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『不死』という、単純にして最強なチート。  作者: 津野瀬 文
第二章

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第五十三話 吉報と不穏

「ぬぅ。それにつけても、昨日のイギリム殿には参ったでござる。よもや鍛錬場を半壊させるとは」

「そ、そうだね……」


 イギリムさんと手合わせした翌日。

 冒険者組合へ向かう道すがら、レイさんが感心しきりとばかりに同じ話題を繰り返す。


「拙者、不覚にも気絶していたため見られなかったでござるが、一体如何にしてイギリム殿はあれほどの破壊を?」

「いやぁ、その……あれだよ。なんか、必殺技だってさっ!。め、『命力マジカルウルトラスーパーハイパーマックスミックスベジタボー』っ! とか言ってたような? 違ったようなぁ?」

「ぬぅ? め、命力マジカ……ぬぅ、ぬぅ。なるほど……すごい技でござるなぁ」


 キラキラした眼で私に迫って聞いてきたレイさんは、その言葉でたじろいだように身を引いた。

 あまりにも必殺技の名前が適当すぎて拍子抜けしてしまったのかもしれない。

 いやだって、咄嗟に思い付いたのがそれだったんだもん……。


『フム? リィラよ、『ベジタボー』とはどのような技なのだ?』


 内心で言い訳した私に、エルゲアが暢気そうに聞いてくる。

 いいんだよっ! そこに引っ掛からなくてっ! 適当に聞いたことのある言葉を適当に並べただけなんだから。

 エルゲアの疑問を無視し、私はレイさんから顔を背けて溜息を吐く。


 とにかく、昨日は本当に危なかったよ。

 鍛錬場を半壊させてしまった後、イギリムさんが機転を利かせて自分がしたことにしてくれたから良かったものの、そうでなければ私が修理代を出すハメになっていた。

 もちろん、私が仕出かしたことだから仕方ないんだけど、それでもとてもじゃないけれど払えなかっただろう。

 私はポーターとしてしか依頼を受けていないから、レイさん程はお金を稼げていないのだ。まぁ、基本的に戦っているのはレイさんだからしょうがないね。納得はしている。

それに、たとえレイさんくらい稼げていたとしても、あれだけ半壊した鍛錬場の修理費用は出せなかったと思う。

もう少し加減というものを覚えなければ、今回のように自分で自分の首を絞めちゃうことが増えそうだ。気を付けなきゃね。


 結局、昨日はイギリムさんが修理代を立替えてくれた上、きちんと手合わせ料まで払ってくれたので彼には感謝しかない。

「いいものを見せてもらった」と色まで付けて私とレイさんにそれぞれ五十万ゴルドずつ。

 この前、『将軍猪人(ジェネラル・オーク)』を一緒に討伐した時もそれくらい貰ったし、やっぱり黒色冒険者はそれだけ羽振りがいいようだ。

 

「ぬぅ、組合でござるな。然らば拙者はここで。リィラ殿なら問題なかろうが、くれぐれも気を付けるでござるよ」

「はーい。レイさんもお師匠さん、頑張ってね」


 冒険者組合の前まで来ると、レイさんが軽く手を挙げて暇を告げる。

 それに応えて手を振って、彼女が見えなくなってから私も組合の中へと入った。


「あ、リィラさんっ! ちょっとこっちに来てもらっていいかしら?」


 私が組合に入るとほとんど同時に、カウンターの奥からお馴染みのビオラさんが呼びかけてくる。


「なになに? どうしたの?」

「来て早々ごめんね。ウィリオさんから言伝を預かっているのよ」


 彼女がいるカウンターの前まで行くと、ビオラさんは笑みをつくってそう言った。


「えっ? ウィリオ君から? ってことは、もう組合に来てたの?」


 周囲をさっと見渡してみたけれど、彼の姿はどこにもない。

 まぁ、ビオラさんが『言伝を預かっている』と言ったからには、すでにここにはいないのだろうけど。


「ええ。昨日、来られなかったことがよっぽど悔しかったんじゃないかしら? 随分と早い時間から来てたわよ」

「そうなんだ? それで、今はどこに?」

「それが、昨日の夜に赤色冒険者パーティーが帰ってきてね。今日、さっそくクレム遺跡跡地の調査をすることになって、来ていたウィリオさんに道案内をお願いしたのよ」

「ああ、昨日言ってたことだね? そっかぁ」


 たしかに昨日、イギリムさんと手合わせする前にビオラさんがそんな話をしていた。

 何でも、私かウィリオ君に『風嵐獅子(ウガルルム)』って魔物が出たところまで赤色冒険者たちを案内して欲しいとかなんとか。

 どうやらウィリオ君は案内役に駆り出されたらしい。


「でも、大丈夫かなぁ? ウィリオ君、昨日は疲労で動けないほどだったのに」

「組合に来たときは元気そうだったわよ。それに、戦闘になれば赤色冒険者が前面に立つはずだし問題ないと思うわ。ウィリオさんと向かった赤色冒険者パーティーなら、仮に『風嵐獅子』が出たとしても対処できるはずよ」

「そう? ならいいんだけど」


 少し心配だけど、黒色冒険者の次に強い赤色冒険者たちと一緒にいるなら大丈夫だろう。それよりも気になるのは、


「それで? ウィリオ君からの言伝って何かな?」

「ええ。何でも今日、イギリム様は軽い腰痛で、大事を取って泊っているホテルで静養されているそうなのよ。そのイギリム様に、ウィリオ君がクレム遺跡跡地に向かったことをリィラさんに伝えておいて欲しいそうよ」

「ああ、そういうこと? いいよ。わかった」


 どのみち、レイさんやウィリオ君がいなければ、白色冒険者の私は大した依頼は受けられない。

 それなら彼の言伝どおり、イギリムさんへ伝えに行くのもいいだろう。

 ビオラさんからイギリムさんたちが泊っているホテルを聞いて、私は組合を後にした。




 教えられたホテルは、組合から少し距離はあったけれど、さすがに黒色冒険者が選んでいるだけあって、見るからに高級感を漂わせていた。庶民的な宿屋に泊まって久しい身としては、少し気後れしてしまう。

 それでも受付でイギリムさんに会わせてくれるように頼んだら、少し待たされた後に部屋へと案内してもらえることになった。

 きっとイギリムさん本人へ確認してくれたのだろうけど、門前払いにされなくてよかったよ。


「おお、リィラ嬢。おはよう」


 ホテルの人に連れてこられた部屋をノックすると、イギリムさんがにこやかな顔をして現れた。立ち振る舞いを見るに、それほど腰は痛そうじゃない。


「ウィリオから言伝を預かっているそうだのう? まぁ、部屋に入んなさい」


 イギリムさんは私を部屋に招き入れると、椅子を勧めてくれたので遠慮なく座らせていただく。

 やはり外観が立派なホテルだけあって、部屋の内装も上品でお金がかかっている感じだ。

 そんな風に、物珍しくてついつい部屋の中を眺めてしまう。っと――。


「……うん? 手紙?」


 視線を巡らせていると、テーブルの上に置かれた封筒と紙に気付く。

 その状態を見るに、先ほどまでイギリムさんが読んでいたのは明白だった。


「ああ、さっき届いた報せじゃよ」


 イギリムさんは、用意してきたお茶が入っているグラスを私の前に置きながら、微笑を浮かべる。

 どうやら「届いた報せ」とやらは良い物だったらしい。


「実はな、ウィリオには妹がおるんじゃが――」

「ああ、知ってるよ。幼い頃に生き別れになったんだって?」


 話を切り出したイギリムさんに相槌を入れると、彼は驚いた顔をして私の前にある椅子へ座る。


「なんと。ウィリオの奴、お前さんにそこまで話しとったか? 『クレム遺跡跡地で命を救われた』と言っておったが、そこまで心を許しておったとはのう。なるほど……」

「それで? その妹さんがどうかしたの?」

「……うむ。ウィリオは妹と再会するため、冒険者として名を挙げ気付いてもらおうとしておる。ウィリオのその意志を尊重するつもりじゃが、儂は儂で、ウィリオの妹がどこにいるのか探偵を使って調べさせておるんじゃ」

「まぁそうだよね。本当にそんなに有名な冒険者になれるかなんて分からないし、なれたとしてもどのくらいかかるかだって予想もつかないもんね」


 イギリムさんの言葉に、私も納得して頷いた。

 ウィリオ君は本気で黒色冒険者になって妹さんに存在を知って欲しいと思っているんだろうけれど、並行して正攻法で探すのも理に適っていると思う。出会える可能性が少しでも上がるはずだ。


「そしてこの手紙は、雇っている探偵からでな。『ウィリオの妹らしき人物を見つけた』との報せだったんじゃよ」

「ええっ? 本当に? それは良かったねっ!」

「ほっほっほ。落ち着くのじゃ、リィラ嬢。あくまでも『らしき(・・・)人物』じゃからな。確定したわけではないからして、ウィリオにも実際会って確認してもらわんとならん」


 私に冷静な言葉をかけたイギリムさんだったけれど、彼の口角も上がっていて笑みを隠しきれていない。その様子を見れば、イギリムさんも期待していることがわかった。


「それで? ウィリオはどうしたんじゃったか? ウィリオの妹はここから遠く離れた町にいるらしいからのう。できるだけ早くこの街を発たんといかんのじゃが……」

「ああ、ウィリオ君なら――」


 私がイギリムさんに事情を説明すると、彼は「なるほど」と頷いた。


「そうか。思ったより赤色冒険者らも早く帰って来たんじゃのう。まぁ、それならその案内が終わった後でもいいじゃろう。今までさんざん待ったんじゃ。もう少しくらいなら待っても良かろう」

「えぇー。でも、ウィリオ君ってばけっこう妹さん思いっぽいから、できるだけ早く教えてあげた方がいいんじゃない? 私、教えてこようか?」


 ウィリオ君と話した様子から、彼が妹さんの事をどれだけ想っているのか何となく伝わってきていた。そもそも、よっぽどの覚悟がなければ、『妹に見つけてもらうために黒色冒険者になろう』なんて発想にはならないはずだ。

 ウィリオ君に知らせて、私が彼と案内役を代わればすぐに戻ってこられるんじゃないかと思って提案してみると、イギリムさんは苦笑して首を横に振った。


「ほっほ、リィラ嬢は優しいな。しかし、今からクレム遺跡跡地に向かったところで間に合わんじゃろう? ウィリオ達は朝早くに向かったと言うし、気を揉まんでも案内程度なら直に帰ってくるじゃろうて」

「うーん、たしかに……」


 急げばすぐにつくとは思うけど、さすがにそんなことをすれば建物や人に被害が出るのは何となくわかる。というか、昨日の鍛錬場の半壊で懲りたよ。割と手加減したつもりだったのにあんなことになっちゃったからね。イギリムさんの威力十分なパンチに、知らずにテンションが上がっていたのかな?


「まぁ、それじゃ少し待ち――」

――ますか、

 と、イギリムさんが用意してくれたお茶に手を付けようとしたとき、


『ふむ、リィラよ。クレム遺跡跡地とは、吾輩が住処にしていた場所で良かったか?』


 今まで静かにしていたエルゲアが、確認を取るように思念を送ってきた。


「うん? そうだよ。『大御神』()が棲んでいた『神威の迷宮』のことだよ」


 そんな風に、イギリムさんに聞こえないように茶化して言ってお茶を飲むとエルゲアは取り合うことなく至って冷静な思念を送ってくる。


『ならば向かった方がいいのではないか? ここにいる吾輩に気配を感じさせる程度には、力を持った魔物が湧いておるようだぞ?』

「――ぶっ?」


 口に含んでいたお茶を噴き出しそうになった。てか、少し噴き出してイギリムさんにかかった。ごめんなさい……。




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