エリーの憎しみ
ーー私たち家族は慎ましくも幸せな生活を送っていた。
少女ーーエリートいう名の少女が語り出す。
ーー父親、母親、私の典型的な家族。
父はフォーの路上販売をしていて母は裁縫と家事をしていた。
私も学校にはいかなかったけど父の販売を手伝ったり、外で遊んだりで楽しかった。
「学校行けよ」
そう悪態をつく亮介を僕は肘で突き野次を止める。
ーーそんなある日のことだった。
政府関連の役人の人たちがうちを訪ねてきた。
父と母と話しして後で聞いたけどなんでもうちが大規模な再開発の場所に含まれているから立ち退きをして欲しいとの要請だったみたい。
代わりの家も用意してくれる算段で近隣住民も大方許可は取れているとのことだった。
それに迷惑料っていうの?
その代金も少なくない量いただいた。
「なんだよ。めっちゃ裏山な話じゃん」
ーーでもそれが不幸の始まりだった。
新しく新居になって家も綺麗になってお金もたくさん入ったから父は露店をやめて会社に就職することになった。
母も裁縫はやめて家事に専念して、私にも学校に行くよう促した。
地べたの雛鳥が空を知ったかのように私たちは上の生活をしり欲に目が走った。
その頃から少しずつ家族の心が離れて行く気がした。
「なんでだよ。完全に成功してんじゃねーか。今のご時世そんな勝ち確定のルート歩める奴もいねーぞ」
ーー自由の時間が増えるってのはようは自分のしたいことができるようになるということ。
父も仕事のついでに帰りが遅くなりまた帰らない日も増えていった。
母も近所の集まりだっていってよく出て行くようになったけど私にはどこかの男と密会しているのがわかった。
それでもお互いに沈黙してやり過ごしていたけどその生活にも限界があった。
ある日家から父が出ていった。
もう昔の生活に戻れないことが私にはわかった。
そして、父がそれから半年後に仕事の海難事故にあって死んだことを知った。
「……」
僕と亮介は黙って話を聞いていた。
いつの間にか机の上のソーイも冷えていた。
ーー母もいつしかお金だけ置いて家から離れることも少なくなかった。
私は学校にもいかずホーチミンの街を徘徊した。
私は全てを憎んだ。
あの立ち退きから私たちの家族は全てを失った。
だから私は復讐をしようとした。
役所に行って民間に行って情報を集めそして私たちの立ち退きの計画を作った者たちの存在を知った。
ベトナム政府、ベトナム中央建設、Pasific International.Co Ltd。
このPasific International.Co Ltdってのはあんたの日本も噛んでいるんでしょ?
と、エリーは亮介を睨んだ。
それらは全てパーティーの主催者だった。
「なるほど。だからあの場に現れたってわけか」
合点がいった。
彼女がなぜ海の向こうの街を憎んでいるのかも、そしてパーティー会場へ現れたのかも。
でも……。
「諦めるんだな。敵にするには大きすぎる」
と、僕も思っていることを亮介が言った。
「ベトナムだの日本だの政府が絡んでるんだろ? それに形はどうであれお前らにきちんと説明してお前らは納得して立ち退きをした。向こうに非はねぇよ」
亮介は歯に着せぬ物言いをする。
エリーはそんなことはわかっているといった様子で亮介を睨んだ。
「そういうことだ。んじゃお子ちゃまは家に帰りなベイベー」
そういって亮介は席を立って千鳥足で鼻歌を歌いながら店を出ていった。
エリーは冷め切ったご飯を見つめていた。
「これ。何かあれば」
僕はエリーに紙を渡して亮介のあとを追った。




