【短編童話・完結】グリフォンとおおかみさんのやくそく
暑い夏がやってきたというのに、雨のやまない寒い日が春から続いていました。
作物は育たず、大地は荒れ果ててしまいました。人々は困っていました。
北の人里から離れた山々で暮らすグリフォンとて、同じことでした。
さらに言えば、食べるものに困るだけでなかったのです。
彼らにとって一番大変だったのは、日課の日光浴でした。
雨雲の遥か上まで飛んで行って、お日様に当たらなければならなかったのです。
海の向こうの島は、いつでもグリフォンが来られるようにとご馳走を用意して待っていました。
お腹のすいたグリフォン達でしたが、それでも大きな大陸にいようとしていました。
ある日、1羽のグリフォンが日光浴の帰り、空腹から西の山に降りていきました。
「セシュールの人たちなら、食べ物を分けてくれるかもしれない」
グリフォンの思った通り、セシュールの人たちは僅かな穀物や果物を分け与えました。
「ありがとう」
グリフォンはいいました。
「おれいに、なにかできることがあればいってください」
すると、村人はいいました。
「俺たちの友達に、白くてきれいな狼がいる。狼は友達を探しに、一匹で里山を降りていった。そうしてすぐに雨が降り始めてしまった。俺たちはとても心配しているんだ。どうか、里山に帰るように伝えてほしい」
そういうと、村人はグリフォンに数少ない食べ物を括り付けました。とうぜん、グリフォンはわかったと答えました。
グリフォンが北の山に帰るころには、知らせを聞いて集まっていたグリフォンたちでいっぱいでした。食べ物はすぐに配り終え、なくなりました。
「これをたべたら、おおかみさがしをてつだってほしい」
グリフォンたちはもらった食べ物を夢中で食べると、一斉に飛び立って狼探しを始めました。
グリフォンは世界中を飛んで探し回った。どさくさに紛れて、南の島でごちそうを食べるグリフォンもいた。それでも、グリフォンは狼の事を訪ねるのとだけは忘れなかった。それでも、狼は見つからなかった。雨はずっと降り続けていた。
さらに東南の小さな島にもいった。その島にも、狼はおらず、誰も何も知らなかった。
途方に暮れていたグリフォンたちをみて、生まれたばかりのグリフォンの子供たちも、もらった食べ物のお礼にと狼探しに加わった。珍しい子グリフォンに、人間の子供たちが集まってきた。
「ねえみんな。ぼくたち、おおかみをさがしているんだ。どこかでみなかったかい」
すると、子どもたちは答えました。
「おおかみ!見かけました。食べられるかもしれないと、皆で追い返そうとしたんです。白くてきれいなおおかみさん。そうしたら、狼はクォーンとないて」
子供たちがないて見せました。
クォーン
「こんなふうに。とても悲しそうにないたんです」
「ぼくらはわけをたずねました」
「おおかみさん、そんなにかなしそうにないて、どうしたんだい」
「おなかがすいて、ぼくたちをたべるのかい」
すると、狼は子供たちに言いました。
「ぼくはともだちをさがしているんだ」
そこで、子グリフォンは尋ねました。
「そのおおかみさんは、まっしろで十字架を背負っていたの?」
「うん! そんな模様があったよ」
「そのおおかみだ!」
子グリフォンは大きな声を上げた。それを見ていた遠くのグリフォンも声を上げた。
「おおかみはどこへいったの?」
すると、子どもたちは指をさしていいました。
「エーディエグレスの森にいったよ。あの森は大きくて広いから、きっと友達も迷子になってると思ったんだ」
「もりか!」
子グリフォンは急いで皆に知らせました。
すぐさまグリフォンたちはエーディエグレスの森に集まり、空からではなく、森に降りて狼を探しました。
すると、森の中には岩で出来た洞窟がありました。
冷たくて、暗くて、どんよりとした洞窟でした。
グリフォンたちは、恐る恐る洞窟にはいっていきました。
洞窟からは、大きななき声が聞こえました。
子供たちがないてみせた、あのなき声でした。
クォーン!
洞窟の中には、白くて綺麗な狼がいました。背中には十字架模様がありました。
狼は大声で泣いていたのです。
「おおかみさん、さがしたよ。どうしてそんなにないているんだい」
すると、狼は泣きながら言いました。
「ともだちが、ともだちがしんでしまったんだ。ぼくは、まにあわなかったんだ、クォーン!」
グリフォンたちも悲しくなって、皆泣いてしまいました。
雨はどんどん強くなっていきます。
すると、年老いたグリフォンがやってきていいました。
「おおかみさん、みんな、かなしいのはわかるけど、きみがないていると、あめがやまないんだ。みんな、あめにこまっているんだ。どうかなきやんでおくれ」
狼はなきやみません。もっともっと泣いてしまいました。
ワァーン!
困ったグリフォンたちは、狼の気を引こうとしました。
セシュールのひとの真似をしました。
タウタウ
フェルドの獣人たちの真似もしました。
ガウガウ
踊って見せたり、歌って見せたり、逆立ちをしようとするグリフォンもいました。
それでも狼はなきやみません。
すると、お母さんグリフォンがいいました。
「ねえ、おおかみさん。おともだちのことが、とってもとっても だいすきだったのね。わたしたちも、かぞくのことはだいすきよ。だから、きもちはわかるわ」
お母さんグリフォンは優しく言いました。
「あなたの だいすきなおともだちは、かなしんで なきつづけているあなたをみて、どうおもうかしら」
お母さんグリフォンは子供達に向かっていいました。
「みんなは、だいすきなかぞくや、おともだちがないていたら、どうおもう?」
皆は口をそろえていいました。
「かなしい」
狼は耳を傾けていました。
「どうしていてほしい?」
今度はそれぞれが好きにいいました。
「わらっててほしい」
「たのしくしてほしい」
「ないてほしくない」
狼はハッと気づいて、なくのをやめました。
すると、どうでしょう。
空を覆っていた真っ黒な雲たちが、一斉に消えていったのです。
合間をぬって、太陽が顔を出しました。
空はすっかり晴れていました。
グリフォンたちは大喜びしました。
踊るグリフォンもいました。
歌うグリフォンもいました。
逆立ちしたグリフォンもいました。
狼はそれをみて、大笑いしました。
皆でひとしきり笑うと、グリフォンはいいました。
「おおかみさん、さとのみんながしんぱいしているよ。はやくかえったほうがいい」
「それはたいへんだ。ともだちのみんなを、しんぱいさせてしまった。はやくかえらないと」
すると、一番大きなグリフォンがいいました。
「ぼくのせにおのり。ひとっとびしてあげよう」
狼は大きなグリフォンに飛び乗ると、皆で空に飛びたちました。
狼はいいました。
「ありがとう、おやすみ、だいすきなともだち……」
そしてつぶやくようにいいました。
「ありがとう、ぐりふぉんのともだち。ひとのともだち」
とてもとても小さな声でした。人間だったら聞こえなかったでしょう。
それでも、優秀なグリフォンたちはその呟きを聞き逃しませんでした。
狼は最後に一滴の涙を流しましたが、空はあおあおとしていて、晴れ渡っていました。
グリフォンたちのおかげで、狼は里山に帰りました。
村人たちは大いに喜んで、狼を囲って抱きしめました。
他の村からも、狼を心配していた人たちが集まりました。
そして、グリフォンたちを手厚くもてなしたのです。
皆で踊ったり、歌ったり、逆立ちをして、お祭りをしました。
それをみて、セシュールの守護獣であるケーニヒスベルクは、皆に加護を与えたといいます。
「皆が、ずっと仲良く、友達でいられますように。
いつも楽しく、踊って歌って逆立ちできるように」
そうやって出来た、やくそくのおまつりは、今もセシュールで皆に楽しまれています。
よく勘違いされるのが、このお祭りがタウ族の興したお祭りであるということなのです。
グリフォンたちは、そのおまつりのために、遠い北方からやってくるのです。
タウ族だけで出来るお祭りではありません。
そのお祭りは、狼がいなくなっても、ずっとずっと続いているのです。
ずっとずっと続く、友達との絆のように。
ーおしまいー
暁の荒野、暁の草原、夜明けのヴルーメンヴィーゼという小説と連動しています。興味がありましたら読んでみてください。Nolaノベル様、カクヨム様にて投稿しております。
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2025/6/19 読みやすいように改行を加えました。
2025/6/27 少々の加筆を加えました。