今日はレベルアップしている。
「マキー。マキー」
いつものようにクッションにくたっとしてテレビを見ていると、後ろからとりに呼ばれた。
「もしもし、マキー」
「うーん、なにー?」
振り向くと、とりは私の頭をふこりとした手羽で指差した。
「ここ」
「ん? 何?」
「ほれほれ、ここ」
「だから、何よ」
「白髪があるぞ」
「あー、うん」
なんだ、そんなことか。
私はまたテレビに向き直る。
「私、昔から結構あるのよ、白髪。目立ったところにはないけど、探すと意外と見つかるのよ」
「てれれってれー」
「わっ」
急にとりが大きな声を出したので驚いて振り向く。
「な、なに?」
とりは右の手羽をびしっと挙げて、誇らしげに胸を張っていた。
「ど、どうしたの」
「今、とりさんはレベルアップしたんです」
ふこふこと寄ってきたねこが解説してくれた。
「レベルアップ?」
「そうです」
なぜか丁寧語でねこは頷く。
「新しいものを発見したり、新しい知識を得たりするととりさんはレベルアップするのです」
「れ、レベルって何の?」
「レベルはレベルです」
ねこはふこふこと頷いた。
「レベルアップとは、レベルが上がることです」
うん、そっちは分かるけど。
レベルって何なの。
「あ、じゃあ今私の白髪を発見したから」
「そうです。だからとりさんはレベルアップしました」
なんだ、それは。
「レベルが上がるとどうなるの」
そう尋ねたときには、もう二人は勝手にふこふこと盛り上がっていた。
「いやー、またレベルアップしましたね、とりさん」
「ありがとう、ねこくん。レベルがうなぎのぼりだよ」
二人で楽しそうにしているので、まあいいや。放っておこう。
「あ、そういえばマキ」
とりがふこりとこちらを見る。
「んー、なにー?」
「洗濯の洗剤がもう終わりそうだったぞ」
「え、ほんと?」
仕方ない。
立ち上がって、洗濯機の脇のかごから洗剤を持ち上げてみる。
「まだ重いよー」
「いや、そっちではないぞ、マキよ」
とりはふこりと手羽を上げる。
「となりの白い容器の方だぞ」
「あー、こっち?」
持ち上げてみると、確かに軽い。
「こっちは柔軟剤ね。赤い容器が洗剤で、白い容器が柔軟剤なのよ」
「てれれってれー」
「わあ」
またレベルが上がった。
とりあえず大声を出すのやめてほしい。びっくりするから。
「とりさん、どんどんレベルが上がりますね」
「日常には新しい発見があふれているからね」
とりは胸を張る。
「こんなにとりさんのレベルが上がるのは、いつ以来でしょうか」
「そうだねえ、あれは忘れもしない昨日の夜」
そりゃ昨日ならまだ忘れないでしょうけれども。
「かさかさという音に、次々と新規の発見をしたとき以来」
「ちょっと待って」
聞き捨てならないことを言ったぞ、今。
「何を見付けたって」
「いや、だから」
とりとねこは顔を見合わせる。
「黒とか茶色のご新規さんを見付けるたびに僕のレベルが」
「いやああああ」
うそでしょ。
この間、いろいろと買って来て対策したのに。
おかしいよ、絶対このアパート、部屋をすごく汚くしてる人がいる。
そうじゃなきゃこんなに出るわけないもの。
私のショックをよそに二人は、あははうふふと笑いながら部屋のあちこちを動き回っている。
「あー、明日って燃えるごみの日だー!」
「てれれってれー」
向こうでまたレベルが上がっている。
それはどうでもいい。とりあえず、対策だ。