今日はプレミアがつく。
「ただいまー」
「まぼにゃん!」
「わあ」
仕事から帰って来て家のドアを開けた途端、ねこが駆け寄って来ておかしな言葉を叫んだ。
「なに、なになに」
「ふふふふふ」
私の問いに答えず、ねこは得意げに笑う。
とりが奥からふこふこと出てきた。
「はい、それでは」
とりはねこの隣に立つと、ふこりと手羽をつき出した。
「いきますよー、うーっ」
「まぼにゃん!!」
ねこがぴこーん、と腕を上げて叫ぶ。なにこれ。
「よく分かんないけど、もう夜だからあんまり大きな声出さないでね」
私は靴を脱いでふたりをまたいだ。
「わあ」
「あぶない」
「ちょっとまて」
ふたりが後ろでわあわあ文句を言ってるけど、気にしてたらいつになっても着替えができない。
「見て! ほら、マキ! 見て!」
「まぼにゃん!!」
「だからそれ、何なのよ」
私が振り向きもせずに着替え始めると、ふたりはひそひそと話し始めた。
「やっぱりマキの目は節穴だから、ねこくんの価値が分かってないんだね」
「しかたないよねー、マキだもんねー」
「そうそう。所詮はマキだよ」
なんだかすごく失礼なことを言われてる気がする。
「……で、何なの。まぼにゃんって」
部屋着に着替えてこたつに座った私が改めて聞くと、ふたりはテレビを指差した。
「今日、テレビで言ってたんだが」
と、とりが言う。またテレビ発の何かか。
「今日は2月22日でにゃんにゃんにゃんの日、つまりねこくんの日なんだそうだ」
「あー」
ねこの日ね。
「確かに最近、そんなこと言うようになったね」
「で、ワイドショーのコーナーでねこのぬいぐるみを特集していてだね」
「はあ」
「そこに、ねこくんがちらっと出てたんだよ!」
「じゃああん」
ねこが誇らしげに胸を張る。
「もう売られていない幻のぬいぐるみで、プレミアがついてるんだそうだ!」
「ふふふ」
「幻のねこ。つまり、まぼにゃんだ!」
「まぼにゃん!!」
「わあ」
急に叫ばないで。
幻のねこって。そんな大げさな。
普通に量販店でたくさんの同期のお仲間と一緒に売られてたんだよ、あなたは。
どれどれ。
スマホで調べてみる。
このねこにプレミアがねえ……。キャラクターものじゃないし、もう売られてないのは確かだろうけど。
「あ、あった」
差し当たって見付かったのは、個人取引サイトのページ。
ねこの画像付きで『ねこ プレミア付き』って書いてある。
うちの子と違って動き回らないだろうから、状態はだいぶいい感じ。毛並みが白くてきれい。
希望の売値は……確かに元の値段の2割増しくらいにはなってる。
プレミア……うん。
「すごいだろ?」
と、とりが言う。
「あ、うん。すごいね」
「今日はねこの日だし、ねこくんを讃えてあげてるのさ」
「ふふふ」
兄貴分のとりに持ち上げられて、ねこはすごく嬉しそうだ。
まあ、水を差すこともないだろう。
「毎月28日はぼくの日だからな。一年に一度くらい、ねこくんの日があってもいいだろう」
「とりさんやさしいー」
「うふふふふ」
「あはははは」
とりとねこがべたべたしている。ちょっと気持ち悪い。
っていうか、毎月28日はあなたの日っていうか、あなたが食べられる日だと思うよ。それ某有名チェーン店のキャンペーンの日じゃん。
そう思ったけど、ふたりとも幸せそうなので私も余計なことは言わないことにした。
「おめでとう、ねこくん」
そう言うと、ねこは嬉しそうにまたぴこりと両腕を上げた。
「まぼにゃん!!」
「わあ」
もうちょっと声落として。