今日はすごろくをしている。
「ただいまー」
そう言いながらドアを開けると、「あ、マキ。そこから入って来ちゃだめ」というとりの声に出迎えられた。
なんだと? こっちは働いて疲れて帰ってきたんだぞ。
ちょっとむっとして、「なによぅ」と言いながら電気をつけると、すごい光景になっていた。
「げ」
部屋の床いっぱいに四角い付箋がぺたぺた貼ってあるのだ。
全部の付箋に、とりとねこのつたない字で数字が振られている。
「……なに、これ」
「すごろくー」
言いながらとりが、どこから見付けてきたのか、さいころをぽいっと投げた。
かんかん、という固い音を立ててさいころがフローリングの床を転がる。
「あー、床傷ついちゃうからカーペットの上でやってよぅ」
「いやー、やっぱりさいころは音が出てなんぼでしょう」
とりは手羽をくちばしの下にふこりと持っていって、分かったようなことを言う。
「とりさん、4だよー」
さいころの目の確認に行ったねこの報告を受けて、とりがふこふこと付箋の上を歩いていく。
「1、2、3、4」
律儀に数えながら順番通りに付箋を踏んでいき、とりは21と書かれた付箋の上で止まった。
「あっ」
とりが自分の足元を見て身体をぴこりと震わせる。
数字のほかに、その付箋には何か書いてある。
「あ、とりさん。それ21番でしょー。僕が書いたやつー」
ねこが嬉しそうに、うふふふ、と笑う。
「読んでみてー」
「好きな歌を歌う、だって。まいったなー」
とりは困ったように手羽をぴこぴこと動かした。
「マスの指令は絶対でーす」
ねこが楽しそうに言う。
「おねがいしまーす」
「しかたないなー」
とりが、おほん、と咳払いして歌い始めた。
とりとりとり とりとりとり
ひとりおとりさとり かとりみとりふとり
とりとりとり とりとりとり
しりとりききとりやりとり かぎとりゆみとりぬきとり
平坦なリズムで何かシュールな歌を歌い始めた。
ねこは身体を揺らしながら手を叩いている。
いや、そんな乗れる歌じゃないぞ。お経みたいじゃん。
「はい、おわり」
「わー!」
ぱちぱちぱち。
ねこが一生懸命手を叩く。
ちょっと胸を張ったとりがちらちらとこっちを見るので、仕方なく私も手を叩く。
「……わー」
ぱちぱちぱち。
私、玄関に突っ立ってるんですが。
そろそろ室内に入れてくれないだろうか。
「次は僕の番だね」
ねこがさいころを振る。
かんかん、と音を立ててさいころは転がり、6の目を出して止まる。
「やったー!」
ねこはふここここ、と猛烈な勢いで付箋の上を爆走し、とりの背後にぴたりと付ける。
20の付箋の上だ。
「あー、5だったら僕の書いた“冷蔵庫の野菜室で10秒間冷やされる”に当たったのに―!」
とりが悔しそうに言う。危ないからやめなさい。
「うふふ、あぶなかったー」
「えーと」
楽しそうなところ申し訳ないけど、私は割り込んだ。
「これゴールは何番なの」
「え?」
とりがふこりと私を見上げる。
「ちょうど100番だけど」
だめだ、付き合ってられない。
っていうか付箋一ブロック全部使ったな。
「入ります」
私は付箋の中に強引に足を踏み込んだ。とりとねこが、きゃああ、と悲鳴を上げる。
「あー、付箋踏まないでよ、気を付けて!」
「特に50番はだめだよ! 僕の書いたすごいやつなんだから!」
「はいはい」
私はつま先立ちでクローゼットへと歩いた。




