今日はまたあれを片付けねば。
「やります」
私は言った。
「だめだ」
とりはふこりと手羽を上げる。
「絶対にだめだ」
「いいえ。やります」
私はとりを両手で持ち上げてどかした。
「ああっ」
とりは手羽をふこふこと動かして抵抗するが、ちっとも効かない。
「考え直して、マキ!」
ねこが叫ぶ。
「いいえ」
私は首を振る。
「やります」
ねこを両手で持ち上げて、とりの横にどかす。
「このっ。このこのっ」
「こうしてやるっ。えいえい」
とりとねこにぽすんぽすんと殴られている。
うん。もちろんふこふこしてるだけで全然痛くない。
「はいはい。じゃあ始めます」
「いやだあああ」
「うわあああー。マキのばかー」
とりとねこが抱き合って泣いている。いや、ぬいぐるみなので涙は出てないけど。
でも、かわいそうだからっていつまでも置いてはおけないんです。
何とでも言いなさい。
とにかくこの連休中に、こたつはしまってしまわなければ。
四月は、急に寒くなることもあるからね、と思って我慢していた。
案の定、やっぱりちょっと寒い日もあった。
でも、もうない。
もう寒い日は来ない。涼しい日は来るだろうけど。
後はもう、日本は夏に向かうだけの日々なのです。
そこにこたつの居場所はないのです。
天板を外してこたつ布団を持ち上げようとすると、とりとねこが「だめだああ」とか言いながら布団に巻き付き始めた。
「このふかふかがなくなるなんて、耐えられない!」
「たえられなーい!」
「えーい。どきなさい」
こたつ布団を高く持ち上げると、とりもねこもくるくると回転しながら床にぽすんと落ちた。
「むぎゅ」
「もにゅ」
さ、去年みたいにコインランドリーのでっかい洗濯機で洗ってこないと。
とりとねこは棚の陰に隠れてひそひそと文句を言いながら、私がこたつを片付けるのを見ている。
「ああ。もう次の冬が来るまでおこたに会えないなんて」
「さびしいよ。心が冬みたいにさむいよ、とりさん」
「それはあそこにいる妖怪こたつ片付け女ことマキの心が冷たいからさ。心もこたつであっためればいいのに」
「ほんとだね。こたつであったまればもっとあったかい人になるのに」
「全部聞こえてます」
私が言うと、ふたりはさっと棚の陰に隠れた。
でもそういえば、とりとねこが動き始めてから、こたつを片付けるのはもう二回目か。
「去年こたつを片付けたときも、おんなじようなこと言ってたよね」
そう言うと、ふたりが棚からふこりと顔だけを出した。
「そうだったかな、ねこくん」
「ぼくわかんなーい」
ねこは相変わらず考える気がさらさらない。
「でもそれなら来年もぼくらおんなじこと言ってるかもねー」
「いや、ねこくん。来年もぼくらが同じことを言うかどうかは、サワダさんにかかっている」
とりは手羽をふこりとくちばしの下に持っていく。
「サワダさんの家にもこたつがあるといいんだがな」
「あるよー、きっとサワダさんちにも、でっかいこたつ」
ねこが嬉しそうにくるくると回り出した。
「だってマキも一緒に入らないといけないんだし」
「わけわかんないこと言ってると、ふたりもこたつ布団と一緒にランドリーに持ってくよ」
そう言ったらふたりはまたさっと棚の陰に引っ込んだ。
ランドリーから帰ってくると、とりとねこはもうさっそく、スケルトンになったこたつテーブルの下にとり電鉄の新しい駅を設置して遊んでいた。
「がたんごとーん。がたんごとーん。次はこたつのあったところ駅ー」
「うふふふふ」
「あはははは」
楽しそうで何より。
その翌朝、急に冷え込んで、私はこたつをしまったことを後悔するのだけど、それはまた別の話。




