今日は張り切っている。
要らないです要らないです、とずっと断っていたんだけど、結局強引に押し付けられてしまった。
もっと強く「迷惑です」と言えばよかったんだろうか。でもそうしたら、きっとその場がすごい空気になったと思う。
こういう時、昔からうまく断れない。
こんなことを相談したら、強気でイケイケな人だったら「いや、けんかになってもいいからはっきり要らないって言わないと。私なんてこの間さあ」って自分の武勇伝を語ってくれるんだろうなあ。
でも優しい人だったら「そういうことってあるよねー。実は私もさあ」って自分の経験談を話してくれるんだろうなあ。
どっちみち、それで私の性格が変わるわけではない。私はこれを持ち帰る運命だったんだ。
だって捨てるわけにはいかないじゃないか。生きてるんだもの。
鮮やかなオレンジ色の花が三輪咲いた小さな鉢植えを持ったまま家のドアを開けると、出迎えのとりとねこが目を輝かせて(いるように見えた)大騒ぎした。
「花だ!」
「お花!」
とりがふここここ、と駆け寄ってくる。
「どうしたの、それ!」
「職場で人からもらったんだよ。どういう事情か知らないけど取引先の人が、どうぞって置いていったとかでさ。誰も持ち帰らないから、じゃあ若い女性が、みたいな感じで押し付けられちゃって」
別にもうそんなに若くもないんですけど。まあ職場では若い方だけど。
「もらった花!」
「すごい!」
とりとねこはまた手羽と腕をぴこぴこと動かして大騒ぎする。
「マキは花をもらう女!」
「すごい!」
「ちょっとその言い方やめて。すごくないから。押し付けられたって言ったでしょ」
「何て名前の花なの?」
ねこが尋ねてくる。そういえば、確認してなかった。
「ええと」
「ここに書いてある!」
とりが目敏く、土に刺された小さなプレートを見付けた。
「マリーゴールドだって」
「マリーちゃん!」
ねこがばんざいする。
「女の子だ!」
「すごい!」
さっきからこの人たち、二言目にはすごいしか言わない。
「いや、別に女の子とかってわけじゃ」
そう口を挟んでみるけど、もうふたりで盛り上がっていて聞いていない。
「うちに女子が来るなんて!」
「すごい! 緊張する!」
いや、そもそもここは女子の家なんですけど。毎日緊張しなさいよ。
「それで、日当たりのいいところに置きたいから、ふたりのお気に入りの出窓のところに置かせてね」
嫌がるかと思ったが、二人とも快くふこふこと頷く。
「どうぞどうぞ」
「僕らにはおかまいなく」
そういうわけで、マリーゴールドの鉢植えは我が家で一番日当たりのいい場所に置かれた。
「きれいだねえ」
「花のある生活、すてきー」
とりとねこはふたりで並んでふよふよと揺れながら花を見上げている。
「水はあげないのー?」
ねこがふこりと振り返って訊いてくる。
「うん、今日はもういいかな。あげるなら、明日の朝……」
「はいはいはい!」
とりが手羽をびしりと挙げた。
「明日の朝、僕が水あげる!」
「あー、とりさんずるい! 僕もあげる!」
ねこも腕をぐるぐる回す。
「うん、まあ順番にあげてくれれば」
私が言うと、とりがはりきってふここここ、と水道の方へ走っていった。
「マキ、じょうろは?」
「あるわけないでしょ、そんなもの」
とりあえず小さめのコップを出してあげる。
「これでそっとあげて。外にこぼさないようにね」
「了解!」
とりが手羽をふこりと上げて敬礼し、その後ろでねこも全く同じ動きで敬礼している。
「明日からたのしみだね」
「たのしみー」
ふたりでまた並んで、うふふふふ、と笑いながら花を見上げている。
要らない要らないと思いながら持ち帰ってきたけど、こんなに喜んでもらえたならまあいいか。
私はそう自分を納得させて、冷蔵庫にビールを取りに行く。