サブカルチャー・along・ザ・パーク
路上でサリーを焼いている香りがする。
僕と亮介とエリーの3人はジャカルタの道を歩く。
さすがのコミュ力大臣である亮介もエリーに対してどう接していいかわからずどこかぎこちない雰囲気が漂っている。
この3人の中では一番自由にできるのは僕かもしれない。
亮介には言うまでもなくエリーとも別に仲が悪く敵対心を抱いているわけではなかった。
エリーの方も僕には好意とまではいかないまでも少なくとも敵対心を抱かれてはいないことは感じ取れた。
「なぁ」
そこで僕はエリーに声をかけた。
「そういえばパスポートとかってもっていたの?」
エリーは急に話されて少しあっけにとられた感じで、
「前にカンボジアに行く用があって作ったの」
と少しだけ昔を思い出すように言った。
「そうか……」
と、それ以上はあまり突っ込まない方がいいと思い僕は口を閉ざした。
ミイラ取りがミイラになってしまったように再び沈黙が流れ始める。
「うわー!」
と急に亮介が声を上げる。
「なんかいやだ」
と、苦いものを食べた顔をこちらに向ける。
「今日一日はっちゃけるぞ」
と、そういって亮介は走り出す。
「ちょっと待てよ!」
僕とエリーも急いで亮介の後を追う。
それからの今日の1日は遊べるだけ遊んだ。
ウォーターパークで水の滑り台を滑ったかと思うと次はモスクでゆったりとし動物園に行き、アイスを食べ、デパートの謎のゲームで遊ぶ。
気が付けばエリーと亮介が1,2位を争う形で楽しんでおり僕はどちらかと言えば2人の過度な行動を止める役目だった。
そして夜時になると海岸沿いの人工島、Pantai Indah Kapuk通称PIKに来ていた。
ライトスポットがあたり照らされた木造の段の上で僕たちは景色を楽しんでいた。
「綺麗ね」
エリーがぼそっとつぶやいた。
「ああ」
僕もうなずきの返事をするとエリーは、
「変な意味でいったわけじゃないから」
と、急に焦ったようで言ってきたが、僕だって同じ気持であった。
「あー眠くなってきたぜ」
と、亮介がそんな僕たちの様子を見かねたのかただただ思ったことを口にしたのか(おそらく後者だが)伸びをして帰宅モードに入る。
「帰るか」
「そうね」
僕とエリーもそれに同意し踵を返そうとしたその時、
「やぁこんばんわ」
と、突然英語で僕たちに声を掛けてくるスーツ姿の男性がいた。
「ああ、誰だてめー?」
今日1日疲れたのか言葉遣い荒く亮介が尋ねる。
「いえ、私はこの近くで働いているものでしてなかなか見ない国籍豊かな3人組だなと思って声を掛けずにはいられませんでした」
と、言葉上謝るものの顔はニコニコした笑顔でいる。
確かに、日本人の亮介、西洋顔の僕、ベトナムのエリーと年も国籍も異なる3人ははた目から見て少しだけ奇妙なグループに思えるかもしれない。
「ジャカルタへは観光で? なかなかこのPIKに足を運ぶ方は珍しいと思いましてね」
男はさらに付け加える。
「まぁそんなところだ」
亮介はぶっきらぼうに答える。おそらく本当に眠く早く帰りたいのだろう。
「このPIKは元々オランダ統治時代の首都バタビアにおける高位の政府職を務めていたタン・エン・ゴアン氏の私有地でしてね。それを後に20世紀後半に民間の不動産会社が買収して今日の富裕層の郊外住宅地となったわけです」
と、急な男の説明も「はぁ」と心底興味なさそうに受け流す。
「20世紀、21世紀と科学の発展は素晴らしく人類や世界は模様を様変わりさせています。人々が豊かになることはいいことだと思いますが、こうやってかつての自然や景観が失われるのもどこか寂しいものがありますね」
と男は感傷に浸ったような説明をし、
「おっとすみませんでした私としたことが。ついつい見慣れない方がこちらの地域に来ていたもので余計なことを話してしまいました。本当に嬉しかったものでご容赦ください」
と言って、「では良い旅を……」と去ろうとした瞬間。
「おい、待てよ」
と、亮介がここにきてわざわざ男の足を止めた。
づかづかと男の近くに歩いていき睨む感じで男を見つめる。そんなに足止めを食らったのが気に入らなかったのか亮介は凄みを出している。
「おい、りょうす……」
僕が止めようとした矢先、
「ジャカルタで一番美女がいる店を教えろ」
と、言った瞬間僕は「あっこいつやっぱだめだわ」
そう思った。




