カワ・プティ
翌日。
僕たちはバンドンの郊外にあるカワ・プティに車で向かっていた。
カワ・プティは火山の多いジャワ島の中腹部にある火口湖だ。
インドネシア語で「カワ」が「噴火口」で、「プティ」が「白い」という意味であった。
パトハ山の巨大なクレーターに間欠泉から出た湧水が溜まり400年以上前にできた湖であった。
バンドンの市街地からおよそ2〜3時間であるが向かう道中には広い田園や茶畑、いちご畑など自然豊かな景色が広がっていた。
「あ、うわ」
道中、凸凹の道に揺られたせいかエリーは大層気分悪そうにしている。
「大丈夫か?」
僕はエリーの背中を摩ってやる。
年頃も近い異性なので躊躇っていたが流石に具合が悪そうなので行動に移すことにした。
「おいおい、お前ら発情すんなよ」
そう言って自分だけ景色を楽しむ亮介に僕は少しばかり殺意が湧いた。
目的地に到着した時はエリーはほぼ屍のようだった。
「私休んどく」
そう言ってエリーはチケットカウンター前の入り口付近の休憩所で休むことにした。
エリーを休ませ僕はチケットを買い亮介と二人でカワ・プティに向かう。
道中僕は歩きながら亮介を見る。
ここ最近エリーも加わり二人でこうして歩くのが久しぶりな感じがした。
うわー硫黄クセェと鼻をひん曲げながら歩く亮介は、どこまでも彼らしく感じさせる。
尾根沿いに続く遊歩道を進むと真っ白な湖、カワ・プティが姿を現した。
周辺の砂や木々までもが真っ白で、湖は入浴剤を入れたブルーがかった乳白色である。
「滞在時間は15分までがいいみたいだね」
強い有害ガスを発しているカワ・プティは人間にもその牙を向くため長時間の滞在は勧められなかった。
「まぁな。一回でいいからあの湖で泳いでみてーな」
と、亮介はこれまた馬鹿げた発想を繰り出す。
それから湖の中心に伸びている橋を渡ったりして僕たちは湖を堪能する。
カワ・プティは水の近くまで行くことができるがもちろん触ることは推奨されない。
僕は湖と砂浜の瀬戸際まで近づいた。
当初かなりの匂いがしていた硫黄も慣れてくるとあまり気にならなくなっている。
僕はしばらくしゃがみ込み波打ち際をぼんやりと眺めていた。
「よし行くか」
そう言って立ち上がった時だった。
周囲から人が消えていた。
僕は状況を飲み込めずに周囲を見渡した。
亮介どころか人っこ一人いない始末。
僕は少しずつ歩き始めぐるぐると頭を回転させる。
「おい、なんだよこれ」
僕はこの違和でしかない光景を見ながら真っ先に例の鳥がいないか探す。
あいつの仕業ではないかと思ったが探してもやつは見当たらなかった。
およそ湖を半周して入り口に戻る道まで来たところであった。
それまで何一つとして見当たらなかった光景に1点の黒い点が浮かび上がる。
それは橋の先の四角い観光用の板の上であり、そこに黒ずくめの男が一人立っていた。
ホーチミンやブラガ通りで見た男であった。




