今日は見張っている。
朝。
出勤の準備で忙しい私にはお構いなしで、とりとねこはお気に入りの出窓のところで、ふたりで並んでお日様を浴びながら身体をふよふよと揺らしている。
仲がいいのはいいことだ。でも、羨ましい。
なんなら私も、一緒に出窓の前に座って日向ぼっこしながら、ゆらゆら揺れていたい。
でも、この年でぬいぐるみになりたいというのはさすがにどうかと思うので、そこは社会人としてちゃんと仕事に行こうとするわけですが。
今日はカバンをいつものやつと変えたら、微妙に物が入らない。
どう入れ替えても、何かが出っ張る。
仕方ない。
元から入っていた、カバンとお揃いのエコバッグを取り出す。
きゅっと小さくたたまれて手のひらに収まるくらいのサイズのそれを出しただけで、いい感じにすっぽりと物が収まった。
よし。これですっきり。
もう出ないといけないけれど、このエコバッグも適当なところに放り出していきたくない。
そう思ったとき、鼻歌を歌いながらみょいんみょいんと揺れているふたりの呑気な背中が目に留まった。
「ねえ、とりさん、ねこくん」
私が呼びかけると、ふたりがふこりと振り向く。
「どうした、マキ。出勤せざるを得ぬ者よ」
「満員電車に揺られるさだめを背負いし者よ」
「その呼び方やめて」
私はとりの目の前にエコバッグを置いた。
ふたりが、お?という顔でそれを覗き込む。
「これ、ちょっとカバンに入らないから、置いていくね。見といてくれる?」
そう言うと、とりが、ほほう、という顔をする。
「つまり、これを見張っていろ、と」
「でも、これ動かないけど」
ねこはすでにエコバッグの上に乗って、ころころと転がったりしている。
「見張ってろ、とまでは言わないけど。変なところに落としたりしなければいいの。なくならないように、見ててくれれば」
「監視じゃなくて、保護だな」
「保護だね」
ふたりが勝手にふこふこと頷いたので、了承してくれたのだろう。
私は玄関に向かう。
「じゃあ、行ってくるね」
「はーい」
「いってらー」
二人の声を背に、私は部屋を出た。今日も、朝日が眩しい。
「ただいまー」
疲れて家にたどり着いた時には、もうすっかりエコバッグのことなんて忘れてしまっていた。
だから、玄関まで迎えに出てきたとりとねこが開口一番(いや、口は開かないんだけど、何となくそういうイメージ)、
「しっかりと見張っておいたぞー」
「たぞー」
と言うので、きょとんとした。
「え? 何を?」
「マキが言ったんだろ。あのしゃかしゃかしたやつだー」
とりが手羽をふこりと上げる。
「しゃかしゃか?」
部屋に入ると、テーブルの上に小さな犬小屋みたいなものができていた。
材料は雑誌とか新聞紙とか。適当に積み上げて、それっぽく作られている。
その中に、エコバッグがちょこんと入っていた。
入り口の上に『しゃかしゃかしたやつの家』と書かれた付箋がぺたりと貼られている。
最近、ほんとに付箋の減りが早いんだよな。仕事でもここまで付箋の消費は激しくないんだけど。
「あ、わざわざこんなのまで作って、エコバッグの面倒見てくれてたんだ」
「本当はクッションで小屋を作りたかったんだけどねー」
とりが気持ち、得意げに言う。
「ほら、クッションは重いから」
「持ち上げようとしたら、つぶれそうになったんだよねー」
ねこが補足してくれる。
エコバッグの前に、二人がいつも使う小皿が置かれているので、エサも食べさせてくれていたらしい。
「ええと、ありがとう…?」
「どういたしましてー」
「ましてー」
私がエコバッグを持ち上げると、ふたりがふこふこと手を振る。
「また来いよー」
「げんきでねー」
……明日から、このエコバッグも喋り出したりしないだろうな。
二人に今日一日飼われていたらしいエコバッグを見て、私はなんだかちょっと心配になった。