聖剣による勇者面接
聖剣による勇者面接
「私は王国騎士団で高い制咳を上げ、」
「挨拶がまだですが」
「オレは山賊を率いていている! それで、」
「け、敬語……」
「モニャ……クチャ……」
「スライムだぁ助けてくれぇ!」
……
朝。林の外れにある崩れかけの聖堂。
「勇者適正のある人、現れませんねぇ」
「もっとやりようはあるんだろうが、いかんせん剣と鞘だから面接しかできん」
私はそう鞘へ言う。私は聖剣として相棒の鞘と共に神の使途として現世に現れた。魔王を倒すには私が必要だが、剣とは人に振られて初めて効力を発揮する。だが私は、私が選んだ者にしか使わせない。
しかし。
「剣を、鞘の自分含めた聖剣を使う者を神は用意してくれませんでしたね」
「そうだな、鞘よ。しかも勇者は一人のみとのお達しだ。全く何の意図があるんだ」
「お約束じゃないですか? 昔からそうでしたし」
「人の上位存在まで事なかれなんてなぁ」
愚痴タイムを終え、面接は続く。が、私たちを握るに値する人間はいなかった。中には「なんで剣と鞘に別れているんですか?」「柄と刃と鞘と……みたいに分かれていないですね」なんて失礼なことまで言う奴もいた。
昼。うんざりしながらサンドイッチを食べ、また面接。
「失礼します!」
扉の崩れた聖堂にハキハキと入ってきたのは背の低い少年。下がりすぎたムードのためにこれだけで好印象。ふと、展開で家を借りたことを思い出したかなぜかは知らない。
挨拶を終え、
「まず」剣である私が質問する。「私たちを使えると思う理由を教えてください」
「はい! ボクは魔物との大戦で兵士に志願し、魔物と戦ってきました。その中で倒された人々を背負っていくうちに、どうすればこの戦争が終わるのかと考え……」
フム、フム、フム。どうやら今なお続く魔物との大戦で各地を転々としていたようだ。それも戦士が泣き出す激戦地を。大戦に参観したとは聞き飽きた動機だが、その上で人々を助けたいと考えるのは高評価。しかも若い。少年でこの心とは将来有望だ。そして戦闘に参加したであろうにこのメンタル。勇者としてとても良さそうだ。
「……以上で面接を終わります。ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
鞘が面接を閉め、少年は帰った。
「どうです?」鞘がご機嫌で私に尋ねる。「自分はいいと思いますがね」
「奇遇でもないが、そうだな。私もあの少年がいい」
「なんか変態の会話みたいですね」「やかましい」
後日、かの少年に採用通知を送付。聖堂を貸してくれた国王に感謝と今後の業務提携(神による守護。天界側はお布施を貰う)をして、王城で少年を待つ。城に来た少年は立派で派手な鎧を着て、私を鞘に納め、国王から旅の(はした)金を受け取り、さぁ出発。魔王を倒すため、彼奴の城まで一直線。
「これから頼むぞ、少年……いや、勇者!」
「はい!」
我々は素数。悪を討つため。初戦闘はこの前聖堂へ面接に来たスライムだが、少年は見事に返り討ち。幸先のいいスタートとなった。
日が沈んで昇りまた沈んでを繰り返ししばらく。満月が照らす温泉宿で我々は休んでいた。
「あのぅ」
鞘が言い辛そうに私へ声をかける。今、勇者は入浴中であるため暇をしている。
「何かね?」
「勇者のことなのですが」
思ったよりも真剣そうな声に刃をカタタッと揺らす。
「どうしたかね。彼はとても優秀だよ。街の人々を助けているし、壺を割ったりタンスを漁ったりしない。そして、きわめて礼儀正しい!」
「しかし、助けると言っても雑用だし、戦いは苦手そうなのです」
これにはまた、刃をカタタッと揺らした。
「なーに。成長していけばいいことよ。戦いの中で育っていく者こそ、勇者ではないかね」
「ですが実際、装備を直すほうが上手です。戦いの際は体も鈍く、スライムでなければ負けますよ。もしかしたら、大戦に従軍したというのはウソかも……」
「おいおい、私の目を疑うのかね」
「不動産屋に騙されて安い家を高く借りさせられたじゃないですか」
「……うーむ」
少年が戻るのを待ち、私を研ごうとしたところで聞いてみた。
「勇者よ、大戦の頃について聞きたい」
「そうですよ勇者様!」鞘が力んでいる。「この際はっきりさせましょう。貴方は本当に大戦に参加したのですか? したとして、前線で戦っていたのですか?」
「はい! 工兵として!」
自信たっぷり、前向きに答えてくれた。
「爆弾や橋を作ることもありました! 兵器も作ったんですよ!」
「おお」私は感嘆の声をあげる。「前線でか!」
「はい! 敵の城壁に張り付いたこともありますよ!」
「なるほど! 鞘よ聞いたか? やはりこの少年は勇者にふさわしい!」
「え、あ、いや戦闘経験は……」
「勇者よ! 安心して私を振るうのだ!」
「いや、剣どの……えぇ……」
たとえ工兵でも前線にいたという事実は変わらない。前線にいたならば色々な魔物と戦っていたハズだ。鞘は相変わらず心配しているが、何も問題はない! きっと、魔王を倒すまでには今まで以上に強くなることだろう! きっと、魔王を倒すまでには今まで以上に強くなることだろう! 私の目に狂いはない!
さぁ、今日はよく寝て、森を超えて敵地へ進むのだ!
「ゆ、勇者よ。相手はゴブリンだぞ。ザコだぞ。なんであんなボロ負けしたんだ。危うく十八禁行きになるところだったぞ」
「その、ゴブリンを初めて見まして。ウワサは聞いていたんですが」
「前線で戦っていたと聞いたが?」
「はい、前線には居ましたけど……もっぱら整備ですし」
「いや壁に張り付いたって」
「はい、敵の砦の壁を爆破しました。騎士の方々は強いですね」
「え、護衛されてたの」
「スライムとしか戦ったことのない若造なので」
「なんで最初からそう言わないんだ!」
「だって……聞かれてないですし」
「二人ともいい加減にしなさい!」
鞘が一括。森前のキャンプに怒りの声が響き渡る。
「詳しく聞かなかった自分もそうですが、もっとよく話し合うべきだったんですよ。今更あれこれ言って責任を押し付けあっても仕方ありません。現在理解できるのは、このままでは魔王城どうこうの話ではないことです」
「え、じゃあ、解雇するのか?」
「剣どの。貴方は何を言っているんですか。ここまでやってまた国王に会場借りるんですか? 天使たちから評価突き上げられているじゃないですか。解雇したら次期でこっちが解雇です」
「仕様がないじゃないか人事と現場を一緒に押し付けられているんだから。私たち人事やる柄じゃないだろ。ほら剣と鞘だぞ」
「……ともかく、宿に戻って作戦会議です」
「ボクの意見は?」
「ザコ勇者は黙ってください!」
鞘の言う通り、我々は宿に舞い戻った。店主からの冷たい目線は無視して再び部屋を借り、ベッドの上で話し合う。まずは私、聖剣が案を言う。
「ここはパーティを組みやり直そう」
「雇うお金はさっき宿に払った分で打ち止めですよ」と、鞘。「忘れたんですか。神からは勇者単騎でやれとの指示です」
「じゃあどうすれば」
「俗にいうレベルアップですよ。ここら一帯でザコを狩って、戦いの経験を積むんです。そうすれば子の勇者であってもゴブリン如き楽勝です」
「そのゴブリンにすら勝てない奴を今から鍛えて、魔王場まで何年かける気なのかね?」
「それは、まぁ、天界視点では十年も百年も変わりませんよ」
「何のために面接したのかわからんよソレ」
私と鞘が言い争っている中、勇者が静かに手を上げた。瞳には知性の閃きが見える。
「一つ、思いつきました」
私たちは藁にも縋る思いで彼の案を聞いた。
「えっいやっあのっ」
「鞘よ、お前は私を発射するレバーだ。いいな?」
「いやなんですかコレ」
「何って」エンジニアの服を着た勇者が鞘に言う。「今から聖剣を弾頭にしたICBMを魔王にぶち込むんですから、発射台を造っているんでしょう?」
「あのですね、ファンタジーをですね」
「全く、鞘よ」私は呆れつつ声をかける。「宇宙空間まで飛んでいき、隕石のように上空から攻撃するなんてファンタジーだろう」
「でもこれどう考えても設定崩壊じゃ」
「おいおい、この作品はローファンタジーだし、勇者はエンジニアだ。このぐらい余裕よ。なぁ?」
「そうですよ。だいたい爆弾があるなら火薬があり、ならば銃ぐらいあるでしょ? ならミサイルの一つや二つあってもいいじゃないですか」
「……ん? え?」
頭の固い鞘は状況を呑み込めていないが、私はすでに弾頭として位置に着いた。あとはこの即席ICBM発射台から飛び立ち、魔王に一撃入れるのみ。
勇者がコンピューター(電気スライムと鎧を溶かして出来た鉄で作った)をカタカタして、鞘がレバーとして差し込まれ、発射準備完了。宿の人たちが物珍し気に見てきた。
「聖剣さん! 撃ちますよ!」
「よしっやれぇ!」
勇者がレバーと化した鞘を引き倒し、私は天高く飛び立った……。
後年、私は宇宙開発の象徴となった。魔王は突然空から落ちてきた私に身体を突き破られ死亡。勇者は英雄として詩歌とミサイルのプログラムに謡われ、人々の間に記憶を残した。鞘は今日も困惑しながら、ロケット打ち上げレバーとしての仕事をしている。




