今日はクリーンな何かになりかける。
今日は週に一度の資源ごみの日だ。
ペットボトルとか、缶ビンとか。そういうのを出す日です。
あんまり大きな声では言えないけど、先週は寝坊して出せなかったので、ペットボトルと缶が結構溜まっている。
缶は、サワダさんとお付き合いするようになってから意識してお酒の量を減らしてるので前に比べればそこまで多くもないんだけど、やっぱり二週間分も溜めるとそれなりの量になる。
夏が近づいてるから、ペットボトルの量も増えてきた。
ペットボトルのゴミ袋が二つ。缶のゴミ袋が一つ。あと、ビンがちょっと。
ペットボトルはやっぱりかさばる。
これは一回では持っていけないな。二回に分けてゴミの回収場所に運ばないと。
夏本番になったら、またすごい量になるんだろうな。冷えたビールがおいしいんだろうな。
コロナも終わったし、サワダさんとビアホールとかに行けたらいいな。
その時は飲み過ぎないようにしないとな。
朝の支度をしながらそんなことを考えていると、玄関に置いたペットボトルのゴミ袋の上でとりとねこが遊び始めた。
「登頂成功!」
「やっぱり山頂から見る景色はちがうね!」
「見たまえねこくん。今日は天気がいいからここから出窓がよく見える」
「わー、すごいー。いつもは雲がかかってて見えないのに」
「……何やってるの」
私の冷たい視線に気づいたのか、とりとねこは玄関前に置かれたゴミ袋の上で胸を張った。
「ちょっと朝登山をね」
「はやってるんだよ、朝登山」
「知らないけど」
朝シャンプーみたいに言ってるけど。そんな朝のちょっとした隙間時間みたいなので達成できるのも登山って呼ぶのだろうか。
あと、家の中なのに雲がかかってて見えない出窓って何さ。
「ふたりとも汚いよ、ゴミの上に乗ったら」
「所詮は水洗いしたペットボトルじゃないか」
とりは不敵にふふふと笑う。
「恐れるに足らず」
「たらず」
ねこも真似してふふふと笑う。
「さあ、下山してもう一度ふもとから登り直そう」
「朝下山だね」
なんだ、朝下山って。
いや、そんなことに構っている時間はない。
ただでさえ朝は忙しいのに、今日はゴミ出しで余分な一往復がある。
とりとねこのことはとりあえず放っておいて、朝の準備に専念しよう。
それから私はばたばたと慌ただしく準備を済ませた。
よし、大体オッケー。じゃあまずは第一便を。
玄関のペットボトルのゴミ袋の口をぎゅっと縛ると、それを持って外に出た。
一番近いゴミ回収場所は、アパートの30メートルくらい先だ。
階段を駆け下りて、道路を小走りにゴミ回収場所に行くと、もう結構な量のゴミが出されていた。さすがに今日は資源ゴミだから、いつもここを荒らしているカラスの姿もない。
ペットボトルの袋をそこに置くと、私はまた小走りにアパートに戻った。
階段を三階まで。朝から息が切れる。
第二便は出勤のついでに捨てていけばいい。
私は鏡の前で最後の身だしなみを整えてバッグを持つと、靴を履いて缶の袋を持った。
「それじゃあ行ってくるねー」
返事がない。
「あれ? おーい」
部屋の中が、不自然なほどに静まり返っている。
「かくれんぼしてるの? 私、行くからね」
変だ。物音が全然しない。
さっきまであんなにきゃっきゃうふふしてたのに。
「とりさん? ねこくん?」
しーん。
これは、かくれんぼとかそういうのとは違う感じがする。
……まさか。
次の瞬間、私は家を飛び出していた。
うそ。うそでしょ。
小走りどころじゃない全力疾走でゴミ回収場所に戻ると、案の定、私の出したペットボトルのゴミ袋の中にとりとねこが詰まっていた。
「ぎゃあ、やっぱり!」
「あ、とりさん。マキ帰ってきたよー」
「遅いぞマキ。ぼくらまで回収されてクリーンな何かに生まれ変わるところだったじゃないか」
「どうして、そんなところに」
はあはあと喘ぎながら袋の口を開けてふたりを取り出す。ふたりは私の手の上で「あー」とか「おー」とか言いながら伸びをした。
「下山途中にちょっとしたアクシデントがあってな」
「そうそう。気がついたら袋の中に」
「おーい、マキーって呼んだんだけどな」
「全然気づいてなかったよね、マキ」
「そ、それはごめんなさい」
とにかく帰ろう。
私はふたりを抱えてまた家まで戻った。途中で知らない人にじろじろと見られた。
朝からぬいぐるみを抱えてる変な女だと思われた。うう。
「今日仕事から帰ってきたら、洗濯するからね。それまでいろんなところを動き回らないでおとなしくしててね」
ふたりをちょこざぶの上に置いてそう厳命して、私は家を出た。
「えー、横暴だー」
「うごきまわらせろー」
とか何とかぶうぶう言ってたけど、聞こえないふりをした。
とにかく、ふたりが無事でよかった。取り返しのつかないことになるところだった。
ほっとした私は、駅に着くころにやっと、缶のゴミ袋を出してなかったことを思い出した。




