同期たち
事件前日 2016年11月7日 福岡県博多市 霊気力開発機構新人宿舎
「おいこら植島」
植島研人は叩き起こされる。まだ明け方だ。
「んあ」
「てめー俺の味噌カツ食っただろこの野郎」
声の主が同期の磯松のものであったことが植島にはわかった。
「味噌カツ? はっ、知るかよボケ」
植島はそれだけ言うと再び布団に潜った。
「おい、てめーこら起きろや」
ちなみに正確な時間はAM5:30だった。
「あのなぁ」
植島は我慢ならず起きる。
「百歩譲って食ったのが俺だとしよう。俺じゃあるわけないが俺だとしよう。だがな、味噌カツを食っただの食ってないだので朝から人の眠りを邪魔するんじゃない。貴様は堀の中から出てきた人骨か。気持ち悪い」
「てめーが食ったんじゃねーか」
「いいか話を聞け単細胞。俺じゃないが俺という仮定で話したんだウスノロ豚骨が」
「んだとー貴様。じゃあ……」
磯松はそう言ってベットに付いている何かを指につけて、
「これはなんなんだ?」
と聞いた。見るとそれは味噌のソースに思えた。
「なんだそれはこっちが聞きたい」
「だからてめーが食ったんだろ!」
「違うと言っている。断じて」
植島はわけがわからなかった。昨日の晩は確かにこの部屋で寝て、磯松の味噌カツを食った覚えがない。しかしそれなのに味噌カツのソースらしきものが植島のベッドについていた。これだけ見れば植島が犯人だと疑われても仕方がない。しかし、そもそも就寝中の人の部屋に勝手に入り叩き起こすというプライベート侵害の磯松の行為は訴求するべきだし、身に覚えのないトンカツソースを神聖なベッドに付けられた植島も被害者だと言って過言ではない。こんな酷い仕打ちをする同期は一人しかおらず、彼の能力であればそれは可能である。
「おい、吉川の部屋に行くぞ」
吉川の部屋は別フロアの3階にあった。4階にあった植島と磯松は階段を降りて吉川の部屋に行く。吉川の部屋の前の403号室の前に立ち、部屋の扉を開けた。
「おい吉川」
入った瞬間女の香水の匂いがした。
見ると吉川は裸の女とベッドで寝ていた。
「……」
うーんとなった二人は目を覚ます。
その後女性の悲鳴と何があったかを想像することは容易ではない。
「いいかてめーは少しは自重しろ」
植島は指をさして吉川を攻め立てる。
「はっはいいじゃねーかトンカツの一つや二つ」
吉川は笑ってごまかした。しかしそんな様子の彼を磯松が許すはずなかった。
「おいっ、吉川てめー」
磯松は吉川の胸ぐらを掴んで怒りをぶつける。
「なんでこんなことした?」
「なんでって……」
そういうと磯松の後頭部に陶器がぶつかりその痛さに思わず呻き吉川の服から手が離れた。吉川はやれやれと言わんばかりに服を整え、
「お前がどんくさいから面白いんだよ。こうすると」
と、高らかに笑って言った。
「てめー……」
磯松は立ち上がり吉川に殴りかかろうとする。
「おっと」
吉川はそれを華麗によけものともしない表情だ。
「てめー殺してやる」
磯松が殴りかかろうとした瞬間、植島が彼を止めた。
「やめとけ」
植島の言葉に磯松の動きが止まる。
「どうして止めんだよ。明らかにこいつが悪いだろ?」
磯松が信じられない表情で植島を向く。植島は吉川を見つめながらつかつかと立ち寄り、
「なんでこんなことをしたんだ?」
真顔で言った。その様子に少したじろぎながらも吉川は、
「だから面白いからって言ったじゃん」
と砕けた表情で言った。
「磯松のことはわかる。問題はなんで俺のベッドだったんだってことだ」
植島は表情を変えず淡々と吉川に詰問する。さすがの吉川もため息をつき、
「特に理由はねぇよ。たまたまお前の部屋に擦り付けただけ」
と手を上げて言った。
「そうか」
植島はそれだけ言うと背を向け、
「あとでてめーの能力で俺のベッドを綺麗にしとけよ」
と、部屋から出ていった。
「へいへい」
と吉川はため息をつく。
「………ええっ!?」
磯松だけが納得いかない表情をしていた。