今日はホラー映画を見る。
私が部屋の電気を消すと、今日もとり電車で遊んでいたとりとねこが、お?というもの問いたげな顔でこっちを見た。
「これから、ホラー映画見るのよ。明るいと雰囲気出ないじゃない」
「ほほう」
とり電車がさっそく今日の運行を取りやめた。
客車に乗ったレシートさんはほったらかしだ。
きっと明日には運行再開すると思いますので、それまでそこでお待ちください。
「ホラーというと、こわいやつですな」
「ですな」
二人がいそいそと私の横に陣取る。
「見せてもらおうじゃないか、我々ぬいぐるみにもその恐怖が通用するかどうか」
とりが偉そうに手羽で腕を組む。
「大丈夫? 夜寝られなくなっても知らないよ?」
「ぬほほ。ご冗談を」
私の言葉に、とりは手羽をぴこぴこと振った。
「僕がこの国に来るまでに朝の来ない夜を何日過ごしたと思っておるのかね」
あ、輸入のときのコンテナのこと言ってるな。Made in Chinaだからな。
「あ、それ僕もー」
ねこが嬉しそうに手を挙げる。
「まあそれならいいけど。じゃあ始めるよ」
私は再生ボタンを押した。
私はホラーをホラーと割り切って楽しめる人間でして。
友達には、「あんた信じられない」とか「人の血が流れてない」とか散々に言われるんだけど、見ているときは「うわ」とか「ひゃ」とかなっても、見終わった後に現実とリンクさせてシャワーの時に目が閉じられなかったり一人でトイレに行けなくなくなったりは決してしない。それはそれ、これはこれ。虫の方がよっぽど怖い。
だから、部屋を暗くするという演出まで含めて楽しんでいるんだけど。
「ぬお」
「うにゃ」
今日は、両隣がやたらにうるさい。
映画館だったら我慢できずに注意するくらいのうるささだ。
「どうして一人になるの」
「みんなでいなよ」
「あぶないー」
「きゃああああ」
撮った監督さんも演じた役者さんも、ここまで怖がってもらえれば本望だろう。
「出るよ、ぜったい出る」
「えー、出るの、出るの」
「出るってば、出る出る出る」
「きゃああああ」
「ひゃああああ」
ああ、うるさい。
「見て、鳥肌!」
「ほんとだ!」
そりゃあなたはとりですから。いや、そこまでは再現されてないんじゃないか。
見終わって私が電気をつけると、とりは手羽で目を押さえてしくしくと泣いていた。
「あんなに怖いの見せられたら、寝られなくなっちゃうじゃん」
「ほら、だから言ったのに」
「今日は明かりをつけて寝よう」
「そうしよう」
二人はさっそく付箋に「消灯禁止」とか書いて電気のスイッチの下に貼りつけている。
「えー。寝るときは暗くしたいよう」
「だめに決まってるでしょ!」
とりが私をきっ、と睨む。
「知らない女の人が入ってきたらどうするの!」
「警察呼ぶ」
「警察なんか来ません!」
「消防も来ません!」
ねこが付け加える。
いや、呼べば来るでしょ。
仕方ないなあ。
アイマスク、どこにしまったかな。
私は欠伸をしながら立ち上がった。