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ロストテクノロジーは誰のためにあるの?  作者: 維岡 真
第1部 赤い窓に宿りし君ーdisplay you on the red windowー
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敵襲


 鹿島を先頭にホテルを抜け出し急いでタクシーに乗って宿舎へと向かった。

「何があったんですか?」

 タクシーの中で菅野が鹿島に訊ねる。

「……」

 鹿島は黙っている。そして、

「霊気力者が現れた」

「それって……」

「私たちとは関係のない第三者の霊気力者。そして何人かが……」

 その後の言葉は聞かなくても理解できた。沈黙が車内を襲う。

「あのままホテルにいれば危なかった。他の教官から電話がかかり4班が襲われたという連絡があったの」

 4班。それは吉川や軽部がいる班だった。

「私たちに下された命令は『宿舎へ逃げること』その一点。他の人たちがどうなったかはわからない」

 社内の沈黙が一層深まった。普段は陽気な亀山さえも黙って話を聞いている。それが何よりこの状態の異常さを表していた。

 忘れていたわけではない。霊気力者は今や諸刃の剣。いついかなる時でもその身を狙われる危険性があるということに。それだけに十分な注意を払い宿舎外の訓練は行われていた。しかし、このような今回のように危険を伴う事故は突然現れる。それが霊気力者の抗えぬ運命なのだ。

「……」

 タクシーは静かに市内の道路を走り抜ける。


 宿舎に着いたのは植島たちの車が一番始めであった。その後、1班5班3班と戻ったが4班のメンバーは帰らなかった。

「はい、そうですかわかりました」

 吉川や教官含む4班6名があの場にいた何者かの霊気力者によって殺されたのを知るのは宿舎に着いて1時間後であった。


 その日の晩御飯は静寂に包まれていた。

 皆食べる橋のペースは遅く。女子の中にはショックから食べられないものもいた。

 吉川らの最後は勇敢であったと聞く。何者かの能力によって皆が刻まれた後も微かに残った吉川の浮遊の力と軽部の空気伝達の能力で敵を足止めし仲間にいち早く危険を知らせた。もし彼らの尽力がなければもっと多くの命が失われていたに違いない。

 吉川の訃報を聞いた瞬間、磯松は雄叫びをあげた。

「あいつが死ぬわけねーだろ!」

 しばらくの間彼は物にあたり続け麻酔で静かに眠らされることになった。前日まで味噌カツを食ったくってないなどと喧嘩していた仲とは思えないくらい吉川の死に磯松は感情を露わにしていた。

「今こうして飯を食えるのもあいつらのおかげだな」

 菅野が噛みしめるように言った。

「ああ」

 植島が頷く。

「もし今回のような無慈悲な相手がやってきたら俺は真っ先に殺されるだろう」

 菅野はそう言った。菅野の能力は擬態であり対象物を変化させたりことができる能力だ。特殊な能力で役に立つことが多いが戦闘向きではない。

「お前だけじゃない」

 植島はそういう。もし敵が熟練の殺し屋霊気力者であれば戦闘向きの植島の能力をもってしても勝てる自信はなかった。

 現在宿舎は厳重に警備されていた。対霊気力の武装訓練をした隊員に霊気力者まで呼び出し卵たちを守る体制を整えていた。

「みんないるか」

 担当教官の相田と見知らぬ者が入ってくる。

「いいか、こちらはここの卒業生。現在日本に三人しかいない特殊霊気力工作員ーー羽柴京介だ」

 そう言って羽柴と言う名前の男は頭を下げた。

 特殊霊気力工作員。実質政府が認めた日本きっての霊気力者。その能力は霊気力者の中でも抜きん出ており、他の霊気力者を圧倒する力を秘めている。国家の有事の際に動く存在だと知られているが現在こうして表舞台に出てきたのはそれが何よりも事態の緊急性を表していた。

「都合上工作員全員を呼ぶわけにはいかない。万が一もあるかなら」

 万が一。工作員全員がやられてしまうという考えにくい事態だ。

「今からこの宿舎から離れて皆を分散させる。すでに敵の手は我々の喉元にある。そのサポートを行ってもらうべく羽柴にも協力してもらうことになった」

「敵はおそらく欧米の刺客。向こうも政府お抱えの霊気力者だろう」

 と、羽柴は言った。

「車で移動するがとにかく自分の身を守ることだけを考えろ。諸君らの命は何者にも代えがたいからな」

 相田が言う。

「相田教官!」

 急いで部屋に駆け込む警備員。

「なんだ」

「何者かが宿舎に侵入。緊急脱出を!」

 遅れたサイレンとともに皆が行動を急いだ。

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