今日はおばけごっこをしている。
「がおー」
「きゃー。たすけてー」
「あはははは」
「うふふふふ」
床に寝っ転がった私の頭の上の方から、楽しそうな声が聞こえてくる。
よいしょ、と首を上げて、そっちを確認する。
ハンドタオルを頭からかぶったとりが、おばけになって、ねこを追いかけていた。
ねこは悲鳴を上げて逃げ回っている。
追う方も逃げる方も笑いが抑えられない。実に楽しそうだ。
この間、ホラー映画を観た後はしくしく泣いていたのに。切り替えの早いけものたちである。
あのハンドタオル、どこから持ってきたんだろ。
「とりさーん、そのハンドタオルどうしたのー?」
「がおー」
「ひゃー」
「あはははは」
「うふふふふ」
だめだ。全然聞いてない。
とりが私の前に走ってきたところで、さっとタオルを取り上げる。
「あ、マキ、何するんだ」
「あ、とりさん!」
ねこがとりを指差す。
「お化けの正体はとりさんだったのか!」
「しまった、ばれてしまった!」
「あはははは」
「うふふふふ」
楽しそうなふたりは置いておいて、タオルをしげしげと眺める。
これ、私が買ったものじゃないな。
実家から持ってきたやつほどくたびれてもいない。
どこかで見たような。
「次、僕がお化けやるねー」
「えー、じゃあ僕はにげるー」
「マキ、早くタオル返して―」
「返してー」
きゃっきゃ言ってるふたりの言葉に、はっと思い当たった。
返して。
「あ、これ借りものだ」
そうだ。会社でムラオカさんから借りたタオルだ。
水をこぼした時に貸してくれたんだっけ。
次の日に返そうと思って洗濯して、結局翌日は寝坊しかけたか何かで忘れて、そのまんまだった。
あちゃー。
やってしまった。
貸してもらったのって、いつのことだっただろう。結構前だぞ。
さすがにもうこれだけでは返せないから、ちゃんとしたお菓子でも添えないと。
「はやくー。マキはやくー」
ねこがぴょんぴょんしている。
「ごめん、このタオルはだめだからこれ使って」
適当に選んだスポーツタオルをねこの頭にかぶせてあげる。
「よーし。がおー」
ねこが張り切って走り始める。
「きゃー。マラソンおばけー」
とりが嬉しそうに逃げだした。
マラソン? と思ってタオルを見ると、『第〇回〇〇マラソン』とでかでかと書いてあった。
そうか、去年会社の人たちと出たマラソン大会の参加賞か。
「このおばけはマラソンおばけなので、ずーっと走れます」
「きゃー。逃げ切れないー」
勝手な設定が付け加えられている。
よかった、思い出して。もう一回ちゃんと洗っておこう。
私はハンドタオルを手に立ち上がった。