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ロストテクノロジーは誰のためにあるの?  作者: 維岡 真
第2部 二人の英雄伝説ーLiberal wayfarerー ホーチミン編
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黒い霧

 話を聞くとウィンガーは流離のフリーライターとのことであった。


 世界を旅し道行く先々で取材をしたり面白い出来事に遭遇したらそのことを記事にする。


 実際に彼のサイトと彼が写っている写真を見てそれが本当の話であることは納得できた。


「かねがね噂は聞いていてね。あんたたちのことを一つ記事にできないかと思ってね」


 僕たちに接触して来たのはそれが理由だった。


 しかし僕たちを取材しようなんてとんだ変わったものだ。


「いやいやそうでもねぇさ。特にあんたーー神宮司亮介の生い立ちは目を見張るもんがある」


 男はそう言ってニヤリと笑う。


 おそらくこの2年間旅を付き添って来た僕よりも彼の方が亮介について知っている。


 悔しいが彼は亮介が何者であるかとことん調べ尽くしているのだろう。


「ふん、関係ないね」


 亮介はまさに興味がないといった様子でコップを傾けた。


 悪ふざけをして済まなかったとウィンガーが奢ってくれた一杯だった。


 ちなみに飲んでいる銘柄はクルボアジェXOという割と高級なブランデーのロックであった。


「過去はあくまで過去。俺は常に前を向いて生きているんだ」


 あと女の尻と、と亮介は付け加えた。


「カッカッカ。ウィットにも富んでるやがる。ますます気に入った」


 と、ウィンガーは膝を叩いて笑っている。


 今の亮介の言葉のどこに機知があったのかは不明だが。


「ところでお前さんたち”黒き霧”の噂は知っているか?」


 ウィンガーは急にまじめくさった様子で話す。


「”黒き霧”?」


 亮介と僕は怪訝そうな顔をした。


「ああ、なんでもホーチミンのどこかで急に現れては何人かを連れ去るという”黒き霧”。初めは都市伝説か何かの類だと思っていたがどうやら調べていく内にそれが本当に存在するもんだとわかってな」


 ウィンガーが一枚の写真を見せる。


 写真の切れ端に黒いモヤモヤのような影が映っていた。


「これが……」


「ああ、”黒き霧”だと言われている。この一枚は近くで写真を撮っていた観光客がたまたま捉えたものだが、確かに写真当日にその近辺で失踪事件が重なっていた」


 写真ではよくわからないが確かにその雰囲気はただならぬ感じで少なくとも良質なホットケーキのような暖かく柔らかいそれではなかった。


「で、お前はどうしたいんだ。これを俺たちに見せて。まさか俺たちにそいつの正体を確かめてほしいってんじゃないだろうな」


 亮介が酒を含んだ後ギロリとウィンガーを牽制する。


 それに対しウィンガーは笑って、


「そんなわけはないだろ……ただ」


 含み言葉を持たせてウィンガーが口を紡ぐ。


「ただ?」


「なんでもこれが例のホーチミン地下鉄4号線と絡んでいるらしくってね。あんたらならなんか知らないかと思って話させてもらったんだ」


 ただその様子じゃ知らないようだな、とウィンガーは付け加えた。


 僕はこのことについて初耳だった。


 そして亮介もまた知っている様子ではなかった。


「悪かったな楽しいお酒の時間を邪魔しちまって。俺はこれでトンズラこくとするぜ」


 そしてウィンガーは僕たちに紙の名刺を渡す。


「もしなんかあったり噂を聞いたってんならここに電話してくれ。もちろん取材を受ける気になったんってならなおさらだ」


 そういってウィンガーは右手の人差し指と中指を立てウィンクして去ろうとする。


「ちょっと待てよ」


 それを亮介が制した。


「なんだい?」


「酒代」


 亮介はシリアスな顔で言う。


「この酒代ちゃんと払ってんだろうな?」


 そう言う亮介にウィンガーは腹をよじって笑い、


「会計は済ませてあるよ。神宮司コンツェルンのお坊ちゃん」


 と背中越しに手をひらひらさせて去っていった。

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