今日は電話を聞いている。
「はい、分かりました。じゃあ明日また連絡します。……はい、おやすみなさい」
電話を切って、ふう、とため息を一つ。
スマホをクッションの上にぽん、と放り投げて横になる。
「どうした、マキ」
電話していた私に気を遣って、音を消したままリッキーのパーフェクトトレーニングをやっていたとりが、ふこりと私を振り返る。
「電話、おわったのか」
「うん。終わったよ」
「やった。じゃあ音だそーっと」
ねこがさっそくリモコンを操作して音を出す。
部屋の中はたちまちリズミカルなメロディとリッキーの元気な掛け声でいっぱいになった。
「何かあったのか、マキ」
ねこが一生懸命トレーニングに励む横で、とりは私を心配そうに見ている。いや、心配そうなのかどうかは分からないけど。
「あんまり嬉しそうじゃないな」
「いや、別にそんなことないけど」
「いつものサワダさんだろう」
とりは手羽でふこりとスマホを指差す。
「明日もデートか」
「デートじゃないよ、別に。一緒に食事に行くだけ」
「人間はそれをデートと呼ぶのでは」
「呼ぶかもしれないけど、デートじゃないよ」
「こだわりが強いな、マキ。缶チューハイはいつも適当に買って来るくせに」
「そ、それは今関係ないでしょ」
「さては、サワダさんのことが好きじゃなくなったな」
ねこがぴこぴこと腕を振る横で、とりはやけに私に話しかけてくる。
多分、トレーニングに飽きたんだろう。
「それなら無理しなくても、この世界は手羽よりも広いんだぞ」
とりが両手羽をふこりと広げる。
「代わりの男など、いくらでも」
「だから違うってば」
私が首を振ると、とりはくすくすと笑った。
「なるほど、手羽だけに違うってば」
「投げるよ」
クッションを掴んで睨むと、とりはさっとテレビの陰に隠れた。
こういう時は結構素早く動けるらしい。
「そういうことじゃなくて。せっかく誘ってもらったんだけど、明日は私の仕事が遅くなりそうなんだよ。だから、明日もう一回様子を見て連絡することになってるんだけど……申し訳ないなって」
「互いを思いやる気持ちは大事だぞ、マキ」
テレビから顔だけ出したとりは、えらそうにふこりと頷く。
「その気持ちを大事にするがよい」
「何、その言い方」
「ちょっと、とりさん。いつまで休んでるのー」
さすがにねこに指摘されたとりは、仕方なさそうにテレビの前に立って手羽をふこふこと動かしながら、もう一度私を振り返った。
「とりあえずご飯はおいしく食べろ、マキ。食べられる豚さんや鶏さんにもうしわけないぞ」
「そ、そうだね」
とりにそう言われると、何となく説得力がある。牛さんが出てこなかったのも妙にリアルで悔しい。
「うん。まあ心配は明日すればいっか」
とりに聞いてもらったおかげで何だか気持ちが楽になった私は、シークワーサーサワーを取りに立ち上がった。
「マキもやりなよー」
ねこがぴこぴこと腕を動かしながら言っていた気がするが、もう冷蔵庫を開けてしまった。
「次はちゃんとやるよ」
そう答えて、私は缶のプルタブを引いた。