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『不死』という、単純にして最強なチート。  作者: 津野瀬 文
第二章

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第五十四話 災厄の予感(ウィリオ視点)

「おいおい、驚いたな。新人の緑色冒険者にしては大した健脚だ。昇級したら、うちのパーティーに入ってもらいたいくらいだ」


 背後から声を掛けられ、ウィリオは歩きながら振り向いた。

 見れば赤色冒険者パーティー『黄昏(たそがれ)ガラス』のリーダーでもある、ノレンと名乗った男が額に薄い汗を浮かべて苦笑している。

 彼の後から少し遅れてついてきている二人のメンバーも、それぞれ息を切らしているのが見えた。前方を警戒し、後ろを気にせず歩いていたため気付いていなかったが、どうやら自分のペースは早かったようだ。

 ウィリオも額に浮かぶ汗を拭き、わずかに乱れていた息を整えながら立ち止まる。


「すみません。少し速度を緩めます」

「いや、いいさ。緑色冒険者に合わせてもらわないといけないほど、俺たちはやわじゃない。そうだろう、お前たち? まだまだ歩けるよなっ?」

「お、おうっ! 当然だっ! ぜぇ……はぁはぁ」

「あたり、まえよ……ふぅ、ふぅ」


 ノレンの呼びかけに、大柄な戦斧を背負った男と細身の女がそれぞれ勇ましく返した。

 もっとも、威勢がいいのは言葉だけで息も絶え絶えといったその様子は、遠目でも空元気なのが良く分かる。


「おいおい。説得力がないぞ、二人とも。いやぁ、悪い。戦いとなれば頼りになる二人なんだが、体力の方はイマイチでな。こいつらはともかく、他の赤色冒険者に幻滅しないでやってくれ」


 仲間二人に呆れた視線を送った後、ノレンはウィリオに向けて肩を竦めて見せた。


「いえ、大丈夫です。それより『風嵐獅子(ウガルルム)』が現れた場所も近いので、この辺りで少し休憩しましょう。俺も少し疲れました」

「そうか、悪いな。おーい、二人とも。ここらで少し休憩だ。ここまでは頑張れっ」


 提案したウィリオに、ノレンは申し訳なさそうな顔をした後、のろりのろりと近づいてくる二人へ手を振って呼びかける。


「お、よしきたっ!」

「その言葉を待っていたのよっ!」


 途端に息を吹き返したように、早歩きで接近してくる二人。どうやら思っていた以上に体力は残っていたらしい。

 我先にと争うようにウィリオ達の元へ辿り着くや否や、手頃な岩の上へと腰を掛ける。そして各々、持ってきていた水筒を取り出し水分補給を開始した。


「おいおい、有り余るほどの元気じゃないか。ったく、少しはウィリオ君を見習えよ」

「うるさいわね。私は体力よりも頭脳派なのよ。そんな小言は、そこの筋肉達磨に言いなさい」

「俺だって体力よりも筋力派だぜ? 普通のペースならまだしも、こんな山道を強行軍なんて向いてねぇよ」


 ノレンの指摘に、女も男も面倒くさそうに答える。

 そのお互いに気を遣わない言い合いに、彼らの実力はともあれ随分と雰囲気が良さそうなパーティーであることは見て取れた。


 全員の左手の甲に聖紋があるのを見れば、彼ら『黄昏ガラス』は全員が恩寵者なのだろう。

だが、恩寵者だからといって必ず赤色冒険者になれるわけではない。三人とも一定以上の実力があることを認められてその地位にあるはずだ。

 最終的には黒色冒険者を目指すウィリオとしても、この機会に学ぶべき知識や技術は吸収させてもらうつもりだった。


「しっかし、『風嵐獅子』か。魔大陸にのみ棲息する魔物が、なんだってこんな山奥にいたんだ? 魔大陸とアルシルド王国は気軽に行き来できるような距離じゃねぇーぜ?」


 一息ついた大柄な男――たしかリンガルと名乗っていた――が、口元を拭いながらボヤくように呟いた。

 それに同調するように細身の女――こちらはタルトと言った――が、コクリと頷く。


「そもそも、図鑑に載っている説明がたしかなら、『風嵐獅子』はかなりの巨体よ。魔大陸から飛んできたのなら、ここへ来るまでに必ず目撃されているはず。それが一つもないなんて、ちょっと考えられないわね」


 リンガルとタルトの何かを含むような口ぶりに、リーダーであるノレンが呆れたような視線を二人へ向ける。


「おいおい。お前ら、ここまで来てウィリオ君を疑っているのか?」

「そうじゃねぇーよ……いや、悪いが最初は疑っていた。なにせオルラヌン大陸での『風嵐獅子』の目撃情報なんて、今まで一度もなかったらしいからな」

「それに、『風嵐獅子』の強さは推定で危険度A。赤色冒険者パーティーの私たちで何とか対応可能レベルじゃない? そんなのを、緑色冒険者が単独で討伐したなんて言われたら、どうしたって最初は疑ってしまうわ。リーダーだってそうでしょう?」

「……むむ。それは、まぁそうだな」


 二人に同意を求められたノレンは、チラリと視線をウィリオに一度送ってから、気まずそうに歯切れ悪く頷いた。


「け、けどな、ウィリオ君。今は君を欠片も疑っちゃいないぞ」


 そしてすぐに、気遣うように慌てた様子で言葉をつなぐ。


「そうなんですか?」

「ああ。そうだよな、お前たち?」

「……ええ。初めは功名心からデタラメを吹聴しているだけかと思ったけど、この子はそんな風には思えないもの」

「坊主は、あの黒色冒険者イギリム様の弟子なんだろう? そりゃあ実力はあるだろうし、ここに来るまでの健脚を見せられたらただ者じゃねぇことくらいわかる。少なくとも、嘘をつかなきゃ手柄を上げられない雑魚ではないだろうよ」


 タルトとリンガルの言葉に、ノレンは我が意を得たりとばかり何度も頷く。そして満足気にウィリオへ顔を向けた。


「さすがに駆け出しだという君一人で、赤色冒険者パーティーに匹敵する強さがあるとは、思いにくい。ただ、君の実力が一般的な緑色冒険者の範疇に納まらないことは察せられる。そして『風嵐獅子』はもともと情報の少ない魔物だ。もしかすると推定危険度Aは誤りで、もう少し弱いのかもしれない。それらを踏まえると、君一人で『風嵐獅子』を討伐したのも不可解なことではないように思えるんだ」

「……ノレンさん。それは――」


 ノレンの話に、ウィリオは口を挟みかけてやめる。

 たしかに、ノレンの弁は合理的だ。今ある情報を元にすれば、彼ら『黄昏ガラス』がそれ以上に納得のできる説明はないだろう。

 だが違うのだ。

 ウィリオが相対した『風嵐獅子』は、間違いなく危険度Aに達していたはずだ。赤色冒険者パーティー以上で対応すべきなのは間違いない。

 そしてそもそも(・・・・)『風嵐獅子』を単独で倒したのは、緑色冒険者のウィリオではない。ポーターに過ぎない同行者(リィラ)だ。彼女が緑色冒険者よりも赤色冒険者よりもはるかに強く、黒色冒険者にさえ迫るのではないかという力で一蹴しただけだ。

 ウィリオ自身は何もできなかった。


「うん? ウィリオ君?」

「……いいえ、なんでもありません」


 しかしその事実は、話したところで相手を混乱させるだけだ。

 こちらを信じて『風嵐獅子』出現の原因を探ろうとしてくれている彼らに、余計な不信感を与えてしまうだけになる。

 何も話せない罪悪感ともどかしさに顔をしかめながら、額を掻くふりでそれを隠した。


「はいはいはい」

 話が一段落したのを見計らったかのように、タルトが両掌を軽く打ち鳴らす。


「話を戻すわよ。さっきも言ったけど、魔大陸からここまでかなりの距離があるわ。その距離を目撃情報もなしに飛んでくるのはほとんど不可能。もちろん、陸地を行けば余計に目立つことになるからこれも無理」

「海路はどうだ? そういや、海にも大物の魔物が出たって聞いたが?」


 リンガルの言葉に、ノレンがやんわりと首を横に振る。


「おいおい、海上だって船や島々があるんだぞ? 潜ってくるならまだしも、それらにいる全ての人々の視線を避けてここまで飛んでくるのは難しいだろう」

「ちっ。人の目、人の目、人の目っ。そんならもう、瞬間移動するくらいしか残ってねぇーよ」

「ええ、私もそうだと思うわ」


 吐き捨てるように言ったリンガルに、タルトがあっさりと頷いた。


「あっ? どういう意味だ?」

「私の見立てでは、おそらくこの周囲に『転移陣《ゲート》』があるはずよ」

「『転移陣』? おい、タルト。そんなものが本当にもしあったとして――おいおい。大変なことになるぞっ!」


 タルトの言葉に俯いて思案していたノレンが、目を見開いて慌てたような声を出す。

 ウィリオもその言葉を聞いて絶句した。

 もし、タルトの見立て通りこの場所に『転移陣』があったとしたら、とんでもないことになる可能性がある。

 下手をすればヘベン市が、いやアルシルド王国――果てはオルラヌン大陸存亡の危機に陥るかもしれない。


「リーダー、何慌ててんだ? 『転移陣』ってあれだろう? なんか、人や物を陣から離れた陣へ一瞬で送る便利なやつ。たしかにそれなら『風嵐獅子』が誰にも見られずに山にいた理由も分かるけどよぉ、そんなに慌てることか?」


 一人だけ暢気に振る舞うリンガルに、タルトがこれ見よがしに溜息を吐いた。


「馬鹿ね。仮にこの場所に『転移陣』があったとして、ここと繋がっている先はどこになるのかしら?」

「ああ? そりゃあ、通って来たのは『風嵐獅子』で、『風嵐獅子』は魔大陸にしかいないんだから――ま、魔大陸っ!? ば、馬鹿、おめぇっ! ここと魔大陸が繋がってるってのかよっ! やばいじゃねーかっ!」

「だから馬鹿はお前だ。もう少し静かに話せ」


 事の重大さが分かり声を荒らげるリンガルに、ノレンが彼の額を叩いて窘める。


「ここに『転移陣』があるとしたら、必ずそれを設置した奴らが近くにいるはずだ。できるだけ気付かれずに探すぞ。ウィリオ君、案内を再開してもらえるかな?」

「はい、わかりました」


 休憩どころではなくなってしまった。

 仮に魔大陸に繋がる『転移陣』がここにあるとしたら、当然だが何者かが意図的に用意したことになる。

 何者かは不明だが、間違いなく魔大陸の関係者で、考えられる設置理由など一つ。魔大陸からオルラヌン大陸侵攻への足掛かりとなる拠点の役割だ。

 

「やべーぞ。ここから魔大陸の魔物がわらわら出て来るなんて事態になれば、とんでもないことだ。今いる戦力じゃ、とてもヘベン市を守れねぇ」

「それもですが、今、もっとも危惧すべきことは、魔大陸からオルラヌン大陸への侵攻が始まったかもしれないということです」

「ああ、そうだ。それはつまり――」

「はい。魔大陸で、新たな魔王が誕生したことを意味します」


 ウィリオの核心を突いた言葉に、赤色冒険者パーティー『黄昏ガラス』の面々は、同意を示す様に重々しく頷いた。


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