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第三話 濁流の名はジュマ・ゴート

能登半島地震に遭われた方々におかれましては、早期復興をお祈りいたします。

『いやぁっふぅぅぅ!!!見られてる、見られてるわぁ!』


 彼女の声が頭の中に響いた事で、ノーツェは冷静さを取り戻しつつあった。

 村を馬鹿にされて血が登ったが、よくよく考えてみれば安い挑発。

 今は、それを受けて安易に彼女を抜いた自分自身を殴りたい気持ちで一杯だった。

 抜いたその剣の名前は《魔剣 ジュマ・ゴート》

 単なる村人だったノーツェを村の英雄にした一振りで、トラブルメーカーで、彼の胃痛の原因の大半は彼女の引き起こす騒動によるもの、要は悩みの種である。


 彼女ジュマ・ゴートには魔剣の名に恥じない固有の能力がある。

 直接的に人に危害を加える類の能力ではないが、今のこの状況、大勢の面前でしかも注目を一遍に浴びている・・・彼女の大好物なシチュエーションで、その能力を十全に活かせ、発揮できるが、これから起こる事の結果が容易に想像できるノーツェは、また左脇腹を押さえるのであった。



 ◇



「なんであるかっ?!!その剣はっっっっ?!!!!」


 謁見の場に響いた大きな声、王の面前でそのような大声を出すことなど赦されることではなく、即座に咎められるのだが、そうはならなかった。

 なにせ、大声を発したのがオトリウス王本人であったから。


 デイトーミオはその声で我に返っていた。

 一瞬、なにか得体のしれない感覚にその身が晒された感覚がしたが、携えている剣 《エペンドット》がそれに抵抗してくれたのだろう。

 彼自身には魔術に抵抗する術はない、流石は聖剣、と改めて賜った剣に優越感を感じていた。


「問題は・・・」


 デイトーミオは肩越しに声が発せられた方、王を見た。王が剣を抜いた若造に対し激怒したのだと思っていたからだ。

 だが、なにか腑に落ちない。

 王は息荒く、顔を上気させ、手をワナワナと震わせている。

 少なくともその表情が表しているのは怒気ではない。

 恍惚?歓喜?羨望?そんな歪な悦びの表情が見て取れ、デイトーミオは困惑していた。

 そうしている内に、彼はあることに気づく。

 謁見の間の周りに控えていた大臣や貴族、果ては衛兵までも同じように熱を持った目をしていることに。

 見回して彼は理解した、王や周りの連中の視線の先を。

 若造を見ているのではない・・・あの剣を見ているのだと。



 《魔剣 ジュマ・ゴート》

 その能力は【魅了】!

 自身を目にした生き物に対し魔術的アプローチをし、成功した場合はその者を【魅了状態】にする!

【魅了状態】になった者はジュマ・ゴートから視線を外すことが難しくなり、想い、焦がれ、欲しくてたまらなくなる、彼女を欲するようになる!

 その熱が、想いが、欲求が彼女の力となる!

 因って、その視線が多ければ多いほど彼女は力を増す!

 好きなものは「見られること・褒められること・愛されること・苺」!

 嫌いなものは「無視されること・馬鹿にされること・虚仮にされること・カエル」!

 我儘で、移り気で、露出好きで目立ちたがり屋!


 それが彼女 《魔剣 ジュマ・ゴート》なのだ!!!



 ◇



 やっぱりあの騎士さんは魅了されなかったか。

 元々の耐性があるのか、あの剣が抵抗したかのどちらかかな?


「ジュマ、()()()()()?」

『そうね、6割ってとこかしら、良い感じよ♡』


 彼女は自身に向けられた想いを力に変換できる。

 と、いうより、そういう魔術的構造を組み込まれて作られた剣だそうだ。

 なかなかに変態的思考で作られた剣だと思う、作った人間の顔が見たいよ。

 ・・・・いや、やっぱり見たくない。

 どうせ彼女と同じで変人に決まっている。

 変な人は嫌だ、関わると碌な事にならないから。


 さて、そんな事よりも今の状況をなんとかしないと。

 このままじゃ、なんだかんだと罪を着せられ罰せられそうだ。

 こんなところで時間を取られてる暇はないし、なにより早く村に帰りたい。

 見たところ魅了状態じゃなのは騎士さんと、王様の後ろにいる人。

 さっき耳打ちしてたから、相談役かな?難しい顔してこっちを見てるけど、話が通じないって訳じゃなさそう・・・・だったら。



 ◇



 宰相であるキンバリー伯爵は眼の前の状況に頭を抱えていた。

 魔術的アプローチに対し免疫や耐性が無いであろう、大臣や他の貴族が術に罹るのは理解できるが、王家の血筋として普段から聖剣に触れることの多い王が罹るのは釈然としない。

 こういった場合に備えて何度も何度も、何度も何度も説き、聖剣に触れさせ耐性をつけさせてきた自分が馬鹿みたいではないか、なんというか納得ができない、憤懣やる方ない。

 見たところ、自分以外ではデイトーミオ卿も術には罹っていないようだ。

 流石は騎士団長だ、そう思ったが聖剣が抵抗した可能性も高い。

 それだけ強力なアプローチが為されたのだろう、とキンバリー伯爵は自分を納得させることにした。


 それにしても、と伯爵は思う。

 恐らくは、あの剣から発せられたのは魅了系の魔術。

 閉鎖された空間内とはいえ、これだけの騒ぎを起こしてしまった新米の辺境勇者である彼の落とし所をどうつけるか。

 王まで魔術に罹っているが、ここまでの経緯を鑑みて責任の一端はあるが彼に否はない。

 どちらかといえば露骨な挑発をしたデイトーミオに対して、伯爵は嫌悪感を覚えていた。

 元はと言えば彼が原因、騎士団長たるもの騎士の模範であるべきではないか。

 そう思い視線を移すと、目が合ったデイトーミオが慌てて前に向き直った。


 こやつ!・・・伯爵がそう思った時だった。



 ◇



 剣を高々と掲げたノーツェ、それに合わせ魅了された王や大臣たちが視線を動かす。


「大いなる愛をあなたに!!!!」


 そうノーツェが叫んだ瞬間、剣から放たれた光が謁見の間を包み込む。

 あまりの光量にデイトーミオもキンバリー伯爵も目を瞑るしかなかった。


 キンバリー伯爵は思った、恐らくは目眩まし。

 この間に辺境勇者である彼は姿を消すつもりであろう、と。

 同じ考えに至ったのだろう、デイトーミオは「卑怯者!」「正々堂々と勝負!」等と叫んではいるが、どうでも良い・・・この状況を作った原因はお前であろう。

 とりあえず、この場を収めるのは自分の仕事だ。

 あまり良い終わり方では無いが、あの辺境勇者に出来得る限り罪が及ばないようにしたい。


 暫くして、ゆっくりと目を開けた伯爵の視線の先に・・・まだ居た。

 件の辺境勇者はキンバリー伯爵に向け、こう叫んだ。




「そこの人っ!!!・・・・・助けてくださぁい!!」


新年明けましておめでとうございます。

テレビも通常放送を再開したため、投稿いたします。

2話以降時間が空いてしまいましたが、楽しんでいただけたら幸いです。

応援よろしくお願いします。

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