今日はひそひそ話をしている。
久しぶりの休日。
遮光カーテンの隙間から、明るい朝の日差しが部屋の中まで漏れてきている。
梅雨という季節柄、ここのところ毎日朝から雨ばかり降っていたから、こういう晴れた朝はすごく久しぶりだ。
しかもこんないい天気の日に、お休みだなんて。
最高だ。神様、ありがとう。
もう少し寝よう。
うふふ。
私がベッドでもそりと寝返りを打つと、テーブルの方からとりとねこのひそひそ声が聞こえてきた。
「ねえ、とりさん。マキ、起きてこないけどいいのかな。明日はやっと晴れるみたいだから溜まった洗濯物を朝からずんどこ干すんだって、昨日の夜張り切ってた気がしたけど」
「ふふふ。起きなくていいわけはないよ、ねこくん。どうせマキは昼前くらいの、おしゃれな言い方をすればブランチくらいの時間にのそのそと起きてきて、テレビを見ながらスマホをいじって、買い物でも行こうかなー、などと能天気なことを考えながらもそもそとパンなど齧ったあたりで思い出すのさ。あ、今日は朝から洗濯物を干さなきゃいけないんじゃなかったっけ、と」
「うわー、もったいない。それじゃせっかくのいい天気のお休みが台無しだね」
「うむ。そこから慌てて洗濯して、昼前に干し終えて、午後三時くらいにもう乾いたんじゃないかと一縷の望みをかけて厚手のスカートとかに触ってみるんだが、明らかに湿っていることが分かってがっくりくるんだよ。ほんとは午後からもう一回洗濯機回したかったのに、と」
「そして、ほとんどの洗濯ものは洗われないままで次のチャンスを待つんだね」
「ああ。マキもどうせすぐに諦めて夕方くらいに少しは出かけるだろうからな」
「じゃあほんとうは今すぐ起きた方がいいんだねえ」
「うむ。今起きれば充実した休日が約束されているだろうねえ」
「そうなんだねえ」
「そうなんだよ」
「そっかー」
「そうそう」
……。
………。
…………。
「……ねえ」
私はベッドに寝たままでふたりに声を掛けた。
「どうしてそこまで分かってて、起こしてくれないの」
「なんだマキ。起きてたのか」
とりがふこりとこっちを向く。
「盗み聞きなんて、趣味が悪いぞ」
「そうだぞ、ふくのしゅみが悪いぞー」
「ふ、服の趣味は今関係ないでしょ」
適当なことを言うねこに反論してから、私はベッドの上でごろんと仰向けになる。
「ああ、もう。そうだよね、今日は洗濯しなきゃいけないんだ。ほんと、分かってるなら起こしてくれればいいのに」
「ぬいぐるみに何を期待してるんだ」
とりが呆れたようにため息をつく。
「デートで遅刻して、ごめんなさい、今朝はぬいぐるみが起こしてくれなかったから寝坊しちゃった、とか言ったらサワダさんに引かれるぞ」
「そんなこと言ったらサワダさん引くね」
ねこもふこふこと頷く。
「引けるところぎりぎりいっぱいまで引くと思う」
「ああ、もう。分かりましたっ」
身体を起こして、窓のカーテンをしゃっと開けると朝の太陽がいっぺんに部屋に入ってきた。
ああ、爽やか。
太陽、久しぶり。
「あ、まぶしい!」
「灰に、灰になるっ」
まともに直射日光を浴びたとりとねこが、きゃあきゃあ言いながら日陰に逃げていく。
吸血鬼か。
さ、それじゃあ始めますか。
私は大きく伸びをして、ベッドを下りた。
とり「作者の最新の活動報告で、7/25発売のアルマーク第三巻の表紙が公開されているので、ぜひ見ていってくれたまえ」
ねこ「たまえ!」