表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/52

第五話 ゴーレムはロマンの塊

 今日も今日とて魔物を倒し、通路に落ちてる武器や箱の中の道具を拾いながら探索探索。

 いやぁー、生きてるって素晴らしいー。


 跳ね飛ばされた頭部を追いかけながら、のんきにそんな思いを抱いてみた。


「おっととと」


 何とか追いついて、そのまま首と頭をくっつける。

 間違って頭を反対向きにつけそうになり、慌てて元の向きに戻した。


「てか、やっぱ強いなぁ」


 どれだけ階段を降りてきたのか数えていないのでわからない。

 けれどだいぶ降りてきたことだけは、目の前の敵と対峙して分かった。


『コォォォォ』


 まるで窓の隙間風のような声を上げ、こちらを睨み据える機械染みた魔物。

 その姿はゴーレムと言うに相応しく、身体は硬い金属に覆われている。

 両の手で大きな剣を持ち、やたらめったらと振り回してくるので近づくのが大変だ。

 初めて出会うその魔物は、今まで戦ってきた魔物たちとは比べ物にならないほど明らかに強い。


「うーん。こういう敵には……」


 とりあえず無造作に突っ込んでみると、すぐさま銀に光る刃で一閃される。

 その軌道を何とか目で追い、左腕でガード――駄目でした。

 左腕ごと顔を半分に断たれて大量出血。そしてすぐさま再生する。


「よし、今度こそ」


 再び挑むと、今度は剣の軌道がさっきよりも見える。

 二閃、三閃とされるその剣を紙一重で躱し、ついにゴーレムの懐に潜り込む。


「ていっ!」


 久しぶりに本気で拳を振るうと、ゴーレムの身体は爆散した。


「おお、攻撃は効くね」


 懐に入るまでは難しいけど、割と身体は脆いようだ。これまでの魔物たちと同じように、拳の一撃で粉砕できる。これなら何とかなるかもしれない。


――そう考えていた時期が、私にもありましたよ。ええ。


「うげぇ、さっきのゴーレムより明らかに強いじゃん……」


 続いて現れたのは、先ほどより一回りも身体が大きく、なんだか黒光りしているゴーレムだった。

 両の手のそれぞれに大きな剣を持つ二刀流で、こちらを見据える機械質な眼は爛々と赤色に輝いている。


「と、とにかく懐に――」


 先ほどのゴーレムを倒した時と同じように、拳が当たる距離まで近づこうとした私は、危機感を覚えて咄嗟に身体を右に傾けた。

 その刹那、まるで古びた蛍光灯が点灯する時のような『ジジジ』と言う音が聞こえ、私の上半身は一瞬にして蒸発した。

 

 こ、これは――レーザーってやつ?


 すぐさま生えるように上半身は再生したけれど、上は完全にすっぽんぽんだ。慌てて不思議巾着から、毛皮で作った予備の衣を取り出し身に纏う。 

 いやぁ、吹き飛ばされたのが上半身でよかった。

 もし下半身が吹き飛ばされていたら、腰から下げている不思議巾着がどうなっていたかわからない。

 不思議巾着のことだから、もしかしたら残るのかもしれないけれど、怖ろし過ぎて試してみる気にもならない。何せこの巾着の中には、迷宮内で拾いに拾ったアイテムや装備品、ガラクタ、それに魔物のお肉などが収納されているのだ。

 今失ってしまうには、あまりにも勿体ない。


「あのレーザーを何とかしないと……」


 再び黒いゴーレムに対して構えると、黒ゴーレムの赤い目が一層赤色に光る。不味いっ! おそらく目がレーザーの発射口だっ。


「うわぁぁ――」


 慌てて黒ゴーレムの視界から外れるように動いたけれど、間に合わなかった。今度は頭部が完全に消し飛ばされる。


「くそっ。レーザー速すぎ……」


 頭部が再生すると一旦距離を取り、私はその場で軽く飛び跳ねた。

 レーザーは速すぎるので、今の私でも近づきすぎると避けられない。けれど、レーザーを放つためには一瞬だけ間ができる。おそらくだけど、レーザーを射出するため眼にエネルギーを集めているのだろう。 

 狙うならその隙。つまり黒ゴーレムが、レーザーを放つ暇を与えず懐に潜り込めばいいのだ。


「よーし、やるぞ。やってやらぁっ!」


 ジャンプをして足が軽く解れたところで、私はゆっくりと黒ゴーレムに近づいた。

 そして黒ゴーレムが反応してくるギリギリのところで、地面を蹴って一気にゴーレムへと肉薄する。


 黒ゴーレムの眼が光る――が、私が黒ゴーレムに迫る方が速い。懐にさえ入れば、お得意のレーザもこちらには当てられまい。よし、勝ったっ!

 

――なんて、内心でそんなフラグを立てたのが悪かったのかもしれない。


「ぐへっ?」


 痛みと衝撃が走り、自分の身体がグラつくのがわかった。

 何が起こったのかと見下ろせば、肩から腰に掛けて斜めに両断されている。見上げれば黒ゴーレムが右手に持つ剣に血が付いていた。

 どうやらレーザーにばかり注意が行き過ぎて、黒ゴーレムの持つ剣への対応が疎かになっていたようだ。とんだ失態である。


「……うーん、分かった。痛いししんどいからこの手は使いたくなかった。本当に嫌だった。けど……仕方ない」


 身体をくっつけた私は、再び黒ゴーレムから距離を取った。

 周囲を見渡し魔物がいないことを確認してから、腰から下げていた不思議巾着を隅に置く。


 そうして準備が整ってから、私は翼のように両腕を広げた。

 まったく。こんな手は迷宮の上層で、あまりに魔物に殺されまくって苛ついたから使っただけで、二度と使うつもりはなかったのに。


「やい、黒ゴーレム。あなたを強者と認めたからこそ、卑怯な手を使わせてもらうよ」


 そう宣言し、ゆっくりと黒ゴーレムの方へ近づいた。

 黒ゴーレムは警戒したように目の色を濃ゆい赤色にし、いつでもレーザーを放てる態勢に入る。機械染みた魔物のくせに、まるでこちらを威嚇しているようだ。

 だけどもう、今はそんなこと関係ない。


「ほら、どうぞ? 撃ちたいのなら撃てばいい」


 さらに無造作に二歩、三歩と歩を進めれば、さすがに看過できなかったのか黒ゴーレムからレーザーが飛んでくる。

 やはりその軌道を眼で捉えられず、私の身体は一瞬で蒸発――そしてやはり、一瞬で再生。

 全裸になってしまったけれど、構わずそのまま歩を進める。  


『ギギ、ガガ』


 今度は不可思議な機械音が響き、今ままで動くことのなかった黒ゴーレムの口が開いた。

 そして筒のような物が顔を覗かせ、そこから拳大の弾が射出された。


「はぁ、そんなのもあったの?」


 レーザーと違って避けることもできたけど、敢えて直撃を受ける。

 どうやらただの鉄球ではなく、炸裂弾だったようだ。

 私の身体に直撃した瞬間に弾けて、私の身体をバラバラに吹き飛ばした。初めて体験する死に方でくっそ痛い。


「この野郎、後で覚えておけよ?」


 まき散らされた肉体がすぐに繋ぎ合わされ再生し、私は痛みの余韻に思わず呟いた。

 そして一呼吸を置くと、再び黒ゴーレムの元へと歩を進める。


 それからというもの、黒ゴーレムに近づくたびにレーザーや砲弾で吹き飛ばされ再生し、懐に辿り着いたところで剣で細切れにされ再生し……それはもう、死んで死んで死にまくった。

 そしてそのおかげで、だ。


「ありがとう。あなたのお蔭で私はまた一段と強くなった」


 もはや眼で追えるようになったレーザーを、右掌で軽く弾く。

 発射された砲弾は拳で粉砕し、振り下ろされた剣は頭突きで圧し折る。

 

 懐へ堂々と近づく私に、黒ゴーレムは最後の最後まで抵抗を見せ攻撃を続ける。が、この期に及んでは、その攻撃の何もかもが無意味と化していた。

 

「さようなら」


 私のパワーアップに付き合ってくれた黒ゴーレムに敬意うらみを込め、中指を親指で抑え軽く力を籠める。そして腹付近にデコピンを食らわせてやった。


『ガ、ピ……ガ』


 腹に大穴を空けた黒ゴーレムは、そんな機械音を残して迷宮の床に倒れ伏す。

 メカらしく最後に大爆発でもあるかと身構えたけど、どうやら杞憂だったらしい。完全に動かなくなった。


「――さて、と」


 久しぶりに苦戦した難敵との勝負を終え、拾い上げた不思議巾着から予備の皮衣を取り出し纏う。

 あまり使いたくない禁断の奥義、名付けて『相手を超えられるまで死に続ける大作戦』まで使ってしまったのは予想外だった。私もまだまだ井の中の蛙だったようだ。もっともっと強くなる必要がある。

 きっとこの迷宮を出られたとしても、外の世界には黒ゴーレムより強い存在や魔物なんてごまんといるに違いない。

 人生を順風満帆に謳歌するためには、できる限りの力が欲しい。

 いつだって世界は理不尽だ。だからこそ、理不尽に抗えるだけの力を手に入れなくては。


「よーしっ! もっともっと頑張るぞー! おおっ!」


 誰も聞いちゃいない声でやる気を入れ直す。そしてさっそく立ち塞がった新手の黒ゴーレムを、一蹴りでスクラップにした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ