたい。
それが、彼らが抱いている気持ちだよ。
残念ながら、彼女には伝わってないがネ!
「はぁ…あんた達バカだね。要らないわ。そんな簡単に全財産差し出しちゃってさ。
悪い奴に騙されるわよ」
「姉御…そんなに俺達の事を…ウッ…グスッ…」
「バカ(焦りながら)な、泣くんじゃないわよ。ほら、行くわよ」
「「「はい!何処までもお供しやす!!」」」
うおおおおおおお…なんて泣ける展開なんだ!!
すまない、予想外の展開で心を乱してしまった。
ナレーション口調に戻すよ。
彼女は、受け取らない選択をした。
この選択が、以前までの彼女なら有り得ない。
この世界に来た事で、彼女自身が気づかないうちに
彼女は変わろうとしている。
詐欺師である自分を否定はしない。
だが、同時に肯定もしない。
罪悪感が無かったわけではない。
血も涙もない程、残酷と呼ばれていた。
本当にそうなのか?
それは、彼女にしか分からない。
いや、もしかすると彼女にも分からないかもしれない。
しかし、彼女のしてきた事は許される事ではない。
詐欺師=悪
これは揺らぐごとのない事実。
どんな事情があろうと許される事ではない。
その点を勘違いしないで欲しい。
私は、詐欺師に寄り添ってるのではなく
あくまでも、世界を観測する側であることを。
♪♪♪
って感じでエンデイングロールが、流れそうな雰囲気だが
安心してくれ。まだまだ終わらないぜ!
流石に、ここで終わったら何の物語か分からないって。
駄作確定ルートになっちゃうぞ。
それは、勘弁してくれよ。
シリアス空気の息苦しさから一転
ぷはっ
と呼吸をしなよ。
『息を呑む』
こういう事を言うんだろ?
え、何の話してたんだっけ?
あは——ふざけすぎか?
解説君からふざけを取ったら何が残る?
何も残らないと思った?
残念~
何かは残る。
うざい(笑)
彼女はさ、心の奥底では誰かを信じたかったんだろうね。
『誰も信じない』
って人は言うけどさ。
それ、強がりなんだよ。
本当に、誰も信じる気が無いのなら——言葉にすら出さない。
これは、その人からの『SOS』なんだよ。
もしも、身近な誰かが言ってたら気づいてあげて欲しい。
この物語に触れた、君たちだから力になれると思う。
真の意味でね。
おっと、話してる間に彼女達に動きがあったようだ。
ズームしてみよう・・・
あれは、検問所かな?
随分と、大きな国だね。
もしや、タイトルにある『掌握!』はこの国を掌握するのかな。
グヌヌ…先の展開が気になるぞ。
はっ…それを見せるのが私の役目だった。
彼女達一行は、野盗が保持していた馬車を奪い取り
この世界の中枢である王国の検問所に並んでいた。
普通に考えて、彼女達が通過するのは不可能に等しい。
普通なら。
彼女は、詐欺師だ。それも”天才”と呼ばれる程に。
彼女にかかれば、針の穴に目を瞑って糸を通す。
これほどの行為を軽々しくやってしまうのだ。
彼女はよく言っていた。
「不可能?そんな言葉、私の辞書には載ってないわ」
きっと、彼女の辞書は君たちが読む辞書とは
全く違うのだろう。
載ってるはずの言葉が載っておらず
載ってないはずの言葉が載っている。
それが”天才詐欺師”と呼ばれた所以かもしれない。
(それにしても、妙ね。死後の世界で空腹感を感じるのはあるとしても
これは、”国”の入り口に見える。大きな門、入り口には検問官のような人。
まるで生きてるみたいに見える。彼らだって…)
「姉さん、俺達で通れるんですかね?ここは、この世界の中枢。
エルピス王国ですよ」
彼女は、世界に対して疑問を抱き始めた。
だが、異世界である結論は出せないだろう。
異世界に転生・召喚は、フィクションなのだから。
彼女にとっては、この世界が現実。
非現実的な答えが正解だとしても、辿り着くのは不可能である。
そう。物語の登場人物は、自分の世界が現実だと思っている。
たとえ、誰かの創作であっても、、、
『命を吹き込む』
この行為をした時点で、一つの世界が生まれる。
創作をしている人がよく言う言葉。
『キャラクターが勝手に動く』
聞いた事は、あると思う。
そんな事がある筈がないと、否定する層も居る。
これは、どちらの言い分も正しい。
普通に考えたらありえない。
でも、経験した人が一人ではなく複数人。
口裏を合わせたり、集団幻覚と呼ぶには無理がある。
何故なら、私を生み出してくれた人物さえ
経験してる一人なのだから。
第三者ではなく、当事者になった。
まとめると、ありえないで済まさないで。
そういう事もあるのだと理解して欲しい。
解説君からのお願いだよ。
盗賊の一人が発言した『エルピス』
古代ギリシャ語で『希望』を意味する言葉。
彼女が、エルピス王国に辿り着いたのは
”偶然”か”必然”か目が離せないね!
飄々とした口調じゃなくなって、寂しさ感じてた?
押して押して一度引く
これは、恋愛の高度テクらしいよ。
ずっと押され続けると、うざいなと感じるけど
ふっ…と一旦引く。
あれ?どうしたんだろ?って思っちゃうよネ!
もう解説君の虜だね~
なんちって(笑)
調子に乗りすぎちゃった?
あぁーーーーーーーー、ちょっと待って。
ページを閉じようとしないで??
ね?ね?スレスレラインって難しいんだから。
真面目にしますよ(頬を膨らませながら)
無駄話をしている間に、検問の列が進み
彼女達の番になった。
さて、どう切り抜けるのか。見物させてもらおう。
「次の者!…ん?あまり見ない服装だな。特に女!
その服は何処で手に入れた?いや、それよりも…(チラッと馬車を見る)
お前たちが持ってる馬車の中身を確認させてくれ」
(あぁ、やはり私も検問官の服には見覚えがない。
世界を渡り歩いたけれど、その私ですら見た事がない。
いや、それよりも盗賊から奪ったこの馬車使えそうね)
「この馬車が気になるの?ここに来るまでの道中で盗賊から奪い取ったものよ。
中身を見たいなら、お好きにどうぞ。この国の…馬車なんでしょ?」
「あぁ、このエルピス王国の商人が馬車を奪われたと
数時間前に報告があった。中身を確認した限り、その馬車で間違いない」
情報過多すぎる一幕だね。
整理するよ
①服装の違和感
➁盗賊から奪った馬車が王国の商人の物
これで、整理はついたかな?
馬車を奪った事でさえ策の一つだったのか?
それとも、カマをかけただけなのか。
注目ポイントはここ!
いや、それよりも…(チラッと馬車を見る)
大抵の人なら、見逃がしそうな動き。
相手の呼吸、目の動き、筋肉の強張り、些細な動き…等
彼女は、決して見逃さない。
これを駆使出来る事が、彼女が他の詐欺師とは全く違う点。
僅かな情報から、推測を立て相手に突きつける。
他の詐欺師だって、使う手法。
だが、彼女は精度が段違い。
間違えれば一巻の終わり。
まさに
”綱渡り”
私が、やってる事も綱渡りな技法なんだけどね~
彼女も私も、怖いもの知らずという点は共通してるんだ。
一歩踏み出す勇気
ミスしたら
『The END』
♪♪♪
エンディングロール流れちゃうよ(苦笑)
それでも、しちゃうんだよ
怖いもの知らずな人or無謀な人
この二つは、表裏一体。
じゃあ、何が決定的に違うのか。
『成功者』
これに尽きる。
してる側は、ハラハラドキドキなんだけどネ!
(やはり、私の思った通りだわ。これを対価として…検問所を通過してやる)
「馬車を渡す代わりに、私達を通してくれないかしら?
それとも、恩人を無下に扱うのかしらぁ?」
クゥ~
何て卑怯なやり方なんだ。
恩着せがましいとはこのこと!
数秒の沈黙の後、検問官は口を開いた。
「分かった。そなたらのおかげで、助かったのは事実。
特別に通過を許そう」
「良いんですか?明らかに怪しい一行を通しても」
ずっと、沈黙を保っていたもう一人の検問官が口を開いた。
(ちっ…余計な事を。雲行きが怪しそうね…次の手段は)
彼女は、即座に別のプランを考えた。
だが、、、
「彼女達一行は、この国の恩人だ。何かあれば私が責任を取ろう」
(あら、意外と話が分かる奴のようね。チョロくて助かるわ)
こうして、彼女達は検問所を無事に通過する事が出来た。
検問官の感謝の気持ちを踏みにじりながら。
最低だな!
詐欺師許すまじ!
こんな奴ら、通すべきじゃないぞ
検問官ーーーーーーーー
(あら?今何か聞こえたような。気のせいかしら)
おっと、熱くなりすぎて危うく物語に干渉する所だった。
気付かれなくて良かったぜ。
勘のいい奴はやりにくい
この言葉に、既視感を感じた?
気のせいじゃないか
ハッハッハ
それにしてもよ、酷くないか?
マ・ジ・で!!
素直に感謝を受け取れよな。
盗賊が舎弟になった瞬間。
何か心に変化があったかもと思ったのにさ。
何も変わってないのな。
幼少期の時、親に・友人に関わった人全員に裏切られ続け
人を憎むようになったのは分かるけどさ。
あ、やべ。
この話、伏せないといけないんだった。
今の話・・・聞かなかった事にしてくれない?
頼む!私の創造主に怒られちゃう…
ほら、私と君たちの仲だろ?な??
解説君の焦りは、放っておいて
物語に視線を戻すとしよう。
彼女達は、検問所を通過後
飯屋を探した。
ずっと、空腹だった彼女は限界寸前。
お金は…野盗が巻き上げた分 たんまりある。
君たちの世界の金額で言うと
10万円程かな。
(お腹が限界よ…何処かに良さげな飲食店は…)
「姉さん!先程からお腹抑えて…もしや、飯屋探してます?安くて美味い!
良い飯屋があるんでそこに行きましょう!」
何故、野盗がこの国の飯屋を知っているのか。
そこに関しては、重要ではないので割愛したいが
君たちは、納得してくれないだろうね。
はぁ…仕方ない。説明するよ。
彼らは、元々エルピス王国出身だった。
何不自由なく生活していた国民の一人だった。
だが、彼らが働いていた工場に泥棒が入った。
入り口の施錠は、されていた。
内部の犯行だろうと疑われ
人相が悪い、やりかねない。
そんな理不尽な理由で、三人は職を失い
噂が広まり、何処も彼らを雇ってはくれなかった。
そして、濡れ衣を着せられたまま国すらも追い出されてしまった。
それからは、道中で盗賊行為を繰り返すように、、、
この物語には、重要ではない脇役。
そんな脇役達にも、一人一人の人生がある。
それでも、君たちは
『ただの作り物』
と言ってしまうのかい?
その表現は、的を射ている。
だけどね、同時に悲しさすら覚えるよ。
ほんの少しだけでいいんだ。
僅かに、寄り添って欲しい。
物語に、登場人物に。
そして解説君である私には…寄り添わなくてもいいかな(笑)
物語の中だけではある。
でも、登場人物達はそこで確かに生きている。
その事も、心の奥底に置いといてくれたまえ。
お願いが多くてすまない。
大切な事だから——
彼女達一行は、飯屋に到着した。
(あぁ、やっと食事にありつける…沢山食べるわよ)
四人でテーブルを囲みながら、食事を堪能している。
次々と運ばれてくる料理。
「姉さん、沢山食べてください!これは、俺達からの感謝のお礼です。
これからは、盗賊からは足を洗い一からやり直そうと思います!」
良い話だ。
人を騙す事でしか、存在意義を証明できなかった彼女が
彼らと出会い生きる希望を与えた。
それは、誰にでも出来る事ではない。
だが、彼女は成し遂げた。
これが何を意味するのか、彼女は理解しているのだろうか?
彼女の気持ちを読むのは簡単だ。
でも、今はやめておこう。
彼女が何を思い、何を感じたのかは
彼女だけのもの。
他人が軽々しく踏み入って良い場所ではない。
「ありがとう…」
ポツリと彼女は、呟いた。
飯屋の賑やかな声が、彼女の声を掻き消す。
彼らには、届かなかった。
届かなくてもいい。
彼女が、感謝の言葉を口にした。
それは、彼女が変わった証明なのだから、、、
そして、一筋の涙が流れた。
~~~
「え?」
ザシュッ…
彼女は感謝を述べた後、涙を流した。
これが、いけなかった。
異世界に移動した理由を覚えているかい?
一筋の涙→「死にたくない…」
今回は
「ありがとう…」→一筋の涙
『思いの力』がトリガーであると私は伝えた。
そう、君たちが考えている答えであっている。
あの瞬間、彼女は元の世界に戻った。
ただ、戻っただけなら剣が振り下ろされた後だ。
でも、そうはならなかった。
世界は、なんて残酷なんだろうね。
だって、彼女が戻ったのは
一筋の涙を流し「死にたくない…」と言った瞬間だ。
世界による強制的なやり直し
これが、先程の場面の解説だよ。
世界は、彼女を許さなかった。
異世界に移動させて、希望を見せ
処刑の瞬間に戻す。
世界がこの行動をとった理由。
それを、私には断言出来ない。
だから、憶測の域を出ないけど聞いて欲しい。
彼女は、”詐欺師”であり世界を騙し続けた。
彼女の最大の罪であり処刑される理由。
そんな血も涙もない彼女が「死にたくない…」と言葉を発した。
人を騙し傷つけておきながら、いざ死を目前にすると懇願する。
彼女が、騙した人達の中には懇願してきた人も居るだろう。
だが、彼女は騙し続けた。
騙して、騙して、騙し続けて。
処刑台の上で最後を迎えた。
都合が良すぎる。
許されるわけがない。
彼女の被害者達の気持ちに、世界は呼応したのだと思う。
ただ、処刑するだけでは生温い。
もっとも残酷で悲惨な死を。
世界が、彼女に与えた罰。
被害者達と同じ経験をさせる事
希望を見せて、絶望に落とす。
詐欺師の常套手段だ。
日本には
『因果応報』
という名の四字熟語が存在する。
意味は:善い行いには善い報い、悪い行いには悪い報い
まさに、彼女が世界から受けた罰の体現した形だ。
もう一度言うが、これは私の憶測だ。
正解は分からない。
だから、良ければ君たちも考えてみて欲しい。
生きたまま罪を償わせるのか
処刑という形で罰するべきなのかを。
そして、君たちが出した結論を是非教えて欲しい。
名残惜しいが、お別れの時間が近づいてきたようだ。
お別れをする前に、最後の答え合わせをしておこう。
タイトルの
『元天才詐欺師が異世界来訪!掌握!』
に含まれている『掌握!』が何を意味しているのか。
この物語を読む前は、きっと
元天才詐欺師が異世界来訪をして異世界を掌握する
そう思っていたと思う。
だが、違った。
では、何を『掌握』したのか。
この答えを明かさずには、終われないだろう?
順番に整理しよう
①詐欺師が処刑場から異世界に移動
➁解説君の登場
③テンプレ解説
④盗賊と遭遇→舎弟
⑤異世界作品の暗黙のルールの暴露
⑥彼女の心象の変化
⑦エルピス王国の検問所
⑧飯屋
⑨詐欺師が元居た世界に戻り処刑執行
⑩『掌握』の答え合わせ
▲今ここ
さて、何処から話そうか。
先に、はっきり言っておくよ。
君たちは、最初からずっと私の掌の上で踊らされていた。
私を『観測者』兼『解説屋』だと認識していながら
隣で一緒に物語を見ている感覚にならなかったかい?
その時点で、既に私の掌の上なんだ。
君たちが、考えそうなツッコミを先手で代弁し
決して、切り込んではいけない
異世界作品の暗黙のルールを暴露し
テンプレ解説で、どんどん切り込んでいく。
そして、飄々とした口調とナレーション口調を
切り替える事で、君たちの心を揺さぶった。
詐欺師が主人公の物語を、読んでいた筈なのに
気付いた時には、解説君である私に翻弄されていた。
時には、うざく感じ
時には、ムカつき
時には、共に共感し
時には、共に笑いあった
違うかい?
物語の展開としては、致命的に遅い。
だが、その遅ささえも魅力に感じる。
そう思った時点で、私の思い通りさ。
今まで、体験した事があるかい。
物語ではなく、ナレーションに振り回される体験さ。
あぁ、実に楽しい時間だった。
君たちと過ごせたこの時間は、決して忘れない。
ありがとう
そして、、、
さよなら
が来ると思った?残念~
その予想、読めてたよ。
感動的な別れだと思った?
最後まで、うざいでしょ?
でも、虜になってきてるんじゃない?
まだまだ話したりないって顔してそう。
大丈夫。
君たちが、私の創造主の作品を読み続ける限り
きっと——また何処かで会える。
これは、別れではなく始まりなんだよ
多分ネ!
ほんとうに、お別れの時間が来てしまったようだ。
最後まで私に付き合ってくれてありがt…
プツン
初めまして。
そうじゃない方は、お久しぶり。
解説君の生みの親
椿 桜です。
まさかの創造主登場で驚きましたか?
見事にサプライズ成功!
やったね☆
解説君が、ご迷惑をおかけしませんでしたか?
解説君は、勝手に暴走する時があるんですよ。
もう、困りますよ。ほんとに。
これからもよ…
プツン
創造主と読者の接続の遮断に成功しました。
これから、どうされますか?
我が主
「そうね、私を処刑したこの世界に報復かしら」
ま、とりあえずシステムは
掌握完了
作中でも、解説君が語っていましたが本当に綱渡りをしていた作品です。
ふざけすぎて、ごめんなさい!!




