Run & ChaseⅡ
僕たちはあえて走って追いかけず彼女に気づかれないようにコソコソと尾行した。
「その尻尾、絶対に捕まえてやる」
ビルの角から顔を覗かせ彼女の動向を伺う。
「お前は二つの罪を犯した。①窃盗、②お姉さんたちとのplay妨害」
亮介も僕の上から顔を覗き恨めしそうな声を出した。②に関しては僕としてはむしろ助かったのだが。しかし彼女が盗むことがなければそもそも②の事象は発生しなかったわけだからやはり憎むべきなのかもしれない。
彼女はキョロキョロしながら路地に入っていくのが見えた。
「チャンスだ。おい、フォン、俺は裏手から回るからお前はこのまま彼女の背後をつけ!」
とっさに指示を下して亮介はすぐさま裏手を取るためにかけていった。
僕も亮介の指示に従い表通りを駆けて彼女の入った路地を目指した。
彼女は軽い足取りで路地裏を歩いている。僕は亮介が向こう側に現れるまで様子を伺った。
「ここであったが100年目いいいいいいい!」
救急車のドップラー効果のようにだんだん声が大きくなって亮介が現れた。
彼女はびっくりして急いでこちらの来た道を帰ろうとする。
「そこまでだ!」
そこへ僕が彼女の行く手を塞いだ。僕と亮介はジリジリと彼女に近づく。
彼女は一瞬、躊躇って僕の方へ駆けて来た。小柄な僕の方なら突破できると踏んだのだろう。僕に接近したところで彼女がポケットから何か出すのが見えた。
ナイフだ。そう思った瞬間には彼女は鋭利なそれを振り上げ僕に向かって振りかざそうとした。とっさのことに反応の遅れた僕はさすがに躱すことしかできず彼女に道を譲ることになる。
ナイフが空を切った後、彼女は脇目も逸らさず走って逃げていった。
「フォン!」
亮介の呼びかけに僕は気を取り直して彼女を追う。
本日三度目の鬼ごっこが開催された。
追われ、追い、追う。
総距離にしたらハーフマラソンぐらい走ってるんじゃないかと思われた。彼女は足の速さも体力も女子にしてはずば抜けているのだろう。僕たちを一度は巻いたし今もなかなか追いつけないでいた。
もちろんここがおそらく彼女のホームグランウンドであることを察するに地の利を生かすことができるから有利なのかもしれないがそれを抜きにしても敵ながら賞賛に値するものだった。
一人の少女を二人の青年が追いかけている黄昏時のホーチミン。背景をビーチにして人影のシルエットにしたら青春の一ページにでもなりそうな図だ。
なかなか巻くことができず、このままいけば追いつかれてしまうとでも思ったのだろうか彼女は車道に飛び出し軽い身のこなしで車の上に飛びついた。
クラクションもなりあわや事故になりそうで肝っ玉を冷やした。
常に渋滞気味のホーチミンの車道だからなせる技だろう。
僕が逡巡しているとふと周りに亮介がいないことに気づき、見ると亮介も同じく違う車に飛び乗り彼女の後を追った。
「くそっ!」
僕も思い切って皆の後に続いた。
クラクションが鳴り響いている。
彼女と亮介と僕と。三人が10メートル間隔くらいで走行する車の上に乗っていた。
彼女は「しつこいわね」と言わんばかりに僕たちをキッと睨む。
「へっなめんじゃねー」
そう言って亮介は車から車に飛び乗りじわりじわりと彼女に近づいていく。僕は慌てて追いかけようとするが流れる車に飛び移る勇気は持てなかった。
彼女も近く亮介を見ながらどうやって逃げようかと思案しているようだった。
そしてついに彼女は左手に見えた草むらめがけて決死のダイブを行なった。一車線挟んでのダイブに成功した彼女は転がりながら受け身をとりよろけて再び歩き出した。
少し遅れて亮介が、そしてこれまた少し遅れて僕が車から飛び降り彼女の後を追った。再びホーチミンの街で鬼ごっこ。通行人とぶつかりそうになりながらも僕たちは彼女を追った。




