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家にいる鳥と猫のぬいぐるみが動いて喋るだけの話。  作者: やまだのぼる@アルマーク4巻9/25発売!
第二部

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54/68

今日は観戦している。

「ただいまー」

「うおー、打ったー!」

「かきーん!」

 ああ。今日も騒いでるな。

 私は玄関でハイヒールを脱ぎながら、テレビに釘付けになっているとりとねこの背中を見た。

 野球の国別対抗戦であるWBCが開幕すると、とりとねこはさっそく野球に夢中になった。

 もともとスポーツ中継が割と好きなふたり(ルールは全然分かっていないのだが)なので、サッカーでもゴルフでも競馬でも、何でも楽しく見ているのだが、この野球の世界大会は別格らしく、毎日とにかく楽しみにしている。

「ただいまー」

 もう一度そう声を掛けながら、とりとねこが壁からぶら下げたでっかい画用紙の日の丸をくぐる。

 ああ、これ通りづらいなあ、もう。

「あれ? さっきのは敵にキャッチされたからアウトなんじゃないのかい。どうして点が入ってるんだ、ねこくん」

「たぶんあれですよ。敵がキャッチしてやったーって言ってるうちにささーっと盗塁したんですよ」

「ああ、そうか。盗塁か、なるほど。さすが日本だな、忍者の国だ」

 違う。あれは犠牲フライからのタッチアップだ。

 そんなことを言ってもとりとねこは理解しないだろうから、無駄なことは言わない。

「ねえ、ただいまってば」

 私がすぐ後ろで声を掛けると、さすがにふたりもようやく気が付いて、

「わあ、マキ。いつの間に」

「マキが忍者になった!」

 とか言いながらびっくりした。

「一切忍ばずに入ってきましたけど」

 そう言って、買ってきた缶ビールとカクテルをテーブルに置く。

「どっちが勝ってるの」

「日本に決まっているだろう」

「にほん、にほんー」

 答えながら、もうふたりはテレビに向き直っている。

「おっ、向こうのピッチャーが新しくなったぞ」

「今度のピッチャーの得意ボールはストライクだよ、多分」

 ええと、ストライクは球種じゃない。

 毎日熱心に見ているくせに全然分かってないみたいだけど、それでもこうしてすごく楽しそうに見れてしまうのだから、きっとこのWBCという大会は素晴らしいのだろう。

 このふたりの話を聞いていると、細かいことを気にするのがばかばかしくなってくるので、私はあまり試合結果は気にしていない。

 部屋着に着替え、腰を下ろして缶ビールを開けると、その音にとりが振り向いた。

「おっ、マキもビール片手に観戦か」

「あ、うん。まあ」

 ちょうど攻守が入れ替わるところで、スコアボードが画面に映った。

 確かにふたりの言う通り、ずっと日本がリードしてる展開だ。

 強いなあ。東京ドームでは負けそうにないな、これは。

「あ、マキがカクテル買ってる」

 ねこが私の買ってきたお酒に目を付けた。

「マキ、どうして最近ストロングなんとか飲まないのー?」

「お、ほんとだな。あんなに好きだったのに。マキ、どういった心境の変化だ」

「いや、これはだからその」

 サワダさんがそこまでお酒強くない人だし、私もそれに合わせた方がいいのかなって。あんまり強いお酒ばっかりガバガバ飲んでる女は嫌かもしれないから。

 そんなことを口の中でごにょごにょ言ってたら、ふたりともとっくに私から興味を失って野球に集中していた。

「あー、空振り」

「テレビで見てると打てそうなのにねえ」

「実際にあそこに立つと違うんだろうなあ」

 なんだよ、もう。興味ないなら最初から聞くなよ。

「お、打った!」

「あー、とられた」

「残念」

 打ったのは相手チームだけど、そんなことはどうでもいいらしい。

「あ、そういえばねこくん。マキに聞いてみるか、あれのことを」

「あ、そうですね。とりさん」

 急にふたりがふこりと私を振り向いた。

「な、なによ」

「BとCは分かったんだが、どうしてもWが分からないんだ」

 とりがそう言ってふこりと身体を揺らす。

「Wは何の略なんだ?」

「は?」

 聞かれている意味が分からず、思わず間の抜けた声を出すと、とりが、

「だからー」

 と言いながら、両方の手羽を広げた。

「WBCは何の略なんだってことを、ねこくんとふたりでずっと悩んでたんだ」

「BとCは答えにたどりついたんだけどねえ」

「え、そんなの」

 分からないで今日まで楽しんでいたのか。

「ワールドベースボー……」

「BはバードのBだろ?」

 とりが嬉しそうに言った。

 は?

「CはキャットのC!」

 ねこも嬉しそうに両手をぴこりと上げる。

「Wは?」

 いや。

 いやいやいや。

 どうして野球の世界大会を自分たちに寄せていくの。

 とりとかねことか、そんなのつけるわけないでしょ。

 そう言おうとしたら、とりが突然私を指差して、

「あー!!」

 と大声を上げた。

「な、なによ」

「W!」

 私を指差す手羽をふこふこと動かす。

「ウーマンのW!」

「それだー!」

 ねこも大声を上げた。

 うるさい。夜中。

 試合ではちょうどホームランが出たところだから、多分、お隣さんとかには興奮したファンの歓声みたいに聞こえたことだろう。

 うるさくてすみません。

 あと、全然違う。なによ、ウーマンのWって。

「解決したー!」

「やったー!」

 ふたりは大喜びでくるくる回りながらペッパーミルのパフォーマンスをしている。

 あんまりにも嬉しそうなので、私ももう何も言えなくなった。

 ……まあいいか。

 ほかに、もっといろいろ間違ってることあるもんね。

 よく分からないが、WBCというのは私の部屋に住む一人とふたつの略ということに決まった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 「今度のピッチャーの得意ボールはストライクだよ、多分」 得意球種がボールだったら打者一人で交代させられちゃうんですね、分かります。 [一言] うーまん・ばーど・きゃっとネタが何故今頃。と…
2023/04/08 06:50 退会済み
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