鳥かごの中の少女たち
インドネシアの旧首都ジャカルタ。
2030年にヌサンタラに首都を移動してからジャカルタの人口一都集中は少しは軽減したという。それでもジャカルタ名物渋滞ラッシュは相変わらずでまさに僕たちも今巻き込まれていた。
「おい、おっさん早く! 抜け!」
亮介は伝わるわけでもなく日本語でタクシーの運転手に話しかけている。大方「早くいけ!」とか言ってるんだろうがそんなんでこの蜘蛛の巣のような渋滞がどうにでもなるわけではなく僕はため息をついた。
ジャカルタのランドマークtaman monasにつくのには約1時間かかった。
タクシーを降りるときに何やら亮介が運転手と交渉していたがおおよそもっと安くならないかといったところだろう。
「おおっこいつはすげえ」
降りる前から否が応でも目に入っていた白色の塔は降りてみることでより一層立体感がありその荘厳さが際立っていた。
「よっしゃじゃああの塔までかけっこだ」
そう言って亮介は突然走り出す。
「ちょっと待てよ!」
急ぎ僕はそう言って、確か入園料がかかったようなと思いながら亮介を追う。
公園の入り口を目指すため角を曲がった時だった。
「ふにゃ」
声にならない声を亮介があげる。
「どうした?」
追いついた僕は亮介に声をかける。
亮介が尻もちをついている姿が目に入り、そしてその目の前には少女が立っていた。
そしてそれは僕たちが知る人物でもあった。
「エリー!?」
僕は驚いた。
亮介の前に突っ立っていたのはベトナムで出会ったエリーという少女だった。
「あんたたちよくもやってくれたわね」
エリーは腕組みをして僕たちを睨む。
「あの後は大変だったんだから」
エリーが心底憎そうな目でこちらを見てくる。
ときどき思うんだが女性の悪意のある目はキマイラのそれより怖いんじゃないかってする。
「んだよ、助けってやっただろ」
亮介はぶーぶーと文句を垂れる。
「助けても何もなにもなかったみたいにしてんじゃないわよ」
どうやらエリーも時が遡る前の記憶があったらしい。
「高垣たちも一緒でどういうわけか私のところに来て『住まいを用意するから』とか言ってきたわよ!」
内容とは裏腹エリーは怒っていた。
「なんだよそれでいいじゃんか!?」
珍しく正当に亮介が突っ込む。
「よくないわよ!」
エリーがすぐさまそう返す。
「私は別に情けがかけられたいわけでも贅沢な暮らしがしたいわけでもない。ただあいつらに復讐がしたかっただけなの」
と、今度はどこか哀し気な表情をするエリー。
そんな様子のエリーに亮介はため息をつき、
「そんなに復讐がしたいんだったら勝手にすればいい」
と吐き捨てるように言った。
「もうそんな気も失せたわよ。あんたたちのせいで」
エリーはため息をつく。
「そうか、じゃあまた」
そう言ってエリーに手を振ってその場を離れようとする亮介だが、
「ちょっと待ちなさいよ」
エリーが制止する。
「なんだよ」
そう言って亮介が立ち止まると、エリーは、
「あんたたちこれからどこに行くの?」
そう言うと亮介は、
「あ、なんでそれがお前に関係あるんだ?」
と返した。
「私もついていくわ」
とエリーは短とそう述べた。
「はっ?」
とっさの発言に亮介だけでなく僕も口を開く。
「だから私もあんたたちに付いていくって言ってんのよ」
エリーはどこか歯切れが悪そうにそう語る。
「馬鹿も冗談も休み休み言いやがれ」
亮介がまたも吐き捨てるように言う。
「いいかなんでお前が出会ってばかりの俺たちと一緒に旅をするんだ? 故郷はどうした故郷は。お前はベトナムの地でフォーでも食ってりゃいいんだ」
と、ベトナム人全員を敵に回すような発言を簡単にする亮介。
「故郷はあってないようなものってのはあんたが一番よくわかっているでしょ!」
エリーは噛みつくように言った。
「あのなぁ一緒に行くたってこっちには年頃の男の子だっているんだぞ? 急に俺そっち抜けでおっぱじめてもなんだ俺はどっかのねぇさんとでも遊んどけってのか?」
「しねーよ」
今度は僕とエリーが口を合わせる。
「大体女性はやれ買い物だのトイレだのと旅のスピードが落ちる。それなら初めから連れて行かない方が健全ってもんだ」
亮介はなかなか首を縦に振らない。
「でも、私今のまま生きててもやることがない」
俯くようにそう言うエリーに亮介は、
「働いてりゃいいじゃねーか」
と少し勢いを落として言う。
「でも私はまだ少女。世界を見てみたい」
と、何かを訴えるような目で亮介を見返した。
よくある女性のおねだりというやつだな、と僕は思い亮介はそういうのに慣れていると思っているから無駄だと亮介の方を見ると、
「……」
何とも言えない表情をしていた。
……いや、効くのかよ!
「つっても俺たちがなんでお前なんかの世話を……」
後ろ頭を搔きながら亮介がぼやく。
「迷惑はかけないわ。こうしてインドネシアに渡る金はあるくらいだし」
そう言ってエリーはクレジットカードをぺらぺらとする。
「お前また盗みの金で!?」
「違うわよ。両親たちのお金もいくばくかあったのよ。それと高垣から金だけはもらっておいたは」
そういうエリーは自信ありげだったため僕より手持ちは多いことは想像に難くなかった。
「ったくついてこれなかったら置いていくからな」
亮介がそう言ってスケスケと歩き始めるとエリーはどこか嬉しそうにそして狡猾そうな笑みを浮かべていた。
……やはり女性と生き物には悪魔が住み着いている。
僕は女性の計算高さに舌を巻くしかなかった。




