今日は溶けている。
最近ちょっと肩が凝っている。
多分、最近仕事が立て込んで、職場でパソコンとにらめっこする時間が増えたからだろう。
目はいつもしぱしぱしているし、たまに偏頭痛も来る。
やっぱり人間は適度に身体を動かさないと具合が悪くなるようにできてるんだ。
そんなことを考えながら残業帰りにコンビニで遅い夕食を選んでいると、雑誌の棚に並んでいた低反発まくらが目に留まった。
低反発まくらかあ。
パッケージにはいろいろと身体によさそうなことが書いてある。
「健康な生活は質のいい睡眠から!」
うん、それはそうだよね。
「毎日のデスクワークで目を酷使している方に!」
はい、私です。
試しに手にとって、指でぐにぐにと押してみる。
感触は悪くない。これで寝たら気持ちいい気がする。
値段も、普通のまくらより安い感じ。これなら失敗してもそんなに後悔しないかな。
そう考えて、買ってきたら。
なぜか今、そのまくらにはとりとねこがふよりと座っている。
「あー、これはまずいよ」
とりがとろけそうな声を出す。
「これは人をだめにするまくらだよ」
「だめになるー」
ねこも言う。いや、君達は人ではないぞ。
あと、まくらは座布団みたいに座るものでもない。
「この低反発っていうの? クッションとはまた違った気持ちよさだねえ」
「ほんと、だめになるー」
すごく気持ちよさそうだ。
よく見るとふたりとも何だか体型もふよりと崩れている。
「とけちゃうー」
溶けてしまうらしい。
「あ、そうだ」
とりがいいことを思い付いたような声を出した。この声を出したときに本当にいいことを思いついたためしはない。
「これに座ってマリーちゃんを観賞しよう!」
「それいい!」
マリーちゃんというのは、とりとねこが一生懸命お世話している、先日私がもらってきたマリーゴールドのことだ。
ふたりはまくらを持ち上げてマリーゴールドの鉢植えのある出窓の前に運ぶと、そこにふこんと座った。
「ああ。すてき。とけちゃうねえ」
「とけちゃうー」
花を見ながら、ふよふよと揺れている。
下からの反発がなくなると、溶けちゃうものなんだろうか。
楽しそうにまくらに沈み込んでいくふたりを見ながら、私はどこかにしまいこんだツボ押し器を探すために立ち上がる。