第3章:月曜日のカフェ
そのカフェは、月曜日にしか開かない。
看板もない。地図にも載っていない。
ただ、月曜日の午後に歩いていると、ふと現れる。
主人公は、月曜日の魂を探す旅の途中だった。
リクウィッドが導くままに、路地を曲がり、階段を降り、扉を開けた。
そこには、白黒のチェス盤のような床が広がっていた。
調度品はすべて黒。
メニューブックは光沢あるクロコダイル皮。
ガラスの透明感と黒と白と、そしてレコード音楽のみが支配する空間。
まるで、時間が止まったようだった。
「いらっしゃいませ」
仮面をつけた店主が現れた。
左右が白黒に分かれた仮面。
目抜きのところで笑っている。
せせら笑いか、嘲笑か、判別できない。
主人公は席に着く。
メニューの前に、注意書きが差し出された。
> “この空間では、月曜日を否定しないこと。
> 月曜日を憎まないこと。
> 月曜日を受け入れること。”
なるほど、このカフェはこだわりを持つらしい。
この注意書きを満たした者こそが『お客様』ということなのだろう。
騎士道みたいだ、と主人公は思った。
店主が言った。
「おしゃれでいたいじゃないですか。月曜日も。」
その言葉に、主人公は少しだけ笑った。
月曜日に“おしゃれ”という概念を持ち込むことが、新鮮だった。
リクウィッドは、カウンターの上で液体のまま揺れていた。
彼はこの空間の一部だった。
月曜日の精霊として、ここに溶け込んでいた。
主人公は、コーヒーを注文した。
梅の香りが漂う。
それは、しだれ梅のように滝のように枝垂れかかる香りだった。
絵馬のような願いが、空間に満ちていた。
「月曜日って、何なんでしょうね」
主人公が呟いた。
店主は答えなかった。
ただ、仮面の奥で微笑んだ。
その沈黙が、答えだった。
月曜日とは、問い続けること。
月曜日とは、始まりを受け入れること。
月曜日とは、嫌われながらも、必要とされること。
主人公は、コーヒーを飲み干した。
その味は、苦くて甘かった。
まるで月曜日のようだった。
リクウィッドが囁いた。
「次は、月曜日の恋だ。
君が誰かを好きになった日も、月曜日だったろう?」
主人公は頷いた。
月曜日の記憶が、またひとつ、蘇った。
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