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『不死』という、単純にして最強なチート。  作者: 津野瀬 文
第二章

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第三十七話 唐突な弟子候補


 冒険者組合でリィラたちと別れたレイは、イギリムに預けられた手紙を届けるため、教会近くの酒屋へと向かっていた。

 酒屋の名前は『ラムタルド』と言い、手紙を渡すべき相手は『フィルダ』。


「よし、しっかり覚えているでござる」


 何度も何度も内心と声に出して確認をし、そしてイギリムに聞いていたおおよその場所まで辿り着く。

 ウルムス教会の近くの割には、少しだけ雰囲気が暗い通りだった。この街ではあまり感じられないようなアウトローの気配が漂っており、こちらを窺ってくる者たちの人相もよろしくない。

 

「おい、侍の兄ちゃん。ここらになんか用か?」


 お目当ての『ラムタルド』という名の酒屋を探していれば、強面の大柄な男が声を掛けてきた。こちらを見下ろしてくる視線は、随分と威圧的だ。

 レイの腰元にある刀へチラチラと眼を向けて来る辺り、警戒されているのだろう。


「ぬぅ。拙者、ラムタルドという名の酒屋に行きたいでござる。場所を教えてはもらえぬか?」

「『ラムタルド』? ああ、そんならこの先を真っすぐ行けば看板が見えるぜ。文字は読めるんだろう?」

「然り。かたじけない、礼を言うでござる」


 意外にもあっさり教えてくれた強面の男に会釈すれば、男は気安い感じで手を横に振る。


「いいってことよ。ただし、この辺で騒ぎを起こしてくれるなよ? 兄ちゃんみたいな堅気の人間に何かあれば、衛兵や教会の人間どもが踏み込んでくるからな」

「気を付けるでござるよ。では」


 男と別れ、言われた通りにまっすぐ進んでいけば、『ラムタルド』と名前の出た看板が見えてくる。

 看板を出している酒屋は木造の古びた建物で、それほど大きくはない。だが、こんな場所でこれだけの年季が入るまで在り続けているのは、一目置くべきなのかもしれない。


 とりあえず店に入ると、昼間だというのにそれなりの人数が椅子に腰かけ酒を煽っている。元々狭い店ではあるが、十人近くはいるだろう。

 ほとんどの者が一様に、扉を開けて入ってきたレイへと視線を向けて来る。


「ぬぅ……カウンター席っと」


 レイはこちらを目踏みするような視線に一切動じることなく、イギリムから伝えられていたカウンター席の右端へ向かう。

 そしてそこにいた男に、気安く声を掛けた。


「失礼。拙者、頼まれてお主に手紙を届けに来たでござる」

「……なに?」


 カウンター席で一人ちびちびと酒を飲んでいた男は、レイの言葉に顔を向けてきた。

 それなりの長身だが瘦せており、顔も整ってはいるが童顔と言えるほどの幼い造りをしている。

 濃ゆい紫色のウルフヘアと、草臥れた風情を漂わせる暗い瞳が特徴的な男だった。


「俺に手紙だと? それをアンタが頼まれたってか?」

「ぬぅ、そうでござる。この手紙を『ラムタルド』のカウンター席にいる、『フィルダ』殿に渡して欲しいと。差出人は黒級冒険者のイギリム殿でござる」

「フィル――っ? 貸してくれっ」


 レイの言葉に驚いた表情を浮かべた後、差し出されていた手紙を、指先のない手袋をした手でひったくるように男が受け取る。

 そして封を開け、食い入るように手紙を読み込んでいく男。


――ぬぅ、これにて依頼は一応完了でござるが……やはり待っておくべきでござるな。


 手紙の大きさからすれば、男が読み終わるまでそれほど時間はかからないだろう。レイはしばらく待つことにした。

 もしかしたら読み終えた男から、イギリムへの言伝があるかもしれないし、何か頼みごとをされるかもしれない。

 仮に頼みごとがあった場合、『できる範囲で受けてやってくれ』とイギリムに言われているのだ。それが高額報酬の依頼内容に含まれている以上、男の出方を窺う必要があるだろう。


「おい、兄ちゃん。ぼうっと突っ立ってないでそこに座って何か飲みな。目障りだぜ」


 不意にカウンターの中からマスターと思しき禿頭(とくとう)の男が声を掛けてくる。たしかにここは酒屋で、皆が座って思い思いに酒を飲んでいる。立っている者も中に入るが、それだって何も飲んでいない者は見つからない。

 レイは言われるがまま、フィルダという男の隣に腰を下ろした。


「では、失礼。拙者にはお茶をお願いするでござる」

「なに? ここは酒屋だぜ? あんた、下戸かい?」

「飲めぬわけではないが、酒は故あって禁じているでござる。茶がなければ水で結構」

「ちっ。ちょっと待っとけ」


 レイの注文に面倒くさそうな顔をしながら、マスターが奥へと引っ込んでいく。そしてそれと同時に、手紙を読み終えたらしき男がレイの方へと顔を向けた。


「おい。アンタはレイって名前なのか?」

「ぬぅ? そうでござるが、何故拙者の名を?」

「この手紙に書いてあったんだよ。ったく、イギリムの爺さんも余計な気を回しやがって……まぁいいや。アンタ、あのシュテンなんだろう?」

「その言葉が英雄の血筋(・・・・・)を指すのであれば、如何にも拙者はシュテンでござる。それがなにか?」

「イギリムさんからのこの手紙に、『自分には無理だから、アンタに稽古をつけてもらうように』って書いてあるんだよ。ってことで、アンタが俺の師匠になってくれるってことだよな?」

「ぬぅ? 『稽古』? し、『師匠』?」


 唐突な男の言葉に、レイは目を白黒させる。

 たしかにイギリムから、男の頼みごとを聞いて欲しいとは言われているが、明らかにこれは、できる範囲を逸脱している。


「む、無理でござるよっ! そもそも何の稽古でござるか?」

「シュテン家のアンタに頼むと言えば剣しかないだろう? 頼む、俺に剣を教えてくれ」


 立ち上がり、深々と頭を下げてきた男。

 その様子から冗談やふざけている感じは受けないが、あまりにも突然のこと過ぎてレイも対応に苦慮してしまう。


「なんだ? 喧嘩か?」

「おいおい、どうしたどうした?」


 狭い店の中で二人のやり取りが騒がしくなったためか、周囲にいた客たちがこちらへと寄ってくる。


「おい。揉め事なら外でやってくれ。迷惑だ」


 さらに、奥から戻ってきたマスターにまで苦言を呈されてしまう。


「フィルダ殿。とりあえず場所を変えるでござるよ」

「……ああ、そうだな」


 レイが提案すると、男は一拍の間を置いて周囲を見渡し頷いた。

 そして数十枚のゴルド紙幣をカウンターに置き、

「ついてきてくれ。落ちつける場所を知っている」

 

 そんな言葉とともに酒屋を出ていく。その迷いの足取りに、レイも店主へ頭を下げてゴルド紙幣を一枚手渡すと、男へついていくことにした。


「ぬぅ……して、どこへ?」


 男はずんずんと、暗い路地へ路地へと足を進めていく。土地勘のないレイとしては、ここまで来た以上は男についていく他ないのだが、すれ違う者などの眼からして剣呑に満ちている。

 並の者に後れを取るつもりはないが、それでも不意打ちを警戒して気を張り詰めておくことにした。

 

「ああ。向かっているのは俺の実家だが……物騒な道を通って悪いな。ここが近道なんだよ」

「ぬぅ。問題ないでござるよ」


 男について歩くこと数分、いつの間にか街の大通りへと出ていた。

 路地裏の静けさが嘘のように活気に満ち、殺気立った雰囲気が一気に霧散している。本当に抜け道だったのだろう。

 多くの人が行き交う活気に満ちた街中を歩いていれば、


「さて、ここだ」


 男は大きな門の前で立ち止まってレイの方へ声を掛けてくる。

 門の裏にはかなり大きな建物が見えるが、ここからでも分かるくらいに古びていた。良く見れば石でできた門にもいくつかの大きな罅割れがある。

 古さはともかくとして、その大きな屋敷の造りには何やら見覚えがあった。


「豪邸……いや、剣術道場でござるか?」


 そう、故郷ヒノトにある実家の剣術場に似ているのだ。おそらく修練場と呼ばれるような施設が家に併設されているのだろう。


「さすが、よくわかるな。まぁ、入ってくれ」


 男に促され門を潜り、近くの建物ではなくその脇に付随している広くて背の低い建物へと招かれる。

 板張りの床と、壁にかけるように並べられた木刀は、細部は違えどレイが慣れ親しんだ道場の風情を漂わせていた。

 ただし外観と同じように、内部の壁にもひび割れが目立ち、床の板はあちこちが割れている。


「古臭いところで悪いな。元々はそれなりに栄えた剣術道場だったんだが、何せ後継者がいなくてな。数年ほったらかしでこの有様だ」


 レイが無遠慮に向けていた周囲を探るような視線に、男が弁明するように苦笑した。

 数年でこの様子になるのであれば、元々建てられてから時間が経っていたのだろう。おそらくすでに建て替え時期が来ているものと思われた。


「ぬぅ。後継者がいないと言ったが、それがお主なのでは?」


 ここに来る途中、たしかに男は「実家に向かっている」と言っていた。ならばこの剣術道場は男の実家のはず。後継者がいないというには矛盾している。


「ああ、俺は出来損ないだったからな。早々に見限られ、弟が後を継ぐはずだったんだよ。だから俺は、ほとんど剣を教えてもらえなかった」

「なるほど……して、弟殿は?」

「死んだよ」


 何気なく尋ねたレイに、男は素っ気なく端的に返す。

 その色のない声に思わず何も言えなくなったレイに、男が仕切り直す様に苦笑いで肩を竦めた。


「質の悪い病でな。永く闘ったが、駄目だった。俺なんかよりもずっと才能があって、剣に真摯で、「僕はいつか剣聖になる」が口癖だったっけか……まぁ、世の中ってのは無常だよ」

「それは……お悔やみ申し上げる」


 他に言いようのなかったレイを逆に気遣うように、男は手を軽く横に振る。


「ああ、気にすんな。もう五年近く前のことだ。それよりも、あんたをここに案内したのは他でもないんだ」

「ぬぅ?」

「俺はこの道場を復興させたいと思っている。けど、お世辞にも今の俺の剣術は見れたもんじゃない。だからこそ、あんたに修行をつけてもらいたいんだ。不躾な頼みで申し訳ないが、俺の師匠になってくれないか?」


 真剣な顔で、男は改めてレイに頭を深々と下げたのだった。


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