男娼に心底惚れ込んだ彼女の話
せめて貴女の腕で眠りたい。
「さて、今日もお越しくださってありがとうございます。ご指名はいつもの彼ですか?」
「ええ。お願い」
「かしこまりました。では、お部屋へどうぞ」
ここは娼館。私は今日も彼を買う。
「こんばんは」
「おや。また来てくださったのですね」
優しく笑った彼。彼は元は侯爵令息で、私の婚約者だった。そんな彼は、ある男爵令嬢に恋をした。しかし彼女はこの国の王太子殿下にまで手を出して、公爵令嬢であり王太子殿下の婚約者でもある方や、私を含め他の貴族令息数人の婚約者に虐めの冤罪を被せようとし逆に牢にぶち込まれた。それに協力した貴族令息数人や王太子殿下はそれぞれ廃嫡され、王太子殿下は教会へ出家、それ以外はこの娼館に押し込められた。彼らの婚約者はみんなざまぁみろと笑って、新しく出来た婚約者と結婚して幸せに暮らしている。けれど私は心底彼に惚れ込んでしまっていて、女ながらに伯爵家である実家を継ぐと結婚もせずにこの娼館に足しげく通った。一時期は彼にあの男爵令嬢を虐めた悪役令嬢とまで罵られた私だけど、あの男爵令嬢が牢に入れられた今は彼からの誤解も解けたし、一番の上客…のはず。そもそも、彼が売られてから毎日通っているのだから、他の客が買う時間などなかったはずだ。
「ええ。今日も一番乗りでしょう?」
「ええ、もちろんです。娼館が開いて一番に来てくださったのですから。今日も朝までコースですか?」
「ええ。なにをして遊びましょうか?」
私は彼を買うけれど、抱かれることはない。チェスをしたり、添い寝をしたり。ただ、それだけ。
「では、一緒に眠りましょうか」
「ええ」
同じ布団に潜り込む。腕枕をされて抱きしめられる。
「お客様は、結婚なさらないのですか?引く手数多でしょう?」
「惚れた男以外に抱かれたくないのよ。一生結婚なんてしないわ。まあ、伯爵家は私が継いだし、跡取りは遠縁の親戚の子供を引き取ってあるから心配ないわ」
「…すみませんでした。僕は貴女の人生を狂わせてしまった」
「いいのよ。あの男爵令嬢の部屋から魅了効果のある香水が出てきたと言ったでしょう?貴方は悪くないわ」
「…」
「大好きよ。愛してるわ。この鳥籠で一生、私だけを愛して」
「もちろんです、お客様」
今日も明日も明後日も。ずっとずっとずっと、この鳥籠の中で。




