次の一手へ
再び僕たちは街中を歩いていた。
植生された蘇鉄を背後にフレホで写真を撮る若者たち。
大通りはいつものように大量の渋滞を招いており、クラクションがそこかしこで鳴り響く。
いつもと変わらないホーチミンの街中。
それでも僕にはどれもかしこも無機質に見えて仕方がなかった。
「ま、考えててもしょうがねぇわ」
頭の後ろに手を回していた亮介は不意にポイと腕をやりスタスタと歩き始める。
「おい、亮介」
僕は急いでその後を追いかける。
気がつけばそこは市街地から北に出たところのバス停であった。バス停といっても立派な建物があり、いくつもバスが止まっているバスセンターという表現が近かった。
「俺たちは確かにここに来たな」
亮介がいう。
そういえばあの時は夜だったから気がつかなかったけど確かにここは僕たちがホーチミンに着いた時のバス停用だった。
「ここに何かあるのか?」
僕は亮介に尋ねる。
「ここから外に出てみる」
と亮介は言った。
なるほど。黒い霧とやらの中にいるのであればホーチミンの外から出ればいい。その影響が及ばない範囲にまで。
しかし、運が悪いのかそういう運命にあるのか。
現在川の洪水によりバスは動いていなかった。
「フォンあれ持ってるか?」
亮介は僕に問いた。
「あれって?」
僕は聞き返す。
「ウィンガーの名刺だよ。奴に会いに行く」
「なるほど。するってーとお前たちは今まさにこのホーチミンに囚われの身でまさに黒い霧の中にいるっていいてーんだな?」
意外にもウィンガーにはすぐ会うことができた。バス停にあった電話機で電話したところウィンガーにつながり市内地のカフェで落ち合うことになった。
「しかしなそれは違う。黒い霧とそれとは別の話だ」
ウィンガーはグラス片手にそう言い切った。
「何故ならそいつは俺も一緒だからだ」
と、ウィンガーは携帯を僕たちに見せる。しかし、日付らしいものはどこにも見当たらなかった。
「俺も何日か前から日付というものを探している。しかしみつからねぇ。そこで噂に入ったのが黒い霧だ」
ウィンガーは既に僕たちより前にこのホーチミンから出られないこと、奇妙な時間軸に囚われていることに気がついていたのだ。
「つまり今何かしらの原因で俺たちはこのホーチミンという鳥籠の中に入れられてしまった。そして皆気づくことなく今まで通りの生活を送っている」
ウィンガーは続ける。
「正確な日付、そして町の外に出られない。それ以外は普通。ただし黒い霧。俺はそれがこのことと関係しているんじゃないかと踏んでいる」
ウィンガーは空になったグラスの中の氷を頬張りガリガリと噛み砕く。
「そんであんたたちは謎の男にあって狙撃されまた朝に戻った。この奇妙な現象とそれとが全く無関係であるとは俺はおもわねぇ」
ウィンガーはいつものハットをくるりと回しニヤリと笑った。
「つまりね。俺はあんたがこの街に来たことが何かしらの原因だと踏んでいるんだよ、神宮司亮介」
ウィンガーは乗り出し気味に亮介に迫る。
「買いかぶりすぎだねぇ君」
亮介はやれやれと背中を椅子に預け仰け反る。
「俺はただの一般ピープーだよ? わかる?」
「そんなわけはないだろコンツェルンのご子息様」
ウィンガーの言葉に、「こらそんなはしたないことを言わない。子供がみてらっしゃるでしょうが」と亮介は彼を叱った。
「けど、まぁ黒いフードコートの男。たとえ夢だとしても異能の力だとしてもこの俺を撃ったことには違いない。利子付きで10倍払ってもらう」
と亮介はニヤリと笑った。




