今日は何かを伝えようとしている。
「おーい、マキー」
「ねーねー、マキー」
とりとねこが窓際で呼んでいる。
「ほらー、マキー」
とりが窓の外を手羽でぴこぴこと指している。
「んー……?」
さっき仕事から疲れて帰ってきたところで、あまり動きたくない。
「なにー?」
「ほらほら」
とりが窓の外を指差す。
窓ガラスに、とりの姿が映っている。
「もう夜だから、外は何も見えないよ」
そう言うと、とりは「いや、だから」と言いながら、丸い身体をふこりと私の方に向ける。
その左下から、ねこが体全部を使ってえぐるようにしてとりのお腹を押す。
「ほら、こんな感じ」
「おりゃー」
両手羽を広げるとりのお腹を、ねこが斜め下からぐいぐいと押している。
そのせいで、とりのおなかがへこんでしまっている。
「……何が?」
意味が分からない。
いったいこのふたりは何をしているのだろう。
もうしばらくしたら、サワダさんに電話しないといけないんだけどな。
「だから、これだってば」
とりがじれったそうな声を出す。
その下からねこが一生懸命にとりのお腹を押している。
うん、じれったいのはこっちなんだけど。
「さっきからねこくん、何やってるの」
「だから、ぼくが下からこう食べていって」
「そうそう」
とりがふこりと頷く。
「それでぼくは下からこう食われていく」
「は?」
このけものたちがいつも訳の分からないことを言ってくるのには慣れていたけど、今日のは別格で訳が分からない。
「食べる? ねこくんがとりさんを食べるの?」
そう言ってみると、ふたりは顔を寄せ合ってひそひそと相談を始めた。
「思った以上に鈍いな、これは」
「察しが悪すぎるというのも、それはそれで生きづらいものなのでは」
ひそひそと話しているけど、狭い部屋だから全部丸聞こえだ。
「ちょっとー。鈍いとか察しが悪いとか、失礼でしょ」
私の言葉に、とりが大げさにため息をついた。
「仕方ない。マキにも分かるように教えてやるか」
「やるか」
ねこも一緒になってため息をついている。
ばかにされているようで、なんだかむかつく。
「マキさんや、こっちへおいで」
とりに手招きされて、仕方なく立ち上がって出窓の方へ行く。
「なによぅ」
「ほれ、あれだ」
とりがまた窓の外をふこりと指す。
窓辺に置かれたマリーゴールドのマリーちゃんの、その向こうに見える夜空。
そこに月が浮かんでいる。
「……あっ」
思わず声を上げる。
月の左下が、ぼんやりと霞んでいた。
いつもの月と、何だか違う。
雲に隠れているわけじゃない。そうか、あれは。
「月食」
そういえば、朝のニュースでそんなことを言っていた気がする。
「やっと分かったか」
「マキ、おそーい」
ねこがまたとりのお腹を下からぐりぐりと押す。
「こうやってお月様が食べられてるんだよ」
「……あ、それ月食のつもりだったの」
「そうに決まってるでしょ」
「他に何に見えるんだー」
なんて分かりづらい。
分からなかったのは、絶対私のせいじゃないぞ。
そう思いながらも、少しかじられた月を見上げる。
夜は何も見えないなんて言ってごめんね。
そう言おうと思ったけれど、とりもねこも私に月を見せたら満足したみたいで、もうテレビの前に陣取ってリモコンを構えていた。
サワダさんも見てるかな。
私はスマホを取りに窓辺を離れる。